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最新の研究成果に基づいて定期的に更新している、
科学的根拠に基づくがん情報の要約です。

大腸がんの遺伝学(PDQ®)

  • 原文更新日 : 2017-03-30
    翻訳更新日 : 2017-05-16

PDQ Cancer Genetics Editorial Board

医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、大腸がんの遺伝学について、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。


本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Cancer Genetics Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。

がんの遺伝学 大腸がん

要旨

本要旨は、大腸がん(CRC)の遺伝学に関するPDQ要約で扱われているテーマをレビューし、各テーマに関する証拠を記述した後述の詳細なセクションへのハイパーリンクを示すものである。


  • 遺伝およびリスク


    大腸がんへの遺伝的寄与を示唆する因子には以下のものがある:1)大腸がんおよび/またはポリープについて強い家族歴があること;2)大腸がん患者において複数の原発がんがみられること;3)大腸がんの遺伝性リスクの原因となる既知の症候群と合致する他のがん(例、子宮内膜がん)が家系内に存在すること;4)若年期で大腸がんの診断がなされたこと。遺伝性大腸がんは常染色体優性形式で遺伝することが最も多いが、2つの症候群は常染色体劣性形式で遺伝する(MYH関連ポリポーシスおよびNTHL1)。腺腫性ポリープおよび大腸がんが発生するリスクに影響しうる家族歴と連動するその他の危険因子には、食事、非ステロイド性抗炎症薬の使用、喫煙、飲酒、腺腫性ポリープの切除を伴う大腸内視鏡検査、および身体活動がある。


    最も多い遺伝性大腸がん症候群であるリンチ症候群(LS)に関連するミスマッチ修復(MMR)遺伝子における病原性多様体をがん患者が保有する確率の推定に、少なくとも3つの検証済みのコンピュータモデルを用いることが可能である。これにはMMRpro、MMRPredict、およびPREMM1,2,6予測モデルが含まれる。これらのモデルのいずれかで定量化されたリスクが5%以上の個人はしばしば遺伝学的評価および検査に紹介される。


  • 関連する遺伝子および症候群


    遺伝性大腸がんには詳細な報告がある次の2つの形態が存在する:1)ポリポーシス(家族性大腸腺腫症[FAP]および APC 遺伝子の病原性多様体を原因とする軽症型FAP(AFAP);および MYH 遺伝子の病原性多様体を原因とするMYH関連ポリポーシスを含む);ならびに2)DNA MMR遺伝子( MLH1 MSH2 MSH6 、および PMS2 )および EPCAM の生殖細胞病原性多様体を原因とするLS(しばしば遺伝性非ポリポーシス大腸がん[HNPCC]と呼ばれる)。他の大腸がん症候群およびその関連遺伝子には、オリゴポリポーシスPOLEPOLD1)、 NTHL1 若年性ポリポーシス症候群 BMPR1A SMAD4 )、コーデン症候群PTEN)、およびポイツ・ジェガース症候群STK11)がある。これらの症候群の多くは結腸外のがんおよび他の症状発現にも関連している。過形成性ポリープの出現を特徴とする鋸歯状ポリポーシス症候群には家族性コンポーネントがあるとみられるが、その遺伝子的根拠については依然不明である。これらの症候群のいくつかの自然経過はなおも報告途上である。その他多くの家系に大腸がんおよび/または大腸腺腫の集積がみられるが、確認できる遺伝性症候群との間に明らかな関連はみられず、これらはひとまとめにして家族性大腸がんとして知られている。


    全ゲノム検索は、大腸がんを含む多くの複合疾患に対する一般的な低浸透度の感受性アレルを同定する上で有望であることを示しているが、その所見の臨床的有用性については依然として不明である。


  • 臨床管理


    大腸がんと新たに診断を受け、かつ特定の年齢の個人すべてを、MMR欠損を評価する分子遺伝学的診断法による腫瘍検査によりリンチ症候群について評価することが多くの施設で標準治療となりつつある。腫瘍検査に対する普遍的スクリーニングアプローチが支持されており、このアプローチでは診断時の年齢やリンチ症候群についての既存の臨床基準を満たすかどうかに関わりなくすべての大腸がん症例について評価を行う。70歳以下のすべての大腸がん患者およびそれ以上の年齢で改訂版Bethesdaガイドラインを満たす患者についてリンチ症候群の検査を行うより費用対効果の高いアプローチが報告されている。腫瘍の評価はリンチ症候群に関連するMMR蛋白の発現に対する免疫組織化学検査またはマイクロサテライト不安定性(MSI)検査BRAF検査、およびMLH1高メチル化解析で始めることが多い。


    遺伝性大腸がん症候群の個人において大腸がんのスクリーニングおよびサーベイランス用の大腸内視鏡検査が一般的に実施されており、生存転帰の改善と関連付けられている。例えば、1~2年ごと、ある研究では最高3年ごとの大腸内視鏡検査によるリンチ症候群患者のサーベイランスにより大腸がんの発生率および死亡率が低下することが示されている。遺伝性大腸がん症候群に関連する他のがんに応じ、一部の遺伝性大腸がん症候群については結腸外サーベイランスも主要な評価の1つとなっている。例えば、定期的なFAP患者における十二指腸の内視鏡サーベイランスにより生存が改善することが示されている。


    予防的手術(結腸切除術)によってもFAP患者における生存が改善することが示されている。リスク低減手術の時期および範囲は通常、ポリープの数、大きさ、組織学、および総体的症状によって異なる。リンチ症候群および大腸がんの診断を受けた患者では、大腸がんについて広範な切除を受けた患者は、部分切除術を受けた患者よりも異時性大腸がんおよび大腸腫瘍に関係する追加の外科的手技が少ないことと関連している。大腸がんを生じたリンチ症候群患者におけるより広範な切除術と部分切除術実施との比較では生存の優位性は示されていない。手術に関する意思決定では、患者の年齢、併存疾患、腫瘍の臨床病期、括約筋機能、および患者の希望を考慮する必要がある。FAPでは、性別およびデスモイド腫瘍の家族歴も考慮する必要がある。


    FAPおよびリンチ症候群の管理では化学予防薬の研究も行われている。FAP患者では、セレコキシブおよびスリンダクがポリープの大きさの縮小および数の減少と関連付けられている。十二指腸ポリープのあるFAPまたはAFAP患者を対象に、プラセボとの比較でスリンダクと上皮成長因子受容体阻害薬であるエルロチニブの併用の有効性を評価した二重盲検ランダム化比較試験で、エルロチニブにFAP患者における十二指腸ポリープを抑制する可能性があることが示唆されている。進行中の試験で、より低用量のエルロチニブ単独により十二指腸ポリープの負担を有意に低下させられるかが検討されている。アスピリンの使用(1日600mg)は、ある大規模ランダム化試験でリンチ症候群患者におけるがん発生に対する予防効果を有することが示されている;進行中の研究でより低用量について検討が行われている。


    リンチ症候群に関連するものを含むミスマッチ修復欠損腫瘍において、免疫系を刺激する新しい治療法が評価された。ミスマッチ修復欠損腫瘍における高密度の免疫浸潤およびサイトカインの豊富な環境により臨床転帰が改善する可能性がある。腫瘍により誘導される免疫抑制を媒介する原因となる重要経路はPD-1が媒介するチェックポイント経路である。最近の第II相研究で、MMR欠損を伴うおよび伴わない進行した転移大腸がん患者を対象に、抗PD-1免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブが使用された。MSI腫瘍では無増悪生存率および奏効率について良好な反応が認められたが、マイクロサテライト安定性腫瘍では認められなかった。


  • 心理社会的問題および行動の問題


    心理社会的因子は遺伝性がんリスクおよびリスク管理戦略のための遺伝子検査に関する意思決定に影響を及ぼす。LSおよびFAPに関する遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査の受診率は研究間で大きく異なる。リンチ症候群家系における遺伝カウンセリングと遺伝子検査の受診に関連付けられている因子には、子供がいること、罹患した近親者の人数、大腸がん発現リスクの認知度、大腸がんについて考える頻度などがある。心理学的研究から、キャリアと非キャリアの両方におけるリンチ症候群の遺伝子検査後に、特に長期的に苦痛のレベルが低いことが示されている。しかしながら、他の研究はFAPについての遺伝子検査後に苦痛が増加する可能性を示している。結腸がんおよび婦人科がんのスクリーニング率が、結果の開示後1年以内はMMR病原性多様体キャリアにおいては増加または維持されているが、非キャリアではスクリーニング率が低下することが示されている。非罹患者に対するスクリーニングの推奨は一般集団に適用されるものであることから後者は予想されるものである。FAP患者におけるQOLに関する変数を測定する研究は正常範囲の結果を示している;しかしながら、これらの研究は、FAPに対するリスク低減手術が少なくとも一部の罹患者のQOLにマイナスの影響を及ぼす可能性を示唆している。大腸がんの遺伝性リスクについての患者の家系員とのコミュニケーションは複雑である;性別、年齢、および血縁度がこの情報の開示に影響を及ぼす要素の一部である。高リスク家系における心理社会的問題および行動の問題をより深く理解し、これらに対処するための研究が進行中である。


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[注: 本要約で用いられている多くの医学および科学用語についての解説がNCI Dictionary of Genetics Termsに用意されている。リンクが張られた用語をクリックすれば、別のウインドウにその定義が表示される。]

[注: 本要約に記載されている遺伝子の多くは、Online Mendelian Inheritance in Man(OMIM)データベースに掲載されている。遺伝子名または疾患名の後にOMIMと記述されている場合、OMIMをクリックすると詳しい情報にリンクされる。]

[注: 現在、遺伝学的多様性を記載するための用語体系を変化させるべく、遺伝学のコミュニティにおいて協調的な取組みが進められている。その変化とは、研究対象の個人または集団と参照配列との間に存在する遺伝学的な差異を記載する際に、従来の「mutation(突然変異ないし変異)」ではなく、「variant(多様体ないしバリアント)」という用語を使用するというものである。多様体はさらに、良性(無害)(benign [harmless])、おそらく良性(likely benign)、意義不明(of uncertain significance)、おそらく病原性(likely pathogenic)、病原性(疾患を引き起こす)(pathogenic [disease causing])のいずれかに分類することができる。本要約では、全体を通じて、疾患を引き起こす突然変異に対して病原性多様体(pathogenic variant)という用語を使用する。多様体の分類に関する詳しい情報については、がん遺伝学の概要に関する要約を参照のこと。]

大腸がん(CRC)は男女ともに3番目に診断頻度の高いがんである。

2017年に推定される大腸がんの新規症例数および死亡数: [1]


  • 新規症例数:135,430。

  • 死亡数:50,260。

大腸がん患者の約75%は散発性疾患で、遺伝によるものであるという明白な証拠がない。残る25%の患者には大腸がんの家族歴があり、遺伝的な関与、家族内に共通してみられる曝露、またはその両者が合わさっていることが示唆される。結腸がんが好発する一部の家系では、遺伝性がんリスクの原因として、遺伝子病原性多様体がいくつか特定されている;これらの病原性多様体が大腸がんの全症例に占める割合はわずか5~6%と推定される。その他の未知の遺伝子および遺伝的背景因子が、非遺伝的危険因子とともに家族性大腸がんの発現に関与している可能性が高い。

(散発性大腸がんに関する詳しい情報については、大腸がんのスクリーニング大腸がんの予防結腸がんの治療;および直腸がんの治療に関するPDQ要約を参照のこと。)

大腸がんの自然経過

大腸腫瘍は良性増殖から浸潤がんにまで広範囲に及ぶ新生物であり、主に上皮由来である(すなわち、腺腫ないし腺がん)。

病理医は病変を以下の3つのグループに分類している:

  1. 一般には前がん病変とはみなされていない非腫瘍性ポリープ(過形成性、若年性、過誤腫性、炎症性、およびリンパ性のポリープ)。
  2. 腫瘍性ポリープ(腺腫性ポリープおよび腺腫)。
  3. がん。

しかしながら、若年性ポリポーシス症候群、ポイツ・ジェガース症候群患者における結腸がんリスクのかなりの高さを研究が示唆しているが、これらの症候群と関連する非腺腫性ポリープは歴史的に非腫瘍性と考えられてきた。 [2] [3] [4]

結腸腺腫の個人歴があると結腸がんの発生リスクが高くなることが疫学研究により示されている。 [5]

このような観察について、2つの相補的な解釈は以下のようなものである:

  1. 腺腫は、結腸が先天的または後天的に腫瘍を形成しやすいという傾向を反映している可能性がある。
  2. 腺腫は、結腸がんの原発性前駆病変である。

95%を超える大腸がんはがん腫であり、そのうちの約95%が腺がんである。腺腫性ポリープは良性腫瘍であるが、悪性転換する可能性があることは十分に認識されている。これらは悪性度が低い順に、管状腺腫、管状絨毛腺腫、絨毛腺腫の3つの組織型に分類されている。大腸がんのほとんどが腺腫から発生するという直接的な証拠はないものの、腺がんは腺腫から発生すると一般的に考えられており [6] [7] [8] [9] [10] 、それは以下の重要な観察に基づいている:

  1. 大腸腫瘍内には良性と悪性の組織が認められる。 [11]
  2. 腺腫を有する患者を20年間追跡すると、腺腫部位にがんが発生するリスクは25%で、一般集団で予想される発生率よりはるかに高い。 [12]

腺腫における以下の3つの特徴は、がんへ移行する可能性に強く相関している: [11]

  1. サイズが大きい。
  2. 病理学的に絨毛性。
  3. 腺腫内の異形成度。

さらに、腺腫性ポリープの切除は大腸がん発生率の低下と関連している。 [13] [14] 腺腫のほとんどはポリープ様のものであるが、平坦および陥凹病変の割合は従来の認識より多い可能性がある。大きな病変、平坦な病変、および陥凹病変は、高度の異形成を示す可能性が高いと考えられるが、まだ明確に証明されたものではない。 [15] [16] このような病変を同定し、生検を施行して除去するには、特殊な技術が必要であろう。 [17]

大腸がんの危険因子としての家族歴

大腸がんの家族歴に関する最も初期の研究の一部はユタ州の家族に関するもので、その報告では大腸がんにより死亡した患者の第一度近親者における大腸がんによる死亡者数(3.9%)は、性別および年齢を一致させた対照群(1.2%)より多かった。 [18] 以来、この差は多数の研究で再現されており、罹患者の第一度近親者は通常の2~3倍の大腸がんリスクを有することが一貫して認められている。研究デザイン(ケースコントロール、コホート)、抽出枠、サンプルサイズ、データの検証方法、分析方法、研究の実施国はさまざまであるが、リスクの大きさは一貫している。 [19] [20] [21] [22] [23] [24]

数件の集団ベース研究から、結腸がん患者の近親者に大腸がんおよびその他のがんの発生の家系的な関連性が示されている。 [25] がん家系を扱う医療機関の患者集団から得られたデータを基に、家族歴のカテゴリー別に大腸がんの相対および絶対リスクが推定された(表1を参照のこと)。 [26] [27]

家族性大腸がんリスクの系統的レビューおよびメタアナリシスが報告された。 [27] 分析に含まれた24件の研究のうち、1件を除くすべてで、罹患した第一度近親者が1人いる場合、大腸がんリスクが増加することが報告された。このプール研究における大腸がんの相対リスク(RR)は、罹患した第一度近親者の家系員が1人いる場合、2.25(95%信頼区間[CI]、2.00-2.53)であった。11件の研究中、8件では、発端者のがんが結腸に発生した場合は、直腸に発生した場合よりもこのリスクはわずかに高かった。プール解析により、結腸がんおよび直腸がん患者の近親者におけるRRはそれぞれ、2.42(95%CI、2.20-2.65)および1.89(95%CI、1.62-2.21)であったことが明らかにされた。この分析では、腫瘍の部位(右側 vs 左側)に基づく結腸がんのRRの差は示されなかった。

罹患した家系員の数およびがん診断時の年齢が大腸がんリスクと相関した。大腸がんの第一度近親者が2人以上いると報告した研究のRRは3.76(95%CI、2.56-5.51)であった。最も高いRRが観察されたのは、発端者が45歳未満の個人に診断された場合、45~59歳で診断された発端者の家系員、60歳以上で診断された発端者の家系員であった(それぞれ、RR 3.87、95%CI、2.40-6.22 vs RR 2.25、95%CI、1.85-2.72 vs RR 1.82、95%CI、1.47-2.25)。このメタアナリシスにおいて、第一度近親者における腺腫と関連する大腸がんの家系的リスクが分析された。プール解析により、大腸がんのRRは、腺腫を有する第一度近親者が1人いる場合、1.99(95%CI、1.55-2.55)であることが示された。 [27] この知見は確認されている。 [28] 他の研究により、腺腫の診断時年齢は大腸がんリスクに影響し、腺腫が若い年齢で診断されるほどRRが高くなることが報告されている。 [29] [30] いずれのメタアナリシスでも同様に、分析結果に影響を与える可能性がある潜在的なバイアスがあり、その中には、対象に含めた研究の確認が不完全で非ランダムであること;公表バイアス;ならびにデザイン、対象集団、および対照選択に関する研究間の不均一性といったバイアスがある。この研究は、家族性大腸がんリスク、大腸がんおよび腺腫の両方の診断時年齢、罹患した家系員の多重度の間に有意な関連があることを強く支持している。

表1.大腸がん(CRC)発生の推定相対および絶対リスク

家族歴 大腸がんの相対リスク 79歳までの大腸がんの絶対リスク(%)
CI = 信頼区間。
aSurveillance, Epidemiology, and End Resultsデータベースからのデータ。
b罹患近親者がいる人の大腸がんの絶対リスクは、大腸がんの相対的リスク [27] および79歳までの大腸がんの絶対リスクaを用いて計算された。
家族歴なし 1 4a
大腸がんの第一度近親者が1人いる 2.3(95%CI、2.0-2.5) 9b
大腸がんの第一度近親者が2人以上いる 4.3(95%CI、3.0-6.1) 16 b
45歳までに大腸がんと診断された第一度近親者が1人いる 3.9(95%CI、2.4-6.2) 15b
第一度近親者に大腸腺腫患者が1人いる 2.0(95%CI、1.6-2.6) 8b


家族歴に大腸がん患者の近親者が2人以上含まれる場合は、遺伝症候群の可能性はかなり高くなる。この評価の第一段階は、家族歴を詳細に見直し、罹患している近親者の数、相互の血縁関係、大腸がんと診断された年齢、多発性原発性大腸がんの存在、および遺伝性大腸がん症候群と密接なかかわりがあるその他のがん(例、子宮内膜がん)の存在について明らかにすることである。(詳しい情報については、本要約の主要遺伝子による症候群のセクションを参照のこと。)若年の受診者が大腸がんの家族歴を報告する場合、その個人は、同じく陽性の家族歴を報告する高齢の個人よりも高リスクの家系図を代表している可能性が高くなる。 [31] 今日では、コンピュータモデルを用いて大腸がんの発生確率を推定することができる。こうしたモデルは、がん発生のリスクが高い個人だけでなく、平均リスクをもつ個人に対しても、遺伝カウンセリングを提供する際に有用となりうる。検証済みのモデルの少なくとも3つについては、ミスマッチ修復(MMR)遺伝子における病原性多様体を保有する確率の予測に用いることも可能である。 [32] [33] [34]

図1は、さまざまな家族リスクの設定で生じる結腸がん症例のタイプを示している。 [35]

図1.さまざまな家族リスクの設定で生じる結腸がん症例の割合。Elsevierから許諾を得て転載:Gastroenterology, Vol. 119, No. 3, Randall W. Burt, Colon Cancer Screening, Pages 837-853, Copyright (2000).

大腸がん素因の遺伝

大腸がんのリスクに関連する数種類の遺伝子が同定されている;これらの遺伝子は本要約の結腸がん遺伝子のセクションにおいて詳細に記載されている。大腸がん素因をもたらすことが知られている病原性多様体は、そのほぼすべてが常染色体優性の形式で受け継がれる。 [36] 現在までに、少なくとも1つの常染色体劣性遺伝の例として、MYH関連ポリポーシス(MAP)が特定されている。(詳しい情報については、本要約のMYH関連ポリポーシス[MAP]のセクションを参照のこと。)このため、ある家系においてがん素因の常染色体優性遺伝が示唆されることは、その家系員では発がんリスクが高くがん素因をもたらす病原性多様体が存在するという可能性を示す重要な指標である。そうしたものとしては、以下のものがある:

  1. 常染色体優性疾患におけるがん素因の垂直遺伝。(垂直遺伝とは、連続した複数世代内に遺伝的素因が存在する場合をいう。)
  2. 男女ともに遺伝するリスクは50%である。両親のいずれかが、常染色体優性遺伝的素因を有する場合、子供それぞれにその素因が遺伝する可能性は50%である。そのリスクは男児も女児も同等である。
  3. これ以外の臨床的特徴もまたリスクが遺伝したものであることを示唆する:
    • 遺伝的素因を有する人にみられるがんは、散発例(非遺伝性)より若い年齢で発生するのが一般的である。 [37]

    • 大腸がんの素因には、本要約の主要遺伝子による症候群のセクションで詳述されているように、子宮内膜がんなどの他のがんの素因が含まれることがある。

    • さらに、2つ以上の原発がんが同一患者に発生することもある。これは同種類の多発性原発がん(例えば、2つの別々の原発性大腸がん)である場合と、異なる種類の原発がん(例えば、同一患者における大腸がんと子宮内膜がん)である場合がありうる。

    • 非腫瘍性結腸外症状の存在から、遺伝性結腸がん素因症候群(例えば、家族性大腸腺腫症[FAP]における網膜色素上皮の先天性肥大およびデスモイド腫瘍)が示唆されることがある。

    • まれな腫瘍(例えば、副腎皮質、皮脂腺がん、膨大部、小腸)がリー-フラウメニまたはFAPなど、遺伝性がん症候群の存在を示す手がかりになることがある。

    • 複数のポリープの存在は、遺伝性結腸がん素因症候群を示唆する場合がある。オリゴポリポーシス(10~15個と少数のポリープ)に対する感受性が明らかになったため、臨床医、特に消化管内視鏡医は、家族歴が完全に陰性であるときでも、軽症型FAP(AFAP)、MYH関連ポリポーシス、POLD1/POLEなどの遺伝性疾患の可能性を以前よりも考慮するようになっている。またオリゴポリポーシスは多様な病態(過誤腫、無茎性鋸歯状ポリープ、無茎性鋸歯状腺腫を含む)にも関係するため、ポリープ数とポリープの組織型に十分注意することが、遺伝子検査および/またはさらなる臨床評価の実施が適切かどうかを判断するために役立つ。

遺伝性大腸がんには詳細な報告がある次の2つの形態が存在する:APC遺伝子の生殖細胞病原性多様体によるFAP(AFAPを含む) [38] [39] [40] [41] [42] [43] [44] [45] 、およびDNA MMR遺伝子の生殖細胞病原性多様体により発生するリンチ症候群(LS)(遺伝性非ポリポーシス大腸がん[HNPCC]とも呼ばれる)。 [46] [47] [48] [49] (図2はリンチ症候群の典型的な家系を示しており、上述の大腸がん高リスクの指標のいくつかが強調されている。)その他多くの家系に大腸がんおよび/または大腸腺腫の集積がみられるが、確認できる遺伝性症候群との間に明らかな関連はみられず、これらはひとまとめにして家族性大腸がんとして知られている。 [36]

図2.リンチ症候群家系図。この家系図は、結腸がんまたは子宮内膜がんを(一部の個人では若い年齢で)発症した罹患家系員など、リンチ症候群を有する家系の典型的な特徴の一部を示す。リンチ症候群家系は、これらの特徴の一部またはすべてを示す可能性がある。リンチ症候群家系には、このほか消化管がん、婦人科がん、泌尿生殖器がん、または他の結腸外のがんの個人が存在する場合もある。図に示しているように母系または父系を通して、常染色体優性症候群としてリンチ症候群が伝播する可能性がある。

大腸がんリスクの家族歴を同定する上での難しさ

臨床の場で家族歴を用いて個人のリスクを評価する際、またがん研究に適した家系を同定する際には、家族歴データの正確性と完全性を考慮せねばならない。報告された家族歴が間違っている場合や、がんに罹患した近親者に気付いていない場合がある。 [50] さらに、小家族の場合や若年死が生じた場合には家族歴から得られる情報量には限りがある。また、浸透度が不完全なことから、大腸がんの遺伝的素因を有しているにもかかわらず、がんを発症していない人もおり、家系の中で一部の世代が飛び越えているような印象を与える。

患者報告による結腸がんの家族歴の正確さは良好であることが明らかになっているが、最適とはいえない。特にリンチ症候群のリスクを特定する際に重要となる可能性がある生殖器のがんでは、可能であれば必ず診療記録を入手して患者報告を検証すべきである。(詳しい情報については、がんの遺伝学的リスク評価とカウンセリングに関するPDQ要約の家族歴の正確度のセクションを参照のこと。)

新規に大腸がんの診断を受け、がんの遺伝学的症候群を有する疑いがあるまたはない患者の評価にはいくつかのアプローチが利用できる。医師が家族歴および身体診察に基づいて潜在的な遺伝的傾向を疑うことがあるが、このような疑いを確認するために遺伝子検査が利用可能である。American College of Medical Genetics and Genomicsは、結腸がん感受性症候群が疑われる患者を評価するためのガイドラインを公表している。 [51] このガイドラインは、臨床的特徴により遺伝相談に紹介する必要のある人を特定することを目的としている。複数のポリープ(20個超)がある個人では、組織型により、特異的な遺伝子志向性検査が有用な診断ツールとなりうる。同様に、患者の臨床像がLSを疑わせるものである場合、この症候群を標的とした生殖細胞系遺伝子検査を行うことができる。しかしながら、臨床像がそれほど明確でない場合は、診断はより困難となる。現在のところ、LSの腫瘍スクリーニングが最も一般的に受け入れられているアプローチである。しかしながら、腫瘍における体細胞多様体を特徴付けるパネルが多様な臨床的意思決定のために使用されることが多くなってきている。

多くの症例で、事前のリスク評価検査(がん発症年齢および家族における腫瘍の範囲などの多様な因子に基づくリスクをモデル化したもの)が適切な代替法となることがある。このようなリスクモデルの適用から、多重遺伝子(パネル)検査の使用が予想されるが、その正確な役割は今後確定させる必要がある。

大腸がんのその他の危険因子

腺腫性ポリープおよび大腸がんが発生するリスクに影響しうるその他の危険因子には、食事、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使用、喫煙、腺腫性ポリープの切除を伴う大腸内視鏡検査、および身体活動がある。遺伝型結腸がんの1つであるリンチ症候群においてでさえも、喫煙は大腸腺腫発生の危険因子として同定されている。 [52] (詳しい情報については、本要約のリンチ症候群[LS]のセクションを参照のこと。)

(詳しい情報については、大腸がんの予防に関するPDQ要約を参照のこと。)

結腸がん発生に関連する分子事象

大腸がんの分子的病理発生に関する初期の知識の大半は、まれな遺伝性大腸がん症候群から得られたもので、分子的にも臨床的にも大腸がんの不均一性が明らかになった。ほとんどの大腸がんが腺腫から発生することはよく知られている。正常上皮組織から腺腫、がん腫への移行には後天的な分子事象が関係している。 [53] [54] [55] 現在、大腸がんは、同様な分子遺伝学的特徴に基づき次の3つのカテゴリーに分類にできることから、腫瘍発生の分岐経路が示唆される:染色体不安定性(CIN)、マイクロサテライト不安定性(MSI)、およびCpG island methylator phenotype(CIMP)。大腸腫瘍発生の分子遺伝学的経路の理解はまだ発展途上にあり、先行する知識レベルとの関連で、それぞれ新たなレベルの理解が得られている。それに加え、これらの経路は、大腸ポリープおよびがんの重要な臨床的および組織学的不均一性から浮上してきた。したがって、以下の導入部は、大腸腫瘍発生に関する現在の我々の知識の進展を年代順に捉えている。

染色体不安定性(CIN)経路

大腸がんの大多数がCIN経路を介して発生する。CINがんにおける主要な変化には、染色体数の広範囲に及ぶ変化(異数性)、5q、18q、および17pなどの染色体の一部の分子レベルで頻繁に検出できる欠損(ヘテロ接合性の消失);さらにKRASがん遺伝子の病原性多様体などが挙げられる。これらの染色体欠失に関与する重要な遺伝子には、APC(5q)、DCC/MADH2/MADH4(18q)、およびTP53(17p)がある。 [54] [56] これらの染色体欠失は、分子レベルおよび染色体レベルでの遺伝的不安定性を示している。 [55] 大腸腫瘍進行経路のなかで最も早期の最も一般的な事象は、APCの欠失または病原性多様体不活性化である。APC遺伝子の病原性多様体不活性化は、罹患者がAPC生殖細胞変化を保有し、その機能喪失に至り、大腸ポリープおよびがんの発生率を劇的に増加させる遺伝性大腸がん症候群の1つである家族性大腸腺腫症(FAP)における大腸がんに重要であることが最初に示された。例えば、塩基除去修復、ヌクレオチド除去修復、二本鎖修復、およびミスマッチ修復などのDNA損傷修復遺伝子の後天的または先天的病原性多様体は、大腸上皮細胞が病原性多様体を生じやすくなることにも関与している。

マイクロサテライト不安定性(MSI)経路

その後まもなく、大腸がんのサブセット(10~15%)で、染色体不安定性の証拠がみられないが、LS患者の腫瘍の特徴 [59] であるマイクロサテライト反復配列の変化がみられること [57] [58] が特定された。その後、MLH1プロモーターの高メチル化がMSIを有する散発性大腸がんに関与していることが明らかになった。LS患者でDNA MMR遺伝子の生殖細胞多様体が発見され、その患者の大腸がんには高頻度でMSIが認められた。そのため、マイクロサテライト不安定性経路(MSI、ときにMINと呼ばれる)が提案された。

MSIがんの主要な特徴は、大半が損傷のない2倍体の染色体をもつ腫瘍であること、およびDNA MMR系に欠陥がある結果として、重要かつしばしばユニークながん関連遺伝子に病原性多様体がより発生しやすいことである。このようなタイプのがんは、分子レベルではDNAマイクロサテライトとして知られるゲノム全体に正常に存在するDNAの反復単位に生じる異常として検出可能である。

腺腫からがんへ進行する速度は、マイクロサテライト不安定性腫瘍の方がマイクロサテライト安定性腫瘍よりも速いと考えられている。 [60] この根拠は、最近の大腸内視鏡検査で正常であった患者に中間期がんが繰り返し報告されていることである。このさらなる裏付けは、鋸歯状経路(以下を参照)でみられ、この経路では中間期がんの高い発生率も観察されている。 [61] [62] MSI、腫瘍内Tリンパ球浸潤/クローン病様反応などが確認された腫瘍で、粘液産生が増加するなどの特徴的な組織学的変化がみられることから、この経路の大腸腫瘍が区別される。

遺伝性大腸がん症候群の研究から得られた知見から、生殖細胞系に異常がみられない患者において腫瘍のイニシエーションおよび腫瘍進行を仲介する分子事象に関する重要な糸口が得られている。大腸腫瘍進行経路(MSIおよびCINともに)における最も初期の事象のなかには、APC遺伝子産物の機能喪失がある。

CpG island methylator phenotype(CIMP)および鋸歯状ポリポーシス経路

1980年代から、現在では鋸歯状ポリポーシス症候群(SPS)と呼ばれる過形成性ポリポーシス症候群(HPS)の患者における大腸がんリスク増加を報告する研究が現れ始めた。 [3] [4] [63] [64] [65] [66] [67] [68] 少数のSPSのみが家族性とみられるが、このような家系に共通する生殖細胞多様体はこれまで特定されていない。SPS患者と対照群に認められる過形成性ポリープ(HP)の比較により、SPSのポリープは組織学的に異なっており、以前に報告されたHPおよび腺腫性ポリープ(AP)の特徴を有するポリープである鋸歯状腺腫に類似していることが明らかになった。 [69] この結果、これらの無茎性鋸歯状腺腫(SSA)は右結腸に発生する傾向がみられ、そこで高頻度で大きな無茎性となり、腺窩基底部の増殖、拡張、および鋸歯状の増加、内分泌細胞の減少、ならびに異形成の喪失を示すという観察につながった。 [70]

さらなる鋸歯状ポリープの組織学的特徴から次の亜型が明らかになった:古典的鋸歯状腺腫(TSA)、混合型鋸歯状ポリープ(MP)、およびつい最近の無茎性鋸歯状腺腫/無茎性鋸歯状ポリープ(SSA/SSP)。 [71] TSAは、突出した形態、異所性腺窩形成(骨形成タンパク質シグナリング欠陥を示す)、ならびに絨毛状および異形成の組織病理像を特徴とする。 [70] [72] TSAは、単に異形成を示すSSAではなく、SSAがTSAの前駆体であるという証拠はない。MPは、HP、SSA、およびTSAの特徴が重複したものである。

大腸内視鏡検査によるスクリーニング研究で、大きな鋸歯状ポリープは進行した大腸腫瘍の発生と強くかつ独立して関係していたが、左側のHPはそうではなかった。SSAという用語は、これらに腺腫の従来からの特質である核異型が特徴的にみられないが、むしろ他の構築上の特徴のために腺腫と呼ばれていることから、臨床医に関心がもたれている。SSAの分類は、その分子的特徴ががんリスク増加を意味するという知識によって裏付けられる。 [69] [73] [74]

LS患者におけるAPがMSIを示すことがあるが、散発性腺腫ではまれである。しかしながら、異形成を伴う鋸歯状ポリープは、MLH1プロモーターの高メチル化を伴うMSIを示す。大きな(1cmを超える)鋸歯状ポリープには、従来の過形成性ポリープより大きながんリスクがあり、がんになった場合は特徴的にMSIを示す。 [72] [75] [76] [77] 悪性病巣を伴う鋸歯状ポリープ切除例のレビューでは、すべてのポリープが右結腸に由来し、SSAであった。 [75] 悪性病巣はMSIを示し、MLH1免疫活性の喪失が明らかになったことから、SSAと散発性MSI結腸がんとの関係が示唆される。

散発性大腸がんにみられるMSIは、MLH1プロモーターの高メチル化により、その発現が抑制されるためである。他の腫瘍抑制遺伝子のプロモーター領域は、 メチル化により「サイレンス化」されていることから、大腸がんのがんゲノム研究が開始された。これらの研究から、大腸がんの約50%で評価遺伝子にメチル化の一定したパターンが示された。 [78] 非選択大腸がん患者の数がより多い研究では、Methylated In Tumors 1MINT1)、MINT2MINT31CDKN2Ap16)、およびMLH1におけるCpGアイランドの2つ以上の高メチル化として定義されるCIMPが少数の大腸がん(20~30%)にみられることが示された。 [79] [80] CIMPという用語は、これらの臨床的特徴を共有するがんを分類するために作り出された。CIMP陽性とCIMP陰性の大腸がんを区別する初期の試みは成功しなかった。 [81] しかしながら、その後の研究では、大腸がんで重度にメチル化された遺伝子のバイアスのない階層的クラスター分析および集団ベースの研究デザインを用いて、CIMP経路を裏付けるユニークな臨床的および分子的特徴の特定に成功した。 [78] [82]

高CIMPの大腸がんは、マイクロサテライト安定性大腸がんよりMSIを示す可能性がはるかに高かった(それぞれ82.1% vs 24.4%;P < 0.0001)。 [78] ある研究で、マイクロサテライト安定性で高CIMP(前述のCIMPマーカーが2つを超える)の大腸腫瘍は、低CIMP(前述のCIMPマーカーが2つ未満)の大腸腫瘍よりも、BRAF V600E多様体、KRAS2多様体、近位部位、米国がん合同委員会による病期が高い、患者年齢が高い、低分化、および粘液性の組織像との関連が著しく強かった。 [78] マイクロサテライト不安定性で高CIMPの大腸腫瘍は、マイクロサテライト不安定性で低CIMPの腫瘍よりも、BRAF V600E病原性多様体、近位部位、 患者年齢が高い、およびKRAS2病原性多様体の欠失との関連が著しく強かった。 [78] MSIの有無にかかわらず、高CIMPの大腸腫瘍では、BRAF V600E病原性多様体が著しく多く認められた。 [78] したがって、不安定性の大腸腫瘍を除外した場合のCIMPの生物学的意義に疑問が残る過去の研究 [81] とは異なり、この研究では、いくつかの臨床病理学的変数がマイクロサテライト安定性およびマイクロサテライト不安定性の大腸腫瘍におけるCIMPと確かに関連していることが明らかにされた。 [78]

ポリープの研究では、HPS患者におけるCIMP陽性ポリープおよび右側SSAで最も高頻度なことが明らかになった。 [62] [83] [84] [85] [86] つい最近、ホットスポットのBRAF病原性多様体(V600E)がMSI結腸がんおよび鋸歯状ポリープで多くみられることが明らかになった。 [87] [88] [89] BRAF病原性多様体は、LS患者からの大腸がんに認められず、散発性腺腫性大腸ポリープでまれであるが、鋸歯状ポリープの大多数、特にSSAに認められる。 [84] [86] [90] [91] [92] CIMP陽性は小滴性過形成性ポリープ(MVHP)で一般的に認められることから、MVHPからSSAへ、さらに結腸がんへの進行が示唆される。 [84]

結論

CIMPの大腸がんの特性解析およびMSIが腺腫-がん連鎖の後期に発生するという事実は、MSI(MIN)およびCINの2つの経路で構成された過去の大腸腫瘍発生モデルの変更につながった。MSIとCIMPの経路には多くの重複が認められる。CIMP経路の心臓部は、BRAF病原性多様体を有する鋸歯状ポリープである。CIN経路は、大多数がその経路の早期に発生するAPC病原性多様体を有するAP前駆体を特徴とする。

介入

実際の問題として、生殖細胞系の異常が原因で、ある人が大腸がんのリスクが高いと知ることは、その知識ががん発生の予防またはいったん発生した後のがんによる病的状態および死亡を防ぐことに利用できれば最も有用となる。こうした情報を家族計画や、職業や退職をはじめとする人生の重大な決断に活用することも可能であるが、通常は予防が中心的な問題となる。

このセクションではスクリーニングに関する話題が扱われている:スクリーニングとは大腸がんおよびその前がん病変(すなわち、腺腫性ポリープ)による症状がみられない時点で、大腸がんを発症する可能性が高い集団を同定するための検査である。異常のみられる患者には診断検査を施行して潜伏がんの存在を確認する必要があり、がんまたは前がん病変が認められれば治療が実施される。総合すると、この一連の作業は、大腸がんの前がん病変である腺腫性ポリープを検出し切除して大腸がんの発生を予防すること、あるいは早期発見および早期治療により治癒可能性を高めることを目的としている。

リンチ症候群またはFAPなどの高リスク症候群といった状況でのサーベイランスは、腺腫またはがんの発生がほぼ確実な患者を検査することを意味し、そのような検査は早期発見のために実施される。これは従来の意味でのスクリーニングではない。スクリーニングとサーベイランスという用語の意味は時代とともに進化しており、本要約での使用法は他の腫瘍学および疫学の文脈での使用法とは一致しない場合がある。

(遺伝的にリスクが高い集団における大腸がん発生の原因を排除する)一次予防については、このセクションの後半で扱われている。

証拠基盤の現状

大腸がんのリスクが遺伝的に高い集団を対象としたサーベイランスについては、ランダム化比較試験で公表されたものが現時点では存在せず、比較群と対照比較した試験もほとんどない。非サーベイランス群を設けるランダム化試験は実施不可能であるが、さまざまなサーベイランスの手法を比較する、またはサーベイランスの実施期間に差を設けるといった、優れたデザインによる研究が必要である。サーベイランスを受けた被験者群とサーベイランスを(自ら進んで)受けなかった対照群を比較した観察研究では、リンチ症候群のリスクがある近親者252人について15年間の経過が評価され、そのうち119人がサーベイランスを拒否した。大腸がんを発症したのは、サーベイランス受診群133人では8人(6%)であったのに対して、サーベイランス非受診群では19人(16%、P = 0.014)であった。 [93] ただし一般には、これまで発表されてきた大腸がんスクリーニングの臨床試験では遺伝的リスクを有する集団が対象から除外されているため、サブグループ解析で有効性を推定することは不可能である。したがって、こうした患者における予防を、スクリーニングまたはサーベイランスのガイドラインを提唱する際に専門家グループが通常依拠するような強力な有効性の証拠に基づいて行うことはできない。

これらを考慮すると、臨床的意思決定は、臨床的判断に基づいている。スクリーニングが有効であると分かっている患者における臨床的意思決定の際には、個々の遺伝的条件の生物学的および臨床的性質とともに、平均リスクを有する患者と類似すると考えられる点が考慮される。

平均リスク集団(明らかな遺伝的リスクを有していない集団)におけるスクリーニングの有効性の証拠基盤は、高リスクの集団に対する診療方針を検討するための基準となる。(詳しい情報については、大腸がんのスクリーニングに関するPDQ要約を参照のこと。)

平均リスクの人を対象としたスクリーニングによって大腸がんによる死亡リスクが低下するという事実は、大腸がんの遺伝的リスクが高い人を対象としたサーベイランスを推奨する根拠となっている。このアプローチは論理的であると考えられるため、この特定集団を対象としたサーベイランスのランダム化試験は実施されていないが、リンチ症候群 [94] [95] およびFAP [96] の家系を対象に実施された観察研究ではサーベイランスの有益性が裏付けられている。これらの研究は、大腸内視鏡検査で検出されたがんでは診断時の病期が早くなるのに対応して大腸がんによる死亡率が低下することを実証している。

(高リスク集団におけるサーベイランスに関する詳しい情報については、本要約の主要遺伝子による症候群のセクションを参照のこと。)

スクリーニングの論理的根拠

妥当なスクリーニングについては広く容認されている基準(下記1~3)が存在するが、これは他の疾患に適用されるのと同様に、強力な遺伝的要素(罹患している第一度近親者が2人以上いる、または60歳未満で診断された第一度近親者が1人いる)が存在する場合にも適用される。 [97] [98] 追加の基準(4および5)も以下に記す。 [99]

  1. 罹病率、死亡率、および機能喪失の観点から疾患による負担が重いこと。
  2. 十分に、感度および特異度が高く、安全性と利便性が高く、さらに安価なスクリーニング検査であること。
  3. スクリーニングにより早期発見して治療を行った方が、症状が原因で発見され治療がなされた場合よりも予後が良好であるという証拠があること。
  4. スクリーニング検査と治療の有害性の度合いに関する証拠があること。
  5. スクリーニング検査による利益が有害性を超えるという価値判断が下されること。

このような基準のうち、最初のものと2つ目のものは遺伝学的に確定される大腸がんにも適合する。スクリーニングには有害性(基準4)があることも知られており、特に診断目的の大腸内視鏡検査による重大な合併症(穿孔および大量出血)が有名である。早期介入によって良好な結果(基準3)が得られるという証拠は限られているが、有益性が示唆される。リンチ症候群に関する1件の研究では、スクリーニングを受診した被検者に早期/限局腫瘍が検出された。 [93]

大腸がんの遺伝的リスクが高い個人の同定

大腸がんの遺伝的感受性の有無を決定するための遺伝子検査の受診候補者となる個人を同定するためには、臨床的基準を利用できる。そうした基準としては、以下のものがある:


  • 大腸がんおよび/またはポリープ(特にオリゴポリポーシス)について強い家族歴があること。

  • 大腸がん患者において複数の原発がんがみられること。

  • 大腸がんの遺伝性リスクの原因となる既知の症候群と合致する他のがん(例、子宮内膜がん)が家系内に存在すること。

  • 若年期で大腸がんの診断がなされたこと。

このような個人を同定した場合は、その患者の状況に合わせた選択肢を考慮する。(それぞれの症候群に対する具体的介入に関する情報については、本要約の主要遺伝子による症候群のセクションを参照のこと。)

現時点で、一般集団のスクリーニング手段として、検査を用いて大腸がんの遺伝的感受性を同定することは推奨されていない。APC腫瘍抑制遺伝子およびリンチ症候群に関連するMMR遺伝子における病原性多様体がまれなこと、および現行の検査技術では感度に限界があることから、ともすれば一般集団検査が誤認を招きうるものとなり、費用対効果性が乏しくなっている。

さまざまな医療専門施設と学会を代表するいくつかの組織から、FAPおよびリンチ症候群のサーベイランスのための詳細な推奨事項が提供されている。以下のガイドラインはNational Guideline Clearinghouseから容易に入手できる:


  • 米国がん協会(American Cancer Society)。 [100]

  • United States Multisociety(American Gastroenterological Association and American Society for Gastrointestinal Endoscopy)Task Force on Colorectal Cancer。 [101]

  • American Society of Colon and Rectal Surgeons。 [102]

  • National Comprehensive Cancer Network。 [103]

  • Gene Reviews

一般的に記述またはガイドラインには推奨事項に対する証拠の根拠が含まれている。多くの場合、これらのガイドラインには専門家の意見が反映されているが、それらの意見がランダム化を用いた前向きの試験を根拠としていることはめったにない。

家族性大腸がんの一次予防

化学予防

平均リスク集団の観察研究から、数種類の薬物と栄養補助食品(NSAID、エストロゲン、葉酸、およびカルシウム)の使用が大腸がんの発生を予防しうるということが示唆されている。 [104] (詳しい情報については、大腸がんの予防に関するPDQ要約を参照のこと。)この証拠には、専門家集団が大腸がんを特異的に予防するとしてこれらの薬物および栄養補助食品を推奨するに至るほどの説得力がなく、また大腸がんの遺伝素因を有する集団を限定して登録した試験はほとんどない。抗酸化物質ががんを予防するという仮説が提唱されているが、抗酸化ビタミン(β-カロチン、ビタミンC、ビタミンE)に関する1件のランダム化比較試験は、大腸がんの発生に影響を及ぼさないことを示している。 [105]

(化学予防に関する詳しい情報については、本要約の主要遺伝子による症候群のセクションにあるFAPに対する介入のセクションおよびリンチ症候群における化学予防のセクションを参照のこと。)

行動的危険因子の改善

食事および行動のいくつかの要素が、一貫性の程度はさまざまであるものの、大腸がんの危険因子であることが示唆されている。(詳しい情報については、大腸がんの予防に関するPDQ要約を参照のこと。)これら生活様式因子の改善には予防手段としての可能性がある。 [104] [106] [107] 専門家の間では、これらの要素のいくつかに関する証拠の解釈について見解の一致はみられていない。

これらと同一の因子が、大腸がんリスクが遺伝的に高い集団に保護的に作用するかどうかは、ほとんど分かっていない。1件のケースコントロール研究によると、大腸がんの家族歴がない集団では、低レベルの身体活動、高いカロリー摂取量、および低い野菜摂取量が、がんリスクと有意に関連していたが、家族歴がある集団では、統計的検出力が十分あったにもかかわらず、関連性は認められなかった。 [108]


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結腸がん遺伝子

主要遺伝子

主要遺伝子は、疾患の原因として必要かつ十分なものと定義され、その原因となる機序としては、その遺伝子の重要な病原性多様体(例、ナンセンスミスセンスフレームシフト)を伴う。主要遺伝子は単一遺伝子の障害が関与するものと考えられるのが典型的であり、主要遺伝子によって引き起こされる疾患は比較的まれであることが多い。主要遺伝子における病原性多様体の大部分は疾患リスクを非常に高めるものであり、環境面の寄与を認識するのは多くの場合困難である。 [1] 歴史的に、結腸がんの主要感受性遺伝子の大半は高リスク家系を対象とした連鎖解析によって同定されてきた;したがって、この研究デザインがとられた結果として、上記の基準は当然に満たされていた。

この10年間で、主要結腸がん遺伝子の機能はかなりよく解明された。結腸がん遺伝子として提唱されているものには、腫瘍抑制遺伝子、がん遺伝子、およびDNA修復遺伝子の3種類がある。 [2] 腫瘍抑制遺伝子は、遺伝性がん症候群の原因となる最も重要な遺伝子クラスを構成しており、中でも家族性大腸腺腫症(FAP)および若年性ポリポーシス症候群(JPS)のいずれにも関与している遺伝子クラスに相当している。がん遺伝子における体細胞多様体が実質的にすべての種類の消化管がんに遍在しているにもかかわらず、がん遺伝子における生殖細胞病原性多様体は大腸がん(CRC)の遺伝的感受性の重要な要因ではない。以下に示すように、遺伝性大腸がんのかなりの割合のものは安定性遺伝子、特にリンチ症候群(LS)(遺伝性非ポリポーシス大腸がん[HNPCC]とも呼ばれる)の原因となるミスマッチ修復(MMR)遺伝子によって説明可能である。(詳しい情報については、本要約の主要遺伝子による症候群のセクションのリンチ症候群[LS]のサブセクションを参照のこと。)MYHは、塩基除去修復が欠損した場合に大腸がんのリスクが高くなる安定性遺伝子の別の重要な例である。表2には、実質的な大腸がんリスクの増大をもたらす遺伝子が対応する疾患とともにまとめられている。

表2.大腸がんに対する感受性の高い遺伝子

遺伝子 症候群 遺伝様式 優勢となるがん
FAP = 家族性大腸腺腫症;JPS = 若年性ポリポーシス症候群;LS = リンチ症候群;OMIM = Online Mendelian Inheritance in Manデータベース;PJS = ポイツ・ジェガース症候群。

腫瘍抑制遺伝子

     
APCOMIM FAP 優性 結腸、腸など
TP53p53)(OMIM リー-フラウメニ 優性 多発性(結腸を含む)
STK11LKB1)(OMIM PJS 優性 多発性(腸を含む)
PTENOMIM コーデン 優性 多発性(腸を含む)
BMPR1AOMIM JPS 優性 消化管
SMAD4 MADH/DPC4)(OMIM JPS 優性 消化管

修復/安定性遺伝子

     
MLH1OMIM)、MSH2OMIM)、MSH6OMIM)、PMS2 OMIM リンチ症候群 優性 多発性(結腸、子宮などを含む)
EPCAM(TACSTD1)(OMIM リンチ症候群 優性 多発性(結腸、子宮などを含む)
MYHMUTYH)(OMIM MYH関連ポリポーシス 劣性 結腸
POLD1OMIM)、POLEOMIM オリゴポリポーシス 優性 結腸、子宮内膜


de novo病原性多様体率

1990年代までは、遺伝的に受け継いだポリポーシス症候群の診断は、臨床症状と家族歴に基づいて下されていた。現在では、こうした症候群に関与する遺伝子の一部が同定されているため、これらの集団における自然病原性多様体率(de novo病原性多様体率)を推定しようとしている研究が数件ある。興味深いことに、FAP、JPS、ポイツ・ジェガース症候群、コーデン症候群、およびBannayan-Riley-Ruvalcaba症候群はいずれも自然病原性多様体率が高く、25~30%であると考えられている一方 [3] [4] [5] 、リンチ症候群に関連したMMR遺伝子のde novo病原性多様体率の推定値は低く、0.9~5%であると考えられている。 [6] [7] [8] リンチ症候群における自然病原性多様体率のこうした推定値は、さまざまな集団の非実父の割合の推定値(0.6~3.3%)と重複していると考えられるため [9] [10] [11] 、リンチ症候群に対するde novo病原性多様体率は他のポリポーシス症候群における比較的高いde novo突然変異率とは対照的にかなり低いと思われる。

次世代の塩基配列決定法および新たな大腸がん感受性遺伝子

次世代の塩基配列決定法(NGS)では、ヒトゲノムの塩基配列を決定するヒトゲノムプロジェクトで用いられた従来のキャピラリー式サンガーDNA塩基配列決定法を上回る技術的進歩が見られる。NGSでは、超並列多重化技術(massively parallel multiplexing techniques)を採用することでゲノム塩基配列決定に要する時間が劇的に短縮される。大腸がんの個人と大腸がんではない個人間でゲノム塩基配列決定法の結果を比較することで、大腸がん感受性遺伝子を同定するためのさらに別の方法がもたらされる。

現在、腫瘍における体細胞変異を評価して予後および/または標的療法に関する情報を得るため、および生殖細胞系を評価してがんリスクアレルを同定するために、全ゲノム配列決定法(WGS)と全エキソーム配列決定法(WES)が用いられている。(詳しい情報については、がん遺伝学の概要のPDQ要約の臨床シークエンシングのセクションを参照のこと。)

大腸がん感受性遺伝子の同定におけるNGSの成功例は、大腸腺腫症であるが既知の大腸がん遺伝子における生殖細胞多様体が認められない患者におけるPOLE/POLD1生殖細胞病原性多様体の発見である。(POLE/POLD1に関する詳しい情報については、本要約の主要遺伝子による症候群のセクションのオリゴポリポーシスのサブセクションを参照のこと。)

WESはまた、新たな潜在的大腸がん素因多様体の同定にも使用されている。2016年のある研究で、1,006例の早期発症型家族性大腸がんおよび1,609例の健康な対照についてのエキソーム配列解析データの分析が行われた。 [12] 家族性大腸がん症例の16%で浸透度の高いまれな病原性多様体が同定され、そのうちの大多数は既知の結腸がん遺伝子であったが、POT1POLE2、およびMRE11が大腸がん遺伝子候補として同定された。著者らはこれらの知見はさらなる主要な高浸透度の大腸がん感受性遺伝子の存在をおそらく考慮に入れていないと結論している。

遺伝子多型と大腸がんリスク

結腸がんの家族内集積が十分に特徴付けされた結腸がんの家族性症候群以外の状況でも起こるということは、広く認識されている事実である。 [13] 複数の疫学研究によると、罹患した患者の第一度近親者における結腸がんのリスクは、個人の結腸がんの生涯リスクの2倍~4.3倍高くなる可能性がある。 [14] 表1に、大腸がん(CRC)の相対リスク(RR)および絶対リスクの推定値が家族歴のカテゴリーごとにまとめられている。さらに、結腸がんの生涯リスクは結腸腺腫患者の第一度近親においても増加する。 [15] リスクの大きさは、発端者の診断時年齢、発端者とリスクのある症例との血縁度、および罹患近親者の数によって異なる。現在では、リスクが中等度および軽度の症例の多くが、浸透度の低い単一の遺伝子または遺伝子の組み合わせによる変異の影響を受けると考えられている。このリスク増加の病因を同定することは公衆衛生に影響するため、原因遺伝子に対する精力的な探索が進行中である。

それぞれの遺伝子座の大腸がんリスクに対する影響は比較的小さいと予想されており、リンチ症候群(LS)または家族性大腸腺腫症(FAP)においてみられる劇的な家族集積は生じないと考えられる。しかしながら、他の一般的な遺伝子座および/または環境因子と組み合わさると、この種の多様体は大腸がんリスクを著しく変化させる可能性がある。こうした種類の遺伝的変異はしばしば多型と呼ばれる。多型性の遺伝子座のほとんどが疾患のリスクまたはヒトの形質に対し影響を及ぼさない(良性の多型)一方で、疾患のリスクまたはヒトの形質における差と関連する(ただし程度はわずか)遺伝子座はときに、疾患に関連する多型または機能に関連する多型と呼ばれる。そうした変異がDNAの単一のヌクレオチドにおける変化に関与している場合、それらは一塩基多型(SNP)と呼ばれる。

大腸がんに対する多遺伝子性の感受性の根底にある多型は低浸透度と考えられているが、低浸透度という用語は、しばしば最小から中等度のリスクに関連する塩基配列多様体に対して用いられる。これは、典型的にはより重度の表現型と関連する高浸透度の多様体またはアレルとは対照的である(例えば、APCまたはMMR遺伝子の病原性多様体は家系内で常染色体優性の遺伝様式を示す)。中等度のがんリスクという表現もまた定義が恣意的であるが、通常はRRで1.5~2.0の場合とされる。このような塩基配列多様体は集団中に比較的高頻度でみられるため、それらの全がんリスクへの寄与は、FAPまたはリンチ症候群など比較的まれな症候群の集団における寄与リスクよりもはるかに大きいと推定される。また、リンチ症候群の個人においてMMR遺伝子とは異なる遺伝子の多型により、表現型(例、大腸がんの平均年齢)が修飾されることがある。

低浸透度の多様体は多くの戦略で同定されている。初期の研究では、がんの発生機序との生物学的関連のために選択された候補遺伝子に焦点が当てられていた。最近では、潜在的な大腸がん感受性遺伝子を同定するためにゲノムワイド関連解析(GWAS)がさらに広く用いられている。(詳しい情報については、本要約のGWASのセクションを参照のこと。)別のアプローチは、既存のGWASのデータセットのメタアナリシスを用いて、追加の新たな大腸がん感受性遺伝子を発見することである。

多型-平均リスク集団におけるリスクの修飾

低浸透度の候補遺伝子

いくつかの候補遺伝子が同定されており、遺伝子検査の臨床での使用に対する可能性が見極められている。結腸がん頻度の軽度増大との関連性が示されている候補アレルとしては、ヘテロ接合性のBLMAsh (アシュケナージユダヤ人のブルーム症候群患者における創始者病原性多様体であるアレル)、GH1 1663T→A多型(成長ホルモンおよびIGF-1の低値と関連する成長ホルモン遺伝子の多型)、それにAPC I1307K多型がある。 [16] [17] [18]

これらのうち、最も広範囲に研究されている多様体はAPC I1307Kである。しかし、この多様体も上述した他の多様体も臨床診療ではルーチンで使用されていない。(詳しい情報については、本要約のAPC I1307Kのセクションを参照のこと。)

GWAS

ポリポーシスおよび非ポリポーシス性の遺伝性大腸がん症候群に対して複数の主要遺伝子が同定されているが、FAPまたはリンチ症候群が疑われる症例のいかなるシリーズにおいても症例の20~50%では現在利用可能な技術で病原性多様体を検出できていない。大腸がんに対する感受性の約3分の1に遺伝が関与していると推定されており [19] 、原因となる生殖細胞病原性多様体が占める割合は、大腸がん全症例の6%未満である。 [20] このことは、ポリポーシスを伴うまたは伴わない大腸がんの素因となる可能性のある病原性多様体を持つ他の主要遺伝子が存在する可能性を示唆している。2~3のそうした遺伝子(例、MYHEPCAM)が発見されているが、他のこのような遺伝子が発見される可能性はかなり低い。新しい遺伝子を発見するための最近の方法としては、ゲノム全体へのアプローチが採用されている。ゲノム全体にわたって存在する候補遺伝子と特徴不明の遺伝子(anonymous gene)における多型パターンについて評価された大腸がん患者の比較的大規模な非選択シリーズを用いて、いくつかのGWASが実施されている。これらのSNPは、国際HapMapプロジェクトに基づいてゲノム内に一般的にみられる変異の大部分を捕捉するよう選択される。 [21] [22] 目標は、病原性多様体ではないが、大腸がんリスクを増加させうる(または低下させる能力をもつ)アレルを同定することである。未知の異常な大腸がんアレルの同定により、リスクのある人の遺伝子ベースでのさらなる層別化が可能であろう。そうしたリスク層別化を行えば、大腸がんスクリーニングが強化される可能性がある。数千例の大腸がん症例と対照における全ゲノムスキャンの使用によって、複数の一般的な低リスクの大腸がんSNPが発見されており、National Human Genome Research Institute GWASカタログで見ることができる。GWASの詳細な考察は、がん遺伝学の概要のPDQ要約に記載されている。複合表現型の遺伝的基礎は、それぞれが軽度のリスクを与える多くのアレルによって支配されているという仮定の下で、GWASが実施される。集団において頻度の高い1つのアレルが単独でがんリスクの実質的な一因となる可能性は非常に低い。腫瘍形成の多遺伝子性を考え合わせると、このことは、今日までにGWASにより同定された1つの多様体による寄与はいずれもきわめて小さく、一般に疾患リスクのオッズ比(OR)は1.5未満であることを意味している。

GWASのメタアナリシスでは、以前のGWASからのデータを統合することで、新たな大腸がん関連SNPの同定が可能となっている。 [23] [23] [24] [25] [26] これらのSNPは上でリンクを載せているGWASカタログで見ることができる。上述のGWASに対する同じ考察がメタアナリシスアプローチにも適用される。

8q24およびSMAD7における遺伝的変異

これらの別々の研究により、8q24.21における遺伝的変異は結腸がんリスクの増加と関連し、RRは1.17~1.27であることが明らかにされた。 [27] [28] [29] 8q24におけるリスクアレルに対するRRはそれほど高くはないが、これらのリスクアレルの保有率(および人口寄与割合)は高い。この関連の原因になっている遺伝子は未だ同定されていない。さらに、SMAD7の共通したアレル(common alleles)も、結腸がんリスクの約35%の増加と関連することが示されている。 [30]

複数(> 3)の遺伝子関連研究で同定されたその他の候補アレルとしては、GSTM1 ヌルアレルNAT2 G/Gアレルが挙げられる。 [31] これらのアレルについてはいずれも、現在のところ臨床設定でのルーチンの使用が支持されるほどの十分な特徴付けは行われていない。家族歴は、これらの家族における結腸がんのリスクを確立するための最も有用なツールとなっている。前立腺がんにおいて報告されているように、感受性遺伝子座を組み合わせることは個々のリスクのプロファイリングを行う上で今後期待できる。 [32] [33]

主要ながん感受性遺伝子における意義不明の多様体

APC I1307K

APCにおける多型は、がんとの関連に関して多型の中で最も広範囲に研究されている。APC I1307K多型は、結腸がんのリスク増加と関連するが、結腸ポリポーシスの原因とはならない。このI1307K多型は、アシュケナージユダヤ人の子孫にほぼ完全に限定されたもので、結腸腺腫および腺がんリスクを一般集団の2倍に増加させる。 [18] [34] I1307K多型は、APC遺伝子内のヌクレオチド3920でTからAへの移行の結果起こり、高変異性(hypermutability)領域を生じさせるようである。 [18] APC I1307K多型に対しては、これを評価するための臨床的な分析法が存在するが、この分析法のルーチンな使用を支持するほど、関連する結腸がんリスクは高くない。現在までに得られたデータを用いても、I1307Kの保有状態を、スクリーニングの開始年齢、スクリーニングの実施頻度、およびスクリーニング戦略の選択についての決定の指標とすべきか否かは未だ不明である。

低浸透度アレルの臨床的意義

これらの遺伝子座における遺伝的変異と大腸がんリスクとの関連性に関する統計的証拠は説得力があるが、生物学的に重要な多様体とそれらがリスク増加をもたらす機序は不明であり、遺伝学的および機能的特徴をさらに明らかにする必要がある。さらに、これらの遺伝子座は非常に軽度のリスクとしか関連しておらず、ヘテロ接合体キャリアが大腸がんを発症するORは通常1.1~1.3である。さらに多くのリスク多様体が同定されるであろう。この範囲のリスクは、その他の点では臨床的に慎重なスクリーニングの修正が必要となるほど年齢別リスクを増加させるとは考えられない。それらの集合的な影響がプロスペクティブに評価されるまでは、臨床現場でのそれらの使用は推奨できない。


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主要遺伝子による症候群

1800年代および1900年代に臨床所見により最初に記述された結腸がん感受性症候群の名称は、その症候群に関連した医師または患者および家系を反映していることが多い(例、ガードナー症候群、ターコット症候群、ムア-トレ症候群、I型およびII型リンチ症候群、ポイツ・ジェガース症候群[PJS]、Bannayan-Riley-Ruvalcaba症候群、およびコーデン症候群)。これらの症候群は、大腸腺がんの生涯リスク増加と関連している。これらの大部分は、常染色体優性遺伝パターンを有すると考えられていた。腺腫性結腸ポリープは最初の5つの症候群の特徴である一方、過誤腫は最後の3つの症候群の特徴であることが明らかにされた。

ヒトゲノムプロジェクトの発展および1990年の染色体5q上の大腸腺腫性ポリポーシス(adenomatous polyposis coliAPC遺伝子の同定により、これら家族性症候群間の重複と相違が明らかになった。ガードナー症候群および家族性大腸腺腫症(FAP)は同義であり、どちらもAPC遺伝子における病原性多様体が原因であることが示された。軽症型FAP(AFAP)は、比較的少ない腺腫および腸以外の徴候を伴う、遺伝子の3'末端および5'末端におけるAPC病原性多様体による症候群として認識された。ターコット症候群家系は遺伝学的には、髄芽腫を伴うFAPおよび膠芽腫を伴うリンチ症候群(LS)の一部であることが示された。ムア-トレ症候群およびリンチ症候群は遺伝的類似点を有することが示された。MYH関連ポリポーシス(MAP)は、常染色体劣性遺伝パターンを有する別個の腺腫性ポリープ症候群であると認識された。病原性多様体が同定されれば、その病原性多様体のキャリアに対する大腸がん(CRC)の絶対リスクをより詳しく評価できるようになる(表3を参照のこと)。

表3.遺伝性大腸がん症候群の病原性多様体のキャリアにおける大腸がん(CRC)の絶対リスク

症候群 病原性多様体のキャリアにおける大腸がんの絶対リスク
FAP = 家族性大腸腺腫症;JPS = 若年性ポリポーシス症候群;LS = リンチ症候群;PJS = ポイツ・ジェガース症候群。
a ここに引用したがんリスク推定値は、サーベイランスおよび予防的手術が広範に使用される以前のものである。
bリスクの完全な考察については、本要約のリンチ症候群(LS)のセクションを参照のこと。
FAPa 45歳までで90% [1]
軽症型FAP 80歳までで69% [2]
リンチ症候群 75歳までで40~80%b [3] [4]
MYH関連ポリポーシス 35~53% [5]
PJS 70歳までで39% [6]
JPS 60歳までで17~68% [7] [8]


これらの発見により、遺伝子検査およびリスク管理が可能になった。遺伝子検査とは、さまざまな技術を利用して既知のがん感受性遺伝子における多様体を探すことをいう。包括的な遺伝子検査には、ある遺伝子の全コード領域、イントロン-エクソン境界(スプライス部位)のシーケンシング、および再構成、欠失やその他コピー数の変化の評価(多重ライゲーション依存性プローブ増幅[multiplex ligation-dependent probe amplification:MLPA]、またはサザンブロットなどの技術を用いる)が含まれる。良性の多様体および遺伝子多型から病原性多様体を識別する助けとなる広範に蓄積された経験にもかかわらず、遺伝子検査では、予測の目的に利用できない意義不明の多様体(VUS)が時折同定される。

家族性大腸腺腫症(FAP)

1900年までに、数件の報告で、多発ポリープ(後になってようやく腺腫およびほかの組織型に亜分類された)のある患者は大腸がんのリスクが非常に高いこと、および家系における発生パターンが常染色体優性であることが実証されている。20世紀には、腺腫からがんへの進行が確認され、FAPがこの進行の1つのヒトモデルとして認識された。 [9] 上部消化管(GI)腺腫;胃底腺ポリープ;非上皮性良性腫瘍(骨腫、表皮嚢腫、歯の異常[この三徴はまとめてGardner症候群として知られる]);デスモイド腫瘍;先天性網膜色素上皮細胞肥大(CHRPE);および悪性腫瘍(甲状腺腫瘍および脳腫瘍、肝芽腫)などのFAPのさまざまな合併症が報告されるようになった。

FAPは最も明確に定義され、十分理解されている遺伝性結腸がん症候群の1つである。 [1] [10] [11] FAPは常染色体優性遺伝疾患であり、発生率は出生の1/7,000~1/22,000の範囲と報告されており、この症候群は西洋諸国により一般的である。 [12] 常染色体優性遺伝とは罹患者が遺伝的にヘテロ接合であることを意味し、FAP患者の各子孫がこの疾患遺伝子を受け継ぐリスクはそれぞれ50%である。罹患の可能性は男女間では同等である。

古典的なFAPは、10代以降に結腸および直腸に発生する多発性(100超)の腺腫性ポリープを特徴とする(図3を参照のこと)。

図3.内視鏡における家族性大腸腺腫症患者の結腸内に多発したポリープ(左)と外科的切除した結腸で多発したポリープ(右)。

結腸ポリープ以外にみられるFAPの特徴には、上部消化管におけるポリープ、先天性網膜色素上皮細胞肥大、骨腫、類表皮嚢胞、過剰歯、デスモイド腫瘍の形成などの腸管外病変、および甲状腺腫、小腸がん、肝芽腫、脳腫瘍(特に髄芽腫)などその他の悪性変化がある(表4を参照のこと)。

表4.家族性大腸腺腫症における結腸外腫瘍のリスク

悪性腫瘍 相対リスク 絶対生涯リスク(%)
出典:Giardiello et al., [13] Jagelman et al., [14] Sturt et al., [15] Lynch et al., [16] Bülow et al., [17] Burt et al., [18] and Galiatsatos et al. [19]
aThe Leeds Castle Polyposis Group.
デスモイド 852.0 15.0
十二指腸 330.8 5.0–12.0
甲状腺 7.6 2.0
7.0 2.0
膨大部 123.7 1.7
膵臓 4.5 1.7
肝芽腫 847.0 1.6
0.6a


FAPはまた、家族性大腸ポリポーシス、大腸腺腫性ポリポーシス(APC)、ガードナー症候群(大腸ポリポーシス、骨腫、および軟部腫瘍)としても知られている。ガードナー症候群という呼称は、ときにこれらの結腸外症状の発現があるFAP患者に用いられている。しかしながら、ガードナー症候群は分子的にFAPの多様体であることが明らかにされているため、ガードナー症候群という用語は基本的に臨床の現場では時代遅れになっている。 [20]

FAP症例のほとんどは、染色体5q21上のAPC遺伝子の病原性多様体に起因する。APC遺伝子の病原性多様体を受け継いだ個人では、結腸腺腫が発生する可能性がきわめて高く、そのリスクは90%超と推定されている。 [1] [10] [11] 結腸に腺腫が発生する年齢はさまざまである:10歳までに腺腫が発生するのはAPC生殖細胞多様体のキャリアのわずか15%;同割合は20歳までで75%に上昇し;30歳までには90%がFAPを呈する。 [1] [10] [11] [21] [22] 何らかの介入が実施されなければ、FAP患者のほとんどは30代までに結腸がんか直腸がんを発症する。 [1] [10] [11] このため、APC遺伝子の病原性多様体のキャリアやリスクを有する個人に対するサーベイランスおよび介入として、慣例的に年1回のS状結腸鏡検査が実施されており、思春期頃から開始されている。この方法の目的はFAPに罹患している個人における結腸ポリープの早期発見であり、これが予防的結腸切除術へとつながっていく。 [23] [24]

FAPの臨床的特徴の早期発現と、その後の思春期から開始されるサーベイランスの推奨については、感受性遺伝子を対象とした小児の遺伝子検査に関する特別な問題が提起されている。 [25] FAPに関する小児の遺伝子検査は、特に推定約50%の小児が病原性多様体のキャリアではないと判明し、このため不快で費用のかかる年1回のS状結腸鏡検査を免れうるという点において、期待できる医学的利益が未成年者の遺伝子検査を正当化する一例であると、一部の擁護者は考えている。このような検査による心理的影響については、現在検討がなされているところであり、本要約の遺伝性結腸がん症候群における心理社会的問題のセクションでも扱われている。

APCの多くの異なる病原性多様体がFAP患者のシリーズにおいて報告されている。FAPの臨床的特徴は一般に、APC遺伝子に多様体が生じる位置および多様体の種類(すなわち、フレームシフト多様体 vs ミスセンス多様体)に関連していると考えられる。APC多様体と関連しているとみられ臨床的に特に関心がもたれている特徴としては、(1)結腸ポリポーシスの密集度と(2)結腸外腫瘍の発生の2つがある。

大腸腺腫性ポリポーシス(APC)

染色体5q21上のAPC遺伝子は、細胞接着およびシグナル伝達に重要な2,843個のアミノ酸から成る蛋白をコードする;β-カテニンはその主要な下流標的である。APC遺伝子は腫瘍抑制遺伝子で、APC遺伝子の欠失は、染色体不安定性大腸腫瘍発生経路における最も初期の事象の1つである。大腸腫瘍の素因において重要なAPCの役割は、APC生殖細胞病原性多様体とFAPおよびAFAPとの関連性によって裏付けられている。これら両疾患は、末梢血白血球から得られたDNAにおけるAPC遺伝子の生殖細胞病原性多様体を検査することによって、遺伝学的に診断が可能である。FAP家系のほとんどにAPC遺伝子の変化が主として遺伝子の上流側の半分にみられ、切断型病原性多様体が生じる。 [26] [27] AFAPは、主に遺伝子の5'末端および3'末端に発生する切断型病原性多様体と、おそらく他の位置のミスセンス多様体とも関連している。 [28] [29] [30] [31]

APC遺伝子のさまざまな疾患関連病原性多様体が300以上報告されている。 [27] これらの変化の大部分は、挿入、欠失、ナンセンス多様体であり、これにより起こる遺伝子の転写産物においてフレームシフトおよび/または早期終止コドンが生じる。最もよくみられるAPCの病原性多様体(FAP患者の10%)はコドン1309にみられるAAAAG配列の欠失である;これ以外の病原性多様体は優勢ではないようである。APC蛋白の産生を完全阻止するのではなく減少させるような多様体もまた、FAPの原因となりうる。 [32]

コドン169とコドン1393との間に発生するAPC遺伝子の病原性多様体のほとんどは、古典的FAPの表現型となる。 [28] [29] [30] 遺伝子内の病原性多様体の発生位置と、結腸以外の腫瘍の分布、ポリポーシスの重症度、先天性網膜色素上皮細胞肥大などの臨床的表現型との相関に高い関心がもたれている。最も一貫して観察されているのは、軽症型ポリポーシスおよび古典的FAPのやや非典型的なものがエクソン4の内部または前方、およびエクソン15の後半3分の2の位置に生じる病原性多様体と関連すること [29] 、および網膜病変はエクソン9より前方に生じる病原性多様体とはまれにしか関連しないことである。 [30] [33] エクソン9の病原性多様体は、軽症型ポリポーシスとの関連も認められている。さらに、エクソン9の多様体を認める個人には十二指腸腺腫がみられない傾向がある。 [34]

結腸ポリポーシスの密集度

研究者らは、古典的FAPの特徴であるカーペット状に密集した結腸ポリープがAPC遺伝子の病原性多様体を有する患者のほとんどにみられ、特にコドン169~1393の間に多様体を生じた患者に顕著にみられることを明らかにしている。その対極にある散在性のポリープは、APC遺伝子の最末端部またはエクソン9に病原性多様体を生じた患者の特徴である。(詳しい情報については、本要約の弱化家族性大腸腺腫症[AFAP]のセクションを参照のこと。)

結腸外腫瘍

デスモイド腫瘍

デスモイド腫瘍は、コラーゲン基質に生じる増殖性、局所浸潤性かつ非転移性の線維腫性腫瘍である。この腫瘍が転移することはないが、きわめて侵攻的に増殖し、生命にかかわりうる。 [35] デスモイド腫瘍は散発性に発生し、古典的FAPの一部として、またはFAPの結腸所見がみられない遺伝形態で発現する。 [16] [36] デスモイド腫瘍は結腸の典型的な腺腫性ポリポーシスを伴っていない場合にも、遺伝性のAPC遺伝子の病原性多様体を有している。 [36] [37]

大半の研究から、FAP患者の10%(8~38%)がデスモイド腫瘍を発症することが分かった。その発生率は、確認の手段およびAPC遺伝子に病原性多様体が生じる位置によって異なる。 [36] [38] [39] コドン1445と1578との間に発生するAPC遺伝子の病原性多様体は、FAP患者におけるデスモイド腫瘍の発生率増加と関連している。 [33] [37] [40] [41] 晩期に発症し、より軽度の腸ポリポーシス表現型を有するデスモイド腫瘍(遺伝性デスモイド疾患)が、コドン1924に病原性多様体を有する患者において報告されている。 [36]

デスモイド腫瘍を発症する可能性が高い患者を同定する試みとして、デスモイド危険因子スケールが記述されている。 [42] デスモイド危険因子スケールは、性別、結腸外症状の有無、デスモイド腫瘍の家族歴、および利用可能であれば遺伝子型に基づいていた。このスケールを用いることで、デスモイド腫瘍発症についてFAP患者の低リスク、中リスク、および高リスク群への層別化が可能となった。著者らは、外科治療の計画にデスモイド危険因子スケールを用いることができると結論付けた。このスケールに含まれる危険因子の妥当性は、欧州の大規模な複数登録のレトロスペクティブ研究によって支持された。 [43]

デスモイド腫瘍の自然経過は多様である。線維芽細胞の機能異常が腸間膜斑様のデスモイド前駆病変となり、一部の症例ではそれが手術の前に発生し、手術による外傷後に腸間膜線維腫症に進行して、最終的にデスモイド腫瘍を引き起こすというデスモイド腫瘍形成のモデルを提案している著者もいる。 [44] デスモイドの10%が消失、50%が長期間にわたり安定した状態を維持し、30%が変動、10%が急速に増殖すると推定されている。 [45] デスモイド腫瘍は外科的損傷および生理的損傷を受けたのちにしばしば発生し、内分泌性因子および遺伝因子の両因子のかかわりが考えられている。FAPにおける腹腔内デスモイドの約80%は手術による外傷後に生じる。 [46] [47]

FAP患者のデスモイド腫瘍はしばしば腹腔内に位置し、早若年期にみられ、腸閉塞または梗塞、および/または尿管閉塞に至ることがある。 [39] 一部のシリーズでは、デスモイド腫瘍はFAP患者で大腸がんに次いで2番目に多い死因である。 [48] [49] 腹腔内デスモイドの層別化を疾患の重症度によって容易にする病期分類システムが提案されている。 [50] 腹腔内デスモイドに対して提案されている病期分類システムは以下の通りである:症候のない非増殖性のデスモイドにはI期;最大径が10cm以下の症状のある非増殖性のデスモイドにはII期;11~20cmの症状のあるデスモイドまたは症候のない増殖が遅いデスモイドにはIII期;20cmを超えるデスモイド、急速に増殖するデスモイド、または致死的な合併症を伴うデスモイドにはIV期。 [50]

これらのデータは、遺伝子検査はFAP患者および/または多発性デスモイド腫瘍患者の医学的管理に価値があることを示唆している。特にデスモイド腫瘍形成の素因となるAPC遺伝子型(例えば、APC遺伝子のコドン1445の3'末端の変異)を有する患者では、リスク低減のための結腸切除術および腹腔鏡検査などの外科的サーベイランス処置を含む外科処置を受けた後でも、デスモイド腫瘍の発生リスクが高いと考えられる。 [38] [45] [51]

FAPにおけるデスモイド腫瘍の管理は困難が予想され、その予防努力は複雑になりうる。現在のところ、デスモイド腫瘍には標準治療として受け入れられている治療法は存在しない。デスモイド腫瘍の管理という点では、複数の医学的治療をもってしても成功は得られていない。治療には、特に抗エストロゲン薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、化学療法、放射線療法が含められてきた。いくつかの研究で、ラロキシフェン単独、スリンダクと併用するタモキシフェンまたはラロキシフェン、およびピルフェニドン単独の使用が評価されている。 [52] [53] [54] FAP患者におけるデスモイド腫瘍を治療するためのメシル酸イマチニブの使用について逸話的な報告がある;しかしながら、さらなる研究が必要である。 [55] 症候性の切除不能腹腔内デスモイド腫瘍を有し、ホルモン療法に失敗した7人の患者では、化学療法(ドキソルビシンおよびダカルバジン)後にメロキシカムで治療されたときに、デスモイド腫瘍の明らかな退縮が報告された。 [56]

腹腔内デスモイド腫瘍および/または他の医学的治療への不良な反応を示し、デスモイド腫瘍組織においてエストロゲンα受容体の発現が認められた患者13人が、120mg/日の用量で投与するラロキシフェンのプロスペクティブ研究に含められた。 [52] 患者の6人は、ラロキシフェンによる治療の前にタモキシフェンまたはスリンダクの投与を受けており、7人の患者は未治療であった。腹腔内デスモイド腫瘍の患者13人はすべて、治療開始後7~35ヵ月で部分奏効または完全奏効を示し、ほとんどのデスモイド腫瘍は治療後4.7 ± 1.8ヵ月でサイズが縮小した。デスモイドプラーク(desmoid plaques)のほか、別の病変を有する患者において反応がみられた。研究を制限するものとしてサンプルサイズが小さいことが挙げられ、反応の臨床評価はすべての患者で一貫していなかった。ラロキシフェンを受けているエストロゲンα受容体を発現していないデスモイド腫瘍の患者とその治療成績に関して、およびこの潜在的な治療によりどの患者が利益を得られるのかに関して、いくつかの問題が依然として残る。

FAP関連デスモイド腫瘍で、スリンダク300mg/日と併用してタモキシフェン120mg/日またはラロキシフェン120mg/日で治療された患者13人の第2の研究では、10人の患者が6ヵ月以上疾患の安定(n = 6)または部分・完全奏効(n = 4)を示し、3人の患者では30ヵ月以上にわたって疾患の安定が得られたことが報告された。 [53] これらの結果から、これらの薬物の併用はデスモイド腫瘍の増殖を少なくとも遅らせるのに有効であるということが示唆されている。しかしながら、デスモイド腫瘍の自然経過は多様であり、自然退縮するものも、増殖速度が定まらないものもある。

第3の研究では、FAP関連デスモイド腫瘍に対してピルフェニドンでの治療が2年間行われた患者14人で雑多な結果が報告された。 [54] この研究では、退縮がみられた患者、増悪がみられた患者、および疾患が安定していた患者が認められた。

これら3件の研究は、FAP患者におけるデスモイド腫瘍の研究で生じた以下のような問題を明示している:


  • デスモイド腫瘍の定義は一貫性なく用いられている。

  • 一部の患者では、デスモイド腫瘍は進行しないかあるいは増殖が非常に遅く、治療を必要としないことがある。

  • 治療に対する反応を評価する上で一貫性のある系統的な方法が存在しない。

  • ランダム化試験を実施できるほど十分な患者を登録するような単一の施設が存在しない。

これらの薬物を用いるランダム化臨床試験はこれまでに1件も行われておらず、臨床現場での使用は逸話的経験のみに基づくものである。

証拠レベル:4

合併症発生率と再発率が高いことから、腹腔内デスモイド腫瘍の治療では一般に外科的切除は推奨されない。しかしながら、一部には、内科的療法が有効でないことから、たとえ外科手術で起こる可能性のある危険性を考慮し、かつすべてのデスモイドが切除可能というわけではないということを認識した上でも、外科切除の役割を主張する者もある。 [57] ある病院での経験に関する最近のレビューでは、腹腔内デスモイドへの外科手術の結果はそれまでに信じられていたものよりも良好となりうることが示唆された。 [57] [58] ただし外科手術の結果に関するデータを評価する上では、対象の選択の問題がきわめて重要となる。 [58] 腹壁デスモイド腫瘍は外科的切除により治療可能であるが、再発率が高い。

胃の腫瘍

FAPと関係する最も一般的な胃ポリープは胃底腺ポリープ(FGP)である。FGPはしばしばびまん性で内視鏡による除去を施行できない。FGPの発生率は、一般集団の0.8~1.9%に対し、FAP患者では60%に及ぶと推定されている。 [17] [19] [59] [60] [61] [62] [63] このポリープは、胃底腺上皮細胞または胃小窩粘液細胞(foveolar mucous cell)により裏打ちされた小嚢腫を含む、ゆがんだ胃底腺で構成される。 [64] [65]

過形成性表面上皮は定義上、非腫瘍性である。したがって、FGPは前がん性とは考えられていない;西洋諸国のFAP患者における胃がんのリスクは、もしあるとしてもわずかにしか増加しない。しかしながら、FGPから発生したと思われる胃がんの症例が報告されており、この問題が再調査されている。 [19] [66] 1件のFAPのシリーズによると、FGPの表面上皮における限局性異形成はFAP患者では25%で明らかであったのに対し、散発性FGPでは1%であった。 [65] 食道胃十二指腸鏡検査によるサーベイランスを受けていたFAP患者を対象とした1件のプロスペクティブ研究において、患者の88%にFGPが発見された。これらの患者の38%に低悪性度の異形成が発見されたのに対して、高悪性度の異形成はこれらの患者の3%に発見された。著者の見解によれば、高悪性度の異形成を伴うポリープが同定された場合、3~6ヵ月間隔で内視鏡的サーベイランスを繰り返すポリープ切除術を検討できる。また毎日のプロトンポンプ阻害薬(PPI)による治療を検討することも可能であろう。 [67]

FGPはPPIを服用している非FAP患者にみられることが増えており、これが鑑別診断の問題を複雑にしている。 [65] [68] この状況におけるFGPは一般的に、胃壁細胞内の分泌顆粒のうっ滞から成る「PPI作用」を示し、胃底腺管腔につながる個々の細胞の不規則な膨隆を引き起こす。訓練を受けた人が見ると、異形成が存在し同時に特徴的なPPI作用が認められない場合に、基礎にあるFAPの存在が強く示唆されるとみなされる。FGPの数は、一部重複はあるものの、PPIを服用している患者にみられるよりもFAP患者の方が多い傾向がある。

FAP患者では胃腺腫も発生する。西洋諸国の患者における胃腺腫の発生率が2~12%と報告されている一方で、日本人患者の発生率は39~50%と報告されている。 [69] [70] [71] [72] こうした腺腫はがんに進行することがある。韓国および日本のFAP患者は一般集団のリスクより3倍~4倍高い胃がんリスクを有することが報告されているが、西洋諸国の集団ではこの知見は観察されていない。 [73] [74] [75] [76] 胃腺腫に対して推奨されている管理は、ポリープ切除術である。胃の腺腫の管理は、腺腫の大きさおよび異形成の程度によって個別に考慮すべきである。

証拠レベル:5

十二指腸/小腸腫瘍

十二指腸腺腫の発生率は上部消化管内視鏡検査を受けた一般患者ではわずか0.4%であるが [77] 、FAP患者においては80~100%で発見される。その大多数は十二指腸の球部および下行脚、特に膨大部周囲領域に位置する。 [59] [60] [78] FAP患者における十二指腸腺がんの生涯における発生率は4~12%である。 [14] [75] [79] [80] 北部ヨーロッパのFAP罹患者368人を対象とした十二指腸腺腫の多施設プロスペクティブサーベイランス研究において、ベースライン時の評価(平均年齢38歳)では65%に腺腫がみられ、70歳までの累積有病率は90%に達した。サーベイランスの下でがんが発生したのはわずか4.5%であったものの、臨床経過は緩慢であろうという当初の認識とは対照的に、平均8年間のサーベイランスの間に腺腫は増大し、異形成の程度も上昇した。 [17] この研究は現時点で最も規模が大きいが、側視型ではなく直視型の内視鏡を使用したこと、およびこの研究に関与した研究者の数が多かったことから限界がある。FAP患者における腸管ポリープの評価が可能な別の方法はカプセル内視鏡である。 [81] [82] [83] コンピュータ断層撮影(CT)十二指腸造影に関する1件の研究により、比較的大きな腺腫サイズは正確に測定できるが、腺腫が小さく扁平になるほど正確にカウントできないことが明らかにされた。 [84]

FAP患者を対象としたレトロスペクティブ・レビューから、膨大部領域がんについて腺腫、高悪性度異形成、腺がんの診断時平均年齢がそれぞれ39歳、47歳、54歳であったことが示され、adenoma-carcinoma sequenceの順を追った発生が示唆された。 [85] FAP患者601人を対象とした意思決定に関する分析では、定期的なサーベイランスを30歳から開始することで7ヵ月間の余命延長という有益性がもたらされたことが示唆された。 [79] 十二指腸ポリープは治療困難となりうるが、少数の症例報告からは、潜在的な合併症-主に膵炎、出血、および十二指腸穿孔-を伴わなければ、内視鏡でうまく管理できるということが示唆されている。 [86] [87]

特に、密集性ポリポーシスと呼ばれることもある重症の十二指腸ポリポーシスまたは組織学的に進行した十二指腸腺腫をもつFAP患者は、十二指腸腺がんの発症リスクが最も高いと考えられる。 [17] [80] [88] [89] 十二指腸腺がんのリスクは、ポリープの数と大きさおよびポリープの異形成の程度と相関することから、十二指腸腺がんの発症リスクが最も高いFAP罹患者を同定するために、これらの特徴に基づく層別化システムが作り出された。 [89] Spigelman分類(表5を参照のこと)として知られるこのシステムによれば、十二指腸ポリポーシスの病期が最も進行した患者の36%ががんを発症する。 [80]

表5.Spigelman分類

ポイント ポリープ数 ポリープの大きさ(mm) 組織学 異形成
I期、1-4ポイント;II期、5-6ポイント;III期、7-8ポイント;IV期、9-12ポイント
1 1–4 1–4 管状腺腫 軽度
2 5–20 4–10 管状絨毛腺腫 中程度
3 >20 >10 絨毛腺腫 重度


FAP患者では25~30歳の間に側視型十二指腸鏡検査を含めてベースラインの上部内視鏡検査を実施すべきである。 [76] その後の内視鏡検査を実施する間隔は、その前の内視鏡検査の所見(しばしば、Spigelman病期に基づく)に応じて異なる。推奨される間隔は専門家の意見に基づくが、0~II期の疾患に対する比較的物惜しみしない間隔は、オランダ/スカンジナビアの十二指腸サーベイランス試験(表6を参照のこと)で引き出された自然史のデータに部分的に基づいている。 [17]

Spigelman分類の主な利点は、この分野の医療関係者がこの分類法を長年利用して精通していることで、研究間の転帰を比較する上で妥当な標準化が可能なことである。 [72] [90] しかしながら、Spigelman分類を適用しようとする場合には、以下に示すようにいくつかの制限がある:


  • ほとんどの病理医が現在は「中程度の異形成」という用語を使用しておらず、より簡便な低悪性度または高悪性度の異形成による分類を好んで使用している。

  • 正常な十二指腸上皮は絨毛を有するため、病理医は一般に、「管状」、「管状絨毛」、「絨毛」の分類には賛同していない。

  • Spigelman分類では生検が必要であるが、小さなプラークが2~3個しか見られない場合は必ずしも生検は必須ではない;逆に比較的大きな腺腫では、標本採取の差異によって過小診断を招く。 [91] [92]

表6.Spigelman病期により推奨されるスクリーニングの間隔

Spigelman病期 NCCN(2016) Groves et al.(2002)
CP = 化学予防;ET = 内視鏡療法;GA = 全身麻酔薬;NCCN = National Comprehensive Cancer Network。
化学予防に関する詳しい情報については、本要約の主要遺伝子による症候群のセクションのFAPに対する介入のサブセクションを参照のこと。
Spigelman病期のIV期疾患における外科的切除の使用に関する追加の情報については、下記を参照のこと。
0(ポリープなし) 4年ごとの内視鏡検査 5年ごとの内視鏡検査
I 2~3年ごとの内視鏡検査 5年ごとの内視鏡検査
II 1~3年ごとの内視鏡検査 3年ごとの内視鏡検査
CP + ET
III 6~12ヵ月ごとの内視鏡検査 1~2年ごとの内視鏡検査
CP + ET(+/- GA)
IV 外科への紹介 外科的切除
十二指腸乳頭に病変が見られる場合は、粘膜完全切除または十二指腸切除、もしくはWhipple法
または
3~6ヵ月ごとの専門医による内視鏡サーベイランス 1~2年ごとの内視鏡検査
CP + ET(+/- GA)


北欧諸国およびオランダのFAP患者を対象に十二指腸腺腫を長期間サーベイランスした結果、FAP患者において十二指腸がんの有意なリスクが明らかにされた。 [94] プロトコルに従って、1990年から2000年まで2年ごとに正面像の内視鏡検査が実施された。その後、患者は国際的なガイドラインに従ったサーベイランスで追跡された。内視鏡検査を2回以上受けた患者304人中261人(86%)が研究群に含められた。追跡期間中央値は14年(範囲、9~17年)であった。十二指腸腺腫症の生涯リスクは88%であった。44%の患者では時間の経過とともにSpigelman病期が悪化した一方、12%は改善し、34%は変化が認められなかった。20人の患者(7%)が年齢中央値56歳(範囲、44~82歳)で十二指腸がんを発症した。累積がん発生率は75歳で18%(95%CI、8-28)であった。症状が認められるがんを有した患者の生存は、サーベイランスのための内視鏡検査で診断されたがん患者よりも不良であった。

証拠レベル(十二指腸/小腸腫瘍のスクリーニング):3

ポリポーシスの程度をはじめ、ポリープ以外の疾病の合併、患者の意向、そして十分な訓練を積んだ医師がいるかどうかなど多くの要素によって、ポリープの処置に外科的治療か内視鏡的治療のどちらが選択されるかが決まる。大きな、または組織学的に進行した腺腫の内視鏡的切除術または焼灼術(ablation)は十二指腸腺がん発生の短期リスクの低下に安全で、有効と思われる [86] [87] [95] ;しかし、腺腫の内視鏡的切除の処置を受けた患者には、十二指腸内に腺腫が再発するリスクがかなり残る。 [91] 腺がんリスクを低下させる最も根治的な手技は、膨大部と十二指腸の外科的切除であるが、これらの手技はまた、内視鏡的治療を実施する以上に、治療に伴う罹病率および死亡率も高い。十二指腸切開術および十二指腸ポリープの局所切除または粘膜切除が報告されているが、これらの手技ではその後例外なくポリープの再発がみられている。 [96] FAPおよびSpigelman病期がIII期またはIV期疾患で根治的手術を受けた患者47人を対象としたシリーズにおいて、局所再発率は平均追跡期間44ヵ月の時点で9%と報告された。この局所再発率は、同じ研究の内視鏡または手術によるどの局所アプローチよりも劇的に低い。 [91] 膵頭十二指腸切除と膵臓温存十二指腸切除術は、膨大部周囲の腺がん発生リスクを実質的に低下させると考えられる適切な外科的治療である。 [92] [96] [97] [98] そのような外科手術の選択が考えられる場合、大半の患者は回腸直腸吻合術とともに結腸亜全摘術を受けるか、または回腸嚢肛門吻合術(IPAA)とともに結腸全摘除術を受けることになるため、この患者群では幽門の温存が特に有益である。北部ヨーロッパの研究 [17] や他の研究 [99] [100] で指摘されているように、十二指腸腺腫患者の大多数はがんを発症せず、内視鏡検査による経過観察が可能である。しかしながら、進行性腺腫(Spigelman病期がIII期またはIV期の疾患)を有する患者は一般に、ポリープの内視鏡的または外科的治療を必要とする。FAP患者の十二指腸腺腫に対する化学的予防研究が現在進められているので、将来は従来のものに代わる戦略を提供できよう。

比較的大きなおよび/または扁平な十二指腸腺腫に対する内視鏡的アプローチは、膨大部に病変が見られるかどうかによって異なる。エピネフリンおよび/またはインジゴカルミンなどの色素を併用する、または併用しない生理食塩水の粘膜下注入後の内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、膨大部以外の病変に使用できる。膨大部病変には、胆管または膵管に病変の証拠がないか、超音波内視鏡検査で評価するなど、さらに慎重なケアが必要である。膵管のステント術は一般に、狭窄と膵炎を予防するために実施される。ステントは1~4週間後に内視鏡で除去する必要がある。膨大部は管の開口部で接続しているため、典型的には生理食塩水の注入を行っても均一には「持ち上げ(lift)」られず、したがって一般的に注入は利用されない。EMRまたは膨大部切除術を検討する場合には常に、豊富な経験と優れた判断力が必要であり、病変を治療しない場合の自然史を注意深く検討し、内視鏡による積極的な介入を行っても腺腫の再発率が高いことを理解しておかなければならない。 [87] [91] [92] [97] [101] [102] [103] [104] Spigelman病期がIV期の疾患に対しては、文献は一様に十二指腸切除術を支持している。Spigelman病期がII期およびIII期の疾患については、認められる最も不良な1つまたは2つの病変に一定して焦点を当てる内視鏡的治療が役割を果たしている。

外科的切除の検討に対する躊躇は、手術に関係する短期の罹病率および死亡率の高さや長期の合併症と関係がある。こうした懸念は強調されすぎている可能性があるが [91] [92] [98] [101] [105] [106] [107] [108] [109] [110] [111] 、外科的介入の恐怖が積極的でいくぶん助言が不十分な内視鏡的介入につながっている可能性がある。状況によっては、膨大部および/または他の十二指腸腺腫の内視鏡的切除術は内視鏡による手技では完全にまたは安全に行えず、十二指腸切除術は短腸症候群のリスクなしに実施できず、あるいは腸間膜線維症のために全く実施できないことがある。このような症例では、経十二指腸的膨大部切除術/ポリープ切除術が実施できる。しかしながら、この手術の局所再発リスクは高く、内視鏡的治療の再発リスクとほぼ同じである。

証拠レベル(十二指腸/小腸腫瘍の治療):4

その他の腫瘍

FAPで発生する腫瘍の範囲は表4にまとめられている。

甲状腺乳頭がんはFAP患者の1~2%が罹患すると報告されている。 [112] しかしながら、FAP女性6人の甲状腺乳頭がんに関する最近の研究 [113] では、6つの腫瘍のコドン545および1061~1678の野生型アレルにおけるヘテロ接合性の消失(LOH)または病原性多様体を実証できなかった。さらに、これらの患者の5人中4人は、検出可能な体細胞性のRET/PTCキメラ遺伝子を有していた。この病原性多様体は一般に散発性甲状腺乳頭がんに限定されており、APC遺伝子の病原性多様体以外の遺伝的因子の関与を示唆している。FAP患者における甲状腺乳頭がんの原因に関してRET/PTCキメラ遺伝子など他の遺伝的因子が独立して原因となっているか、あるいはAPC遺伝子の多様体との共同により発現しているかどうかを明らかにするためにはさらなる研究が必要である。証拠レベル1の証拠は不足しているが、統一見解ではFAP患者における甲状腺乳頭がんがないかスクリーニングを行うため10代後半に開始する年1回の甲状腺検査を推奨している。同じパネルにより、臨床家はこのスクリーニングのルーチンに年1回の甲状腺超音波検査を追加してもよいと提案されている。 [93] [114] [115]

証拠レベル(甲状腺がんのスクリーニング):4

FAP患者において副腎腫瘍が報告されており、1件の研究ではFAP患者の副腎皮質がん(ACC)におけるLOHが証明された。 [116] 腹腔内デスモイド腫瘍の評価のために腹部CTを受けたFAP患者162人の研究において、15人の患者(女性11人)が副腎腫瘍を有することが示された。 [117] これらのうち、2人はコルチゾル過分泌による症状を示した。これらの患者のうちの3人はその後手術を受け、ACC、両側性結節性過形成、副腎皮質腺腫があったことが明らかになった。このコホートにおける副腎腫瘍の有病率は予想外のもので、非FAP患者の有病率0.6~3.4%に対して7.4%であった(P < 0.001)。 [117] このシリーズで切除された腫瘍に対する分子遺伝学的解析は提供されなかった。

肝芽腫はまれな急速に進行する、通常致死的な小児悪性腫瘍であり、肝に限局している場合は根治的外科的切除術により治癒可能である。複数の肝芽腫症例がAPC病原性多様体を認める小児において報告されている。 [118] [119] [120] [121] [122] [123] [124] [125] [126] [127] 複数の研究シリーズでもまた、これらの腫瘍におけるAPCのLOHを証明している。 [119] [121] [128] 肝芽腫を伴うFAP患者では、特異的な遺伝子型と表現型の相関は確認されていない。 [129] 証拠レベル1の証拠は不足しているが、コンセンサス・パネルでは、FAPの素因を有する小児において生後5年間、3~6ヵ月ごとの腹部診察、腹部超音波検査、および血清αフェトプロテインの測定を検討することを提案している。 [93] [130]

証拠レベル(肝芽腫のスクリーニング):5

大腸がんおよび脳腫瘍の集団はターコット症候群と呼ばれている;しかしながら、ターコット症候群は分子的に不均一である。分子的研究により、結腸ポリポーシスおよび髄芽腫はAPCの病原性多様体と関連しているのに対し、結腸がんおよび膠芽腫はミスマッチ修復(MMR)遺伝子の病原性多様体と関連していることが実証されている。 [131]

FAPと関連する結腸以外の腫瘍は他にも複数の報告があるが、これらが結腸腫瘍と単純に併発しているか、または実際に共通の分子遺伝的起源を共有しているかどうかは、必ずしも明らかではない。これらの報告の一部で、FAP患者の結腸以外の腫瘍において野生型APCアレルのLOHまたは多様体が証明されており、このことからFAP症候群にこれらを含めることを支持する主張が高まっている。

FAPの遺伝子検査

APCの遺伝子検査は既に商業化されており、この検査により病原性多様体のキャリアでないことが示された人々に関する部分を中心に、管理ガイドラインに変更が加えられるようになってきている。APC病原性多様体の連鎖 [22] および直接検出 [132] によって、FAPのリスクを有する個人の発症前の遺伝子診断が可能になってきている。こうした検査には、リンパ球DNAを検査するため少量の血液検体(10cc未満)が必要となる。遺伝子変異のキャリアを同定するために連鎖解析を用いる場合、2人以上の罹患者を含めた付随する家系員も調べる必要性も出てくる。直接検出では、血液検体が必要となる家系員の数が連鎖解析の場合よりも少なくて済むが、DNA多様体解析または塩基配列決定法によって罹患者の少なくとも1人に特異的病原性多様体を同定しなければならない。検出率は、DNA塩基配列決定法のみを利用した場合で約80%である。 [133]

諸研究から、それまでAPC検査陰性であったFAP患者の12%に全エクソンの欠失が報告された。 [134] [135] このため、欠失の検査がAPC塩基配列決定法に対する任意の補助として追加されている。さらに、MLPA法を用いる病原性多様体の検出分析が開発中であり、遺伝子内の欠失発見について正確であるとみられる。 [136] MYH遺伝子の検査はAPC病原性多様体陰性の罹患者に考慮される。 [137] (詳しい情報については、本要約の 大腸腺腫性ポリポーシス[APC] のセクションを参照のこと。)

100未満の大腸腺腫性ポリープを発現する患者は、診断が困難である。鑑別診断には、AFAPおよびMYH関連大腸新生物(MYH関連ポリポーシスまたはMAPとしても報告されている)を含めるべきである。 [138] AFAPは、生殖細胞系APC遺伝子の病原性多様体に対する検査で診断可能である。(詳しい情報については、本要約の主要遺伝子による症候群のセクションの弱化家族性大腸腺腫症[AFAP]のサブセクションを参照のこと。)MYH関連新生物は、MYH遺伝子の劣性病原性多様体が生殖細胞系でホモ接合性に発生することによって引き起こされる。 [139]

FAPのリスクを有していても、発症前遺伝子検査により、この家族性遺伝子の病原性多様体をもたないと判定された人は、年1回のスクリーニングの必要がなくなる。FAPのリスクを有しているが遺伝子検査によって病原性多様体陰性が確認されている人への結腸スクリーニングについては、その必要性または頻度についてはっきりとした共通の見解はないものの [21] 、成人期の早期(18-25歳まで)にS状結腸内視鏡検査または大腸内視鏡検査を少なくとも1回実施すべきであるという点では、専門家の意見は完全に一致している。 [21] [22] APC遺伝子の病原性多様体が陽性の人では、結腸腺腫がほぼ100%に発生する;そのため、ポリープが発生して、内視鏡的切除術を用いて安全にモニターするにはあまりにも数が多かったり、組織学的に進行していたりする場合は、リスク低減のための手術が結腸がんを予防する標準治療となる。

FAPに対する介入

家系または自身における既知のAPC病原性多様体のためにFAPのリスクがある個人は、S状結腸内視鏡検査または大腸内視鏡検査によるポリポーシス発生の評価を受ける。FAPの家系員にポリープの発生がいったん明らかになれば、大腸がんを予防するための効果的な管理は最終的な結腸切除術のみである。予防的手術により、FAP患者における生存が改善することが示されている。 [140] 登録とサーベイランスにより大腸がんの発生率および死亡率が低下することがレトロスペクティブに示されているため、可能であれば、患者とその家系員を登録に含めるべきである。 [141] 経過のごく初期で同定された古典的FAPの患者では、外科医、内視鏡医、および家族が社会的に重要な段階を達成するために数年間の手術延期を選択することがある。また、慎重に選択したAFAP患者(ポリープ負荷が最低限で高齢の患者)において、結腸切除術の決定を延期し、ポリープ負荷または異形成の進行に直面した場合にのみ手術を実施することは妥当であろう。

ポリポーシスの有無についてのサーベイランス開始の推奨年齢には諸条件との兼ね合いが関わってくる。まず一方で、サーベイランスの開始を10代後半まで待つ場合には、それまでにがんが発生する可能性がわずかにある。まれではあるが、APCの病原性多様体を有する10代の個人にも大腸がんが発生することがある。もう一方では、結腸切除術のタイミングという大きな外科的決定と向き合う前に、リスクを有する個人が感情面の発達を遂げていることが望ましい。このため、サーベイランスは10代前半(10~15歳)に開始されるのが通常となっている。サーベイランスの内容としては、S状結腸内視鏡検査か大腸内視鏡検査のいずれかを年1回実施する。 [93] [142] [143] S状結腸内視鏡検査を利用してポリープがみつかった場合には、大腸内視鏡検査を実施すべきである。歴史的に、S状結腸鏡検査は大多数の患者に早期腺腫を同定する際には合理的なアプローチとなっている。しかしながら、(a)結腸全体の大腸内視鏡検査のために向上した器具操作、(b)鎮静、(c)AFAPの認識(この疾患は典型的にほとんどが右側結腸に発生する)、および(d)手術を数年間延期する傾向の高まりに照らして、大腸内視鏡検査を選択すべきツールとして検討する必要がある。他の点では既知の家族性病原性多様体に対する検査が陰性であった個人は、FAP向けのサーベイランスを受ける必要はない。こうした個人は、平均リスク集団のスクリーニングを受けることが推奨される。罹患者において家族性多様体が同定されていない家系の場合は、臨床的サーベイランスが必要である。APC病原性多様体を保有することが判明しているが、まだポリープが発生しない個人では、場合によっては30~40代まで腺腫が発生しないこともあるため、結腸サーベイランスは中断すべきではない。(詳しい情報については、本要約の弱化家族性大腸腺腫症[AFAP]のセクションを参照のこと。)(これらの方法に関する詳しい情報については、大腸がんのスクリーニングのPDQ要約を参照のこと。)

場合によっては、結腸全体の大腸内視鏡検査の方が、より制約の多いS状結腸鏡検査よりも好まれる。小児消化器専門医の間では、内視鏡検査手技の耐容性は、一般により深い鎮静が得られる静脈内鎮静法を使用することで改善されるとみなされている。

表7では、FAPの診断およびサーベイランスに関して、異なる専門家学会による臨床診療ガイドラインを要約する。

表7.家族性大腸腺腫症(FAP)の診断および結腸サーベイランスのための臨床診療ガイドライン

団体 推奨される スクリーニング開始年齢 頻度 方法 解説
C = 大腸内視鏡検査;FS = S状結腸内視鏡検査;GI = 消化管;NA = 該当せず;NCCN = National Comprehensive Cancer Network。
a消化管の学会-American Academy of Family Practice、American College of Gastroenterology、American College of Physicians-American Society of Internal Medicine、American College of Radiology、American Gastroenterological Association(米国消化器病学会)、American Society of Colorectal Surgeons、およびAmerican Society for Gastrointestinal Endoscopy。
American Society of Colon and Rectal Surgeons (2001, 2003) [144] [145] [146] 実施する NA NA NA  
米国がん協会(2002) [147] NA 思春期 NA 内視鏡検査 提案されているFAPスクリーニングを専門に扱う施設への紹介。
GI Societies(2003)a [142] 実施する 10~12歳 年1回 FS  
NCCN(2016) [93] 実施する 10~15歳 年1回 FSまたはC リスクのある個人が、その家系の家族性ポリポーシスの原因となるAPC遺伝子の病原性多様体を保有していないことが判明した場合は、平均リスクの個人としてのスクリーニングが推奨される。


FAP患者と担当医師は、手術をいつ施行すべきかを決定するため、個別に検討を開始する必要がある。この場合、術後におけるデスモイド腫瘍の発生リスクを検討に加えることが有用である。リスク低減手術のタイミングは通常、ポリープの数、大きさ、組織学、および総体的症状による。 [148] 多数のポリープがいったん発生してしまうと、結腸切除術の実施時期を見極める上で、サーベイランスとしての大腸内視鏡検査はもはや有用ではなくなるが、これはポリープの数が多すぎてすべてのポリープについての生検や摘出が不可能となるためである。この時点で患者が、結腸全摘除術および結腸摘除後の再建術など、利用可能な選択肢の経験がある外科医と相談することが適切である。 [149] 直腸温存手術とS状結腸鏡検査による残存直腸のサーベイランスの継続は、結果を理解し定期的なサーベイランスにもかかわらず発生する直腸がんの残存リスクを受け入れるという、説明を受けた上での意思決定をするコンプライアンスの良い患者においては結腸全摘除術の妥当な代替法である。 [150]

手術の選択肢には、IPAAを伴う再建性直腸結腸切除術、回腸直腸吻合術(IRA)を伴う結腸亜全摘術、および回腸造瘻術を伴う全直腸結腸切除術(TPC)がある。TPCは括約筋を残せない下部直腸がんの患者または技術的問題のためにIPAAを実施できない患者にのみ用いられる。TPC実施後には、リスクのある粘膜がすべて切除されているため、直腸がんの発生リスクはなくなる。IRAを伴う結腸切除術と再建性直腸結腸切除術のいずれが施行されるにせよ、大半の専門家は、すべてのポリープを摘出または切除するために、直腸または回腸嚢の生涯にわたる定期的なサーベイランスの実施を推奨している。このことは、IRA後20年時の直腸腺がんの累積リスクを約25%と報告した、IRAを伴う結腸亜全摘術を施行したFAP患者の直腸がんに関するケースシリーズからも、再建性直腸結腸切除術実施後の回腸嚢および肛門管内の腺がんの症例報告からも、必要視されている。 [151] [152] [153] [154] IRA後の直腸がんの累積リスクは、文献で報告されているものより低い可能性があるが、それは一部には直腸におけるポリープ負荷が最小限の患者など、この手技に対する患者の選択がより適切であったためであろう。 [149] IRA実施後の直腸がんリスクを増加させると報告されているその他の因子には、IRA実施時の結腸がんの存在、直腸基部の長さ、およびIRA実施後の追跡期間が挙げられる。 [155] [156] [157] [158] [159] [160] [161] FAPに対する一次手術としてのIRAを併用した腹式結腸全摘術は、制御できない直腸ポリープおよび/または直腸がんに対して、後にIPAAへ転換する妨げとはならない。Danish Polyposis Registryで、患者24人を対象とした二次IPAA(先にIRA施行後)の合併症発生率および機能的結果が報告され、一次IPAAを受けた患者59人と同程度であった。 [162]

ほとんどの症例では、手術時の直腸における臨床的ポリープ負荷から外科的介入の種類、すなわちIPAAとIRAのいずれを用いる再建性直腸結腸切除術かが決まる。表現型が軽度(結腸腺腫が1,000未満)で直腸ポリープが20未満の患者は、予防的手術時にIRAの候補となりうる。 [163] しかしながら、一部の症例ではポリープ負荷がはっきりせず、このような症例に対して研究者らは直腸に関するその後の転帰を予測する上で遺伝子型の役割を検討している。 [164] IRA後の直腸がんリスクおよび最終的なcompletion proctectomyを増加させると報告されている病原性多様体には、エクソン15のコドン1250、エクソン15のコドン1309および1328における多様体、ならびにエクソン15のコドン1250とコドン1464との間の多様体が挙げられる。 [160] [151] [161] [165] IPAAを受けた患者では、回腸嚢での腺腫発生の累積リスクが15年で75%と報告されていることから、年1回のペースで回腸嚢のサーベイランスを継続していくことが重要である。 [166] [167] まれではあるが、再建性直腸結腸切除術を受けたFAP患者の回腸嚢および肛門移行部にがんが報告されている。 [168] 再建性直腸結腸切除術とIPAAの実施後のQOLに関するメタアナリシスにより、FAP患者では、瘻孔形成、回腸嚢炎、排便頻度、および漏出の点で、炎症性腸疾患の患者よりも経過がわずかに良好であることが示唆された。 [169]

特異的シクロオキシゲナーゼII(COX-2)阻害薬のセレコキシブ、およびスリンダクなどの非特異的COX-2阻害薬は、FAP患者におけるポリープのサイズおよび数を減少させる効果が明らかにされており、この疾患の治療における化学予防薬としての役割が示唆される。 [170] [171] セレコキシブは、米国食品医薬品局(FDA)により承認されていたが、その認可は、製造者により自主的に取り下げられた。現在のところ、FAPに対する化学予防薬で承認された薬剤はない。それでも、セレコキシブおよびスリンダクのような薬物が十分に広く使用されており、化学予防の臨床試験では、対照群としてこれらの薬物の1つがよく利用される。1件のランダム化試験では、セレコキシブ単独との比較で、セレコキシブおよびジフルオロメチルオルニチンの併用がポリープ負荷をわずかに改善する可能性が示された。 [172]

小児集団(10~14歳)を対象としたセレコキシブの小規模なランダム化プラセボ対照用量漸増試験では、セレコキシブを3ヵ月間投与した場合の安全性が全用量群で実証された。 [173] この研究では腺腫性ポリープ負担において用量依存性の軽減が認められた。16mg/kg/日の用量(成人で承認された400mg1日2回の用量に近い)で得られたポリープ負担軽減は、セレコキシブで成人を対象に実証されたものと同等であった。

遊離脂肪酸の一種であるオメガ3多価不飽和脂肪酸エイコサペンタエン酸により、直腸ポリープの数およびサイズが減少することが結腸亜全摘術後のFAP患者を対象とした小規模な研究で示されている。 [174] ランダム化試験で直接比較されたわけではないが、その効果は過去にセレコキシブで認められたものと大きさの点で同程度であるとみられる。

リスク低減手術を受けていないFAP患者の管理にCOX-2阻害薬をどのように組み込むかについてはまだ明確にはされていない。APC病原性多様体キャリアで未だポリポーシスが発生していない小児および若年成人41人を対象としたプラセボ対照二重盲検試験では、スリンダクがFAPの初期治療として効果的ではない場合があることが実証されている。4年間にわたる治療の間、ポリープの発生率、数、大きさのいずれについてもスリンダク群とプラセボ群との間に統計的有意差は認められなかった。 [171]

結腸ポリープに対するCOX-2阻害薬の効果と一致して、ランダム化プロスペクティブ二重盲検プラセボ対照試験において、セレコキシブは、6ヵ月で1コースの治療後(400mg、経口、一日2回)、FAP患者32人における十二指腸ポリープをなくしこそしなかったものの、ポリープの数を減らした。重要なことは、ベースライン時にポリープが十二指腸の5%を超えて発生している人においてのみ400mg経口一日2回の用量で、統計的に有意な効果がみられたことである。 [175] スリンダクで6ヵ月治療したFAP患者24人の以前のランダム化研究は、十二指腸ポリープの減少の傾向は有意ではなかった。 [176] 結腸ポリープの治療に対するCOX-2阻害薬の使用をめぐる問題と同様のことが十二指腸ポリープの治療におけるその使用にも当てはまる(例えば、ポリープが部分的にしか除去できないこと、COX-2阻害薬による合併症、および投薬が中止された後の効果の消失)。 [175]

十二指腸乳頭(胆管が腸につながる場所)の周囲では腺腫性ポリープが集積しやすく、Apc生殖細胞多様体を有するマウスにおいてウルソデオキシコール酸塩により腸腺腫が抑制されることを示唆する前臨床データのために [177] 、ウルソデオキシコール酸塩を用いる2件の試験が実施されている。 [178] [179] 両研究において、ウルソデオキシコール酸塩は十二指腸ポリープに対する有意な化学予防効果を有していなかった;逆説的に、1件の研究では、セレコキシブと併用するウルソデオキシコール酸塩はFAP患者においてポリープの密度を増進させたようである。

複数の報告で、ロフェコキシブおよびセレコキシブを投与中の患者における心臓関連イベントの増加が実証されたため [180] [181] [182] 、同種の薬物のFAP患者および一般集団への長期使用が安全かどうかは不明である。また、これらの試験は、短期試験(6ヵ月)だったので、現在のところCOX-2阻害薬投与中のFAP患者における心イベントについての長期的な臨床情報はない。

証拠レベル(セレコキシブ):1b

1件のコホート研究によって、FAPにおけるスリンダク(NSAID)治療で結腸腺腫および直腸腺腫の退縮が明らかにされている。この研究で報告される結果には、主要な関心事である大腸がんの発生率という臨床転帰の代替指標として、ポリープの数ならびに大きさが用いられた。 [183]

証拠レベル(スリンダク):1b

Apcmin/+マウスにおける小分子上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬および低用量スリンダクの前臨床研究で腸腺腫の発生が87%減少し [184] 、EGFR阻害薬にFAP患者における十二指腸ポリープを抑制する可能性があることが示唆された。十二指腸ポリープを生じたFAPまたはAFAP患者を対象にした6ヵ月間の二重盲検ランダム化プラセボ対照試験で、プラセボとの比較でスリンダク1日2回150mg、およびエルロチニブ1日1回75mgの有効性が検討された。 [185] FAPまたはAFAPの患者92人が試験薬またはプラセボの投与にランダムに割り付けられ、近位十二指腸の10cmの区域におけるポリープ径の合計およびポリープ数の変化を検討するために治療の前後で上部内視鏡検査を受けた。この試験は主要エンドポイントが満たされたために早期に終了された。ITT(intent-to-treat)解析から、スリンダク/エルロチニブ群では十二指腸ポリープ負荷(径の合計)が中央値で8.5mm減少したのに対し、プラセボ群では8mm増加したことが示された(P < 0.001)。グレード1およびグレード2の有害事象の発生率は治療群のほうがプラセボ群より有意に高かった:治療群では60.9%がざ瘡様の発疹を、32.6%が口腔粘膜炎を生じた;プラセボ群では19.6%がざ瘡様の発疹を、10.9%が口腔粘膜炎を生じた。これまでのFAP患者の十二指腸ポリープに対するスリンダクおよびセレコキシブのわずかな効果 [171] [183] およびApcmin/+マウスにおける腸腺腫発生に対するEGFRの遺伝的阻害の劇的な効果 [186] に基づけば、この試験の成功の原因はエルロチニブにある可能性が高い。進行中の臨床試験で、より低用量のエルロチニブ単独でFAPおよびAFAP患者における十二指腸ポリープ負荷を有意に低下させるのに十分であるかどうかが検討されている。

証拠レベル(スリンダク + エルロチニブ):1b

APC遺伝子に生殖細胞病原性多様体を有する患者は、甲状腺がん、小腸がん、肝芽腫、脳腫瘍など、他の種類の悪性腫瘍のリスクが高い。しかしながら、これらの腫瘍のリスクは結腸がんのリスクよりはるかに低く、この分野の専門家によって推奨されているのは、胃粘膜および十二指腸粘膜の上部内視鏡によるサーベイランスのみである。 [10] [23] 検出された十二指腸ポリポーシスの程度は、十二指腸腺がんのリスクと関連しているようである。 [80] FAP患者において結腸以外の悪性腫瘍がないかのスクリーニングに関する詳しい情報については、十二指腸/小腸腫瘍のセクションおよび本要約の主要遺伝子による症候群内のその他の腫瘍のセクションを参照のこと。

弱化家族性大腸腺腫症(AFAP)

AFAPは不均一な疾患実体であり、古典的FAPと比べて大腸内に発生する腺腫性ポリープが少ないことを特徴とする。軽症型FAPは1990年に、腺腫の発生数が多様であったある大規模家系において臨床で初めて記載された。この家系における腺腫の平均個数は30個であったが、個々の発生数は数個から数百個までの広範囲に及んでいた。 [187] AFAPにおける腺腫は20歳代半ばから20歳代後半に形成されると考えられている。 [66] 古典的FAPと同様に、AFAPを有する人では大腸がんのリスクが高い;しかしながら、診断時の平均年齢は古典的FAPより高く、56歳であった。 [28] [29] [188] 古典的FAPと類似した結腸外症状がAFAPにおいても発現する。そうした症状としては、上部消化管ポリープ(FGP、十二指腸腺腫、および十二指腸腺がん)、骨腫、類表皮嚢胞、デスモイド腫瘍などが挙げられる。 [66]

またAFAPは、ミスセンス変異を含むAPC病原性多様体の特定のサブセットと関連している。AFAPを引き起こす位置特異的なAPC病原性多様体について、以下の3つのグループが特徴付けられている: [28] [29] [30] [31] [189] [190]


  • APCの5'末端およびエクソン4と関連する病原性多様体で、患者には2~500個以上の腺腫が発生し、また古典的FAPの表現型と上部消化管ポリープも含まれる。

  • エクソン9に関連する表現型で、患者には1~150個の腺腫が発生するものの、上部消化管での発生はみられない。

  • 3'末端領域の病原性多様体で、発生する腺腫の数は非常に少ない(50個未満)。

APCの遺伝子検査は、AFAPの疑いがある患者の評価には重要な要素である。 [191] AFAP患者の管理には、腺腫が主として右側性に発生する可能性があることから、S状結腸内視鏡検査ではなく大腸内視鏡検査の使用が推奨されている。 [191] AFAPにおけるリスク低減のための結腸切除術の役割とタイミングについては意見の分かれるところである。 [192] 生殖細胞系のAPC遺伝子の病原性多様体検査が、AFAPが疑われる個人において陰性の場合、MYH遺伝子の病原性多様体がないかを調べる遺伝子検査の実施が必要となる場合がある。 [134]

年齢に応じた大腸内視鏡検査で腺腫数が異常にまたは容認できないほど多いことが分かった患者では、鑑別診断が困難である。 [193] [194] 同じように罹患した近親者の家族歴が認められない場合、鑑別診断には、AFAP(MAPを含む)、リンチ症候群、または他には分類されない散発性または遺伝性の問題が挙げられる。家族歴の慎重な調査でAFAPまたはリンチ症候群が示される可能性がある。

表8では、AFAPのサーベイランスに関して、異なる専門家学会による臨床診療ガイドラインを要約している。

表8.弱化家族性大腸腺腫症(AFAP)の結腸サーベイランスのための臨床診療ガイドライン

団体 疾患 スクリーニング法 スクリーニング頻度 スクリーニング開始年齢 解説
IPAA = 回腸嚢肛門吻合術;IRA = 回腸直腸吻合術;NCCN = National Comprehensive Cancer Network。
aポリープ切除機能を備えた大腸内視鏡検査を使用してポリープを効果的に除去できるように、それぞれの直径が1cm未満の腺腫が20個未満で、組織学的に進行していないこと。
Europe Mallorca Group(2008) [195] AFAP 大腸内視鏡検査 2年ごと;腺腫が検出された場合は1年ごと 18~20歳  
NCCN(2016) [93] 腺腫量が少ないAFAPの個人歴a 大腸内視鏡検査 1~2年ごと   患者がIRAによる結腸切除術を受けた場合は、ポリープ量に応じて6~12ヵ月ごとの内視鏡的評価。
21歳以上の患者では、結腸切除術およびIRAを検討してもよい。
NCCN(2016) [93] 内視鏡的に腺腫量が対処可能なAFAPの個人歴 該当せず 該当せず 該当せず IRAによる結腸切除が望ましい。高密度直腸ポリポーシスであれば、IPAAによる直腸結腸切除を検討。
NCCN(2016) [93] 非罹患のリスクを有する家系員;家族性病原性多様体不明;APC病原性多様体状態が不明または陽性 大腸内視鏡検査 2~3年ごと 10代後半  


MYH関連ポリポーシス(MAP)

MAPは常染色体劣性様式で遺伝するポリポーシス症候群である。MYH遺伝子は、多発性結腸腺腫および大腸がんが認められるものの、APC病原性多様体がみられない3人の同胞において2002年に最初に同定された。 [139] MAPは広範な臨床スペクトラムを有する。MAPの臨床像は最も頻繁にはAFAPに類似するが、表現型が古典的FAPおよびリンチ症候群に類似した個人にもMAPが報告されている。 [196] MAP患者は、APCに病原性多様体が認められる患者よりも高齢での腺腫の発生が少ない傾向にあり [137] [197] 、大腸がんのリスクも高い(35~63%)。 [5] [198] 7,225人を対象とした大腸腺腫負荷に関する2012年の研究では、両アレル性 MYH病原性多様体の保有率が10~19の腺腫を有する患者で4%(95%信頼区間[CI]、3%-5%)、20~99の腺腫を有する患者で7%(95%CI、6%-8%)、100~999の腺腫を有する患者で7%(95%CI、6%-8%)であることが報告された。 [199] この広範な臨床症状は、MYH遺伝子がホモ接合性でも、複合型のヘテロ接合性でも疾患を引き起こす能力を有する結果である。複数のFAP登録からの諸研究によると、FAPの表現型を有しているが検出可能なAPC生殖細胞病原性多様体は認められない患者の約7~19%に、MYH遺伝子の両アレル性多様体が認められる。 [5] [137] [200] [201]

MAP患者では、腺腫、鋸歯状腺腫、および過形成性ポリープがみられることがある。大腸がんは発症時に右側性および同時性に発生する傾向があり、散発性大腸がんよりも予後良好なようである。 [202] 両アレル性MAPに対する臨床管理ガイドラインでは、18~30歳で開始する大腸内視鏡検査によるサーベイランスを年1回から3年ごとに繰り返し [93] [195] [198] 、上部内視鏡によるサーベイランスを25~30歳で開始する。 [195] (両アレル性MAP患者を対象とした結腸サーベイランスについて利用可能な臨床診療ガイドラインに関する詳しい情報については、表9を参照のこと。)推奨される上部内視鏡によるサーベイランスの間隔は、Spigelman病期に応じた病変量に基づくことができる。 [195] MYH関連ポリポーシス患者では、発症時に直腸がんが認められないか、重度の直腸ポリポーシスが認められず、かつ手術後に年1回の内視鏡サーベイランスを受けるのであれば、回腸直腸吻合術または結腸亜全摘術とともに行う結腸全摘除術が適切な場合がある。 [198] [203]

表9では、両アレル性MAPの結腸サーベイランスに関して、異なる専門家学会による臨床診療ガイドラインを要約している。

表9.両アレル性MYH関連ポリポーシス(MAP)の結腸サーベイランスのための臨床診療ガイドライン

団体 疾患 スクリーニング法 スクリーニング頻度 スクリーニング開始年齢 解説
CRC = 大腸がん;FDR = 第一度近親者;IPAA = 回腸嚢肛門吻合術;IRA = 回腸直腸吻合術;NCCN = National Comprehensive Cancer Network。
aポリープ切除機能を備えた大腸内視鏡検査を使用してポリープを効果的に除去できるように、それぞれの直径が1cm未満の腺腫が20個未満で、組織学的に進行していないこと。
Europe Mallorca Group(2008) [195] 両アレル性MYH病原性多様体キャリア 大腸内視鏡検査 2年ごと 18~20歳  
Nieuwenhuis et al.(2012) [198] 両アレル性MYH病原性多様体キャリア 大腸内視鏡検査 1~2年ごと    
NCCN(2016) [93] 腺腫量が少ないMAPの個人歴a 大腸内視鏡検査 1~2年ごと   患者がIRAによる結腸切除術を受けた場合は、ポリープ量に応じて6~12ヵ月ごとの内視鏡的評価。
21歳以上の患者では、結腸切除術およびIRAを検討してもよい。
NCCN(2016) [93] 重度のポリポーシスを伴うMAPの個人歴 該当せず 該当せず 該当せず IRAによる結腸切除が望ましい。高密度直腸ポリポーシスであれば、IPAAによる直腸結腸切除を検討。患者がIRAによる結腸切除術を受けた場合は、ポリープ量に応じて6~12ヵ月ごとの直腸の内視鏡的評価。
NCCN(2016) [93] 非罹患のリスクを有する家系員;家族性病原性多様体不明;MYH病原性多様体状態が不明または陽性(両アレル性) 大腸内視鏡検査 2~3年ごと 25~30歳 単一のMYH病原性多様体について陽性であれば、40歳か、該当すればFDRの大腸がん診断時年齢の10歳若い時点から大腸内視鏡検査を開始して5年ごとに繰り返す。


MAP患者では、胃がん、小腸がん、子宮内膜がん、肝がん、卵巣がん、膀胱がん、甲状腺がんのほか、黒色腫、扁平上皮がん、基底細胞がんをはじめとする皮膚がんなど、多くの結腸以外のがんが報告されている。 [204] [205] また、少数のMAP患者において、脂肪腫、先天性網膜色素上皮細胞肥大、骨腫、デスモイド腫瘍などの結腸外症状が報告されている。 [137] [205] [206] [207] 女性のMAP患者では、乳がんのリスクが高い。 [208] MAPのこれらの結腸外症状は、FAP、AFAP、またはリンチ症候群におけるほどの頻度では発生しないようである。 [209] [210]

MAPは常染色体劣性遺伝様式であることから、罹患者の同胞も両アレル性のMYH病原性多様体を保有する確率が25%あり、遺伝子検査を受診すべきである。同様に、罹患患者のパートナーに対しても、子供のリスクを評価できるように検査が提供されることがある。

片アレル性のMYH病原性多様体の臨床的表現型では、発生率および変異に関連した臨床的表現型の特徴が十分に明らかにされておらず、大腸ポリポーシスと大腸がんの発生機序における役割については依然として見解が分かれている。一般集団の約1~2%がMYHの病原性多様体を有する。 [5] [137] [139] 2011年のメタアナリシスにより、 片アレル性のMYH病原性多様体キャリアは、大腸がんのリスクがわずかに高い(オッズ比[OR]、1.15;95%CI、0.98-1.36)ことが明らかになった;しかしながら、片アレル性の病原性多様体キャリアがまれなことを考えると、大腸がん症例全体に占める割合はごくわずかである。 [211] このわずかなリスク増加に基づいて、これらの人をスクリーニングすることを提案している研究がある。 [197] [212]

MMR遺伝子はMYHと相互作用し、大腸がんリスクを増加させうる。MYHとMSH6との関連が報告されている。両蛋白は、塩基除去修復過程でともに相互作用する。ある研究において、大腸がんを有する片アレル性のMYH病原性多様体キャリアでは、非キャリアと比較してMSH6病原性多様体が有意に多くみられることが報告された(11.5% vs 0%;P = 0.037)。 [213]

Mut Y相同体

MUTYHまたはMYHとしても知られるMut Y homolog遺伝子は、染色体1p34.3-32.1に位置する。 [202] MYHにコードされる蛋白は塩基除去修復グリコシラーゼである。この蛋白は最も一般的な酸化損傷の1つを修復する。MYHには、100以上の独特な塩基配列多様体が報告されている(Leiden Open Variation Database)。MYH病原性多様体については、民族分化を伴う創始者病原性多様体が仮定されている。北欧系の白人集団では、Y179CおよびG396D(以前はY165CおよびG382Dとして知られていた)の2つの主要な多様体がMYH関連ポリポーシス患者における両アレル性病原性多様体の70%を占めており、これらの患者の90%がこのような病原性多様体を1つ以上保有している。 [214] 発見されているこの他の原因となる多様体としては、P405L(以前はP391Lとして知られていた)(オランダ) [215] [216] 、E480X(インド) [200] 、Y104X(パキスタン) [217] 、1395delGGA(イタリア) [206] 、1186-1187insGG(ポルトガル) [218] 、およびp.A359V(日本、韓国)が挙げられる。 [219] [220] [221] 両アレル性MYH病原性多様体は大腸がんの93倍の過剰リスクと関連し、60歳までの浸透度はほぼ完全である。 [222]

NTHL1

48家系の多発性結腸腺腫を有する51人の個人において全エクソーム配列決定を用いた検査により、血縁関係にない3家系の7人の罹患者に塩基除去修復遺伝子、NTHL1の生殖細胞系列ホモ接合性ナンセンス病原性多様体が同定された。 [223] これらの個人は大腸がん、複数の腺腫(8~50)を有し(いずれも過形成性または鋸歯状ではなかった)、3人の罹患女性では子宮内膜がんまたは複雑型子宮内膜増殖症のいずれかが認められた。別の2人は十二指腸腺腫または十二指腸がんを発症した。すべての家系が常染色体劣性遺伝を示していた。異なる罹患者の3つのがんおよび5つの腺腫を調査したところ、マイクロサテライト不安定性(MSI)を示したものはなかった。これらの新生物ではシトシンからチミンへの変換が多く示された。表現型をさらに明確にするには追加の研究が必要である。

オリゴポリポーシス

オリゴポリポーシス(oligopolyposis)は、ポリープ数または負荷が平均リスクの患者群における一連のスクリーニングでの期待値よりも多いが、FAPの診断に必要とされる量には達していないという臨床像を示すためによく使用される用語である。したがって、ギリシャ語で「少数」を意味するoligo-は、観察者によって異なる事態を指すことがある。この件について共通の見解が得られていないことを認めながらも、National Comprehensive Cancer Network(NCCN)の大腸がん(CRC)スクリーニング委員会は、10~100個の腺腫が存在している場合はAFAPの診断を検討するに値すると示唆している。 [93] 本稿ではこの用語により、付随する何らかの家族歴の有無にかかわらず、ポリープ数(一般的に腺腫)が内視鏡医に遺伝的感受性の可能性を想定させる程度に多いという状況を示す。

リンチ症候群である場合やそれが疑われる場合は、1~10個の腺腫の検出でも診断に矛盾しない。症状に対する大腸内視鏡検査を受けた若年患者またはスクリーニングを受けた50歳以上の患者で、同程度の腺腫数が認められる場合は、リンチ症候群の疑いが強くなりうる。早期発生や家族歴陽性など相応の臨床状況で腺腫が検出された場合は、その数にかかわらず、NCCNが提示しているガイドラインなどの指針に従ってリンチ症候群病原性多様体の有無に関する検査と診断を患者に実施することが支持されうる。MSIに関する腺腫組織の検査は、浸潤がんの場合に比べ検出率が低いため、その有用性をめぐる議論が行われている。 [224] 一般的には、上述の注意点次第ではあるが、オリゴポリポーシスについての検討でリンチ症候群がルーチンに考慮されることはない。

1件の研究で、既知のMMR病原性多様体を有する患者21人のポリープのシリーズ(腺腫37例)についての検討が行われ、MSI検査とMMR蛋白発現に関する免疫組織化学法(IHC)が実施された。 [225] MSI-high(MSI-H)は全体の41%に認められ、1cm以上の腺腫の100%にみられた。1cm未満の腺腫ではその時点で約30%にMSIが検出された。MSIとIHCにおける染色の陰性との相関は非常に高かったが、不一致率も17%と、既知のMMR病原性多様体キャリアの浸潤がんを評価した他のシリーズに比べて高かった。50歳以上の被験者では、MSIが存在する可能性が比較的高かった。遺伝子に関するIHC染色では、MLH1腺腫12例中8例で蛋白発現が消失し、MSH2変異を有する患者の腺腫20例中10例で発現が消失していることが示された。対照的に、MSH6病原性多様体キャリアの腺腫では関連蛋白の発現消失が全く(6例中0例)認められなかった。著者らは、正常なMSI/IHCには情報価値がないが、異常なMSI/IHCは大型(8mm超)のポリープでがんの場合と同程度に多く認められるため、合理的な検査と考えられると結論した。

オリゴポリポーシスの範囲内で対極に位置するのがAFAPである。発症年齢が高く、多くの場合は右側結腸の微小腺腫が優性で、左側結腸の大型ポリープは少数であるが、ほとんどの症例で100個以上の腺腫が存在する。家族歴が陽性でAPC病原性多様体が認められる症例は、AFAPという用語が示すように明らかにFAPの多様体である。 [226] しかし、直接の家族歴がなく、腺腫負荷の弱い患者では、APC病原性多様体が認められない場合がある。ポリープ数が少ないほど、APC病原性多様体を保有する可能性が低くなる。これらの症例の一部は、両アレル性のMYH病原性多様体を有していることが現在では知られているが、この場合でも腺腫数が少ないほど多様体の可能性は低い。 [227]

別の研究では、3~100個の腺腫を有する患者152人と、「古典的」FAPポリープ負荷を有するAPC病原性多様体陰性の他の患者107人が、MYH病原性多様体の証拠について評価された。 [137] 複数の腺腫を有する患者6人と古典的FAP負担を有する患者8人が両アレル性MYH病原性多様体を有していた。著者らは、約15個の腺腫というカットポイントを挙げ、腺腫数がそれ以上であればMYH検査が合理的であると考えられる閾値として結論付けているほか、米国の多くの保険会社がこの累積腺腫数に基づくポリシーを採用しているとした。MYH両アレル性病原性多様体に関しては、他の研究者も検査を考慮する閾値として、腺腫20個という類似した率を認めている。 [227]

関連するDNAポリメラーゼ遺伝子POLEおよびPOLD1の病原性多様体が、オリゴポリポーシスと子宮内膜がんの家系において報告されている。 [228] [229] 10個以上の腺腫を有する60歳未満の患者15人を対象に、全ゲノム配列決定を使用して、優れた手法が実施された。患者の何人かについては、近親者が5個以上の腺腫を有し、また全ゲノム配列決定を受けていた可能性があった。検査を受けたすべての患者は大腸がんを患っていたか、大腸がんの第一度近親者がいた。APCMYH、MMR遺伝子病原性多様体の検査結果は、全員が陰性であった。評価を受けた家系に多く認められた多様体はなかった。しかし1つの家系では、連鎖により共有領域が確立され、その領域において1つの共有多様体が認められ(POLE p.Leu424Val;c.1270C>G)、蛋白の構造と機能に主要な異常が予測された。検証段階では、複数の腺腫の存在が豊富に認められるほぼ4,000の罹患症例を対象に、この多様体についての検査が実施され、約7,000の対照との比較が行われた。その中で、関連のない12症例にL424Vの多様体が認められることが新たに判明し、対照にはこの多様体が存在しなかった。罹患家系では、複数腺腫リスクの遺伝は常染色体優性であると考えられる。腫瘍における体細胞多様体は、MSIまたはCIMPとは対照的に、他の点では典型的な染色体不安定性(CIN)経路に一般に一致していた。結腸外の発生はみられなかった。同様に共有多様体についての全ゲノム検査を実施し、さらに連鎖解析による「フィルタリング」を行った結果、POLD1遺伝子に多様体(p.Ser478Asn; c.1433G>A)が同定された。このS478N多様体は、最初に評価された家系のうちの2つにおいて同定され、祖先が共通していることの証拠を示していた。この検証では、この多様体を有しポリープが認められる患者が1人判明したが、対照ではこの多様体は見つからなかった。体細胞多様体パターンはPOLE多様体に類似していた。早発型子宮内膜がんが数例みられた。POLE L424V多様体から腺腫とがんが発生するメカニズムは、複製に関連するポリメラーゼ校正の忠実性低下であると考えられる。これが次に塩基置換に関連する多様体を導くと考えられる。その後の研究で、POLE病原性多様体は、オリゴポリポーシスおよび早期発症型大腸がんのまれな原因であることが確認された。 [230] この研究で、APCMYH、およびMMR遺伝子における生殖細胞病原性多様体の検査結果は、全員が陰性であった。POLE多様体L424Vは、大腸ポリポーシスおよび早期発症型大腸がんの発端者485人のうち3人にみられた。発端者の3人中2人で、腫瘍はMSIで、1つまたは複数のMMR蛋白が欠乏していた。MMR遺伝子の体細胞多様体は、POLE欠乏による高変異性の結果である可能性があり、これらの2症例で検出された。

本研究の著者らは、別の病原性多様体検査では有益な情報が得られない複数の腺腫または大型の腺腫を有する患者におけるPOLEおよびPOLD1検査ならびにリンチ症候群またはMAPの患者に実施されるものに類似したサーベイランスの検討を推奨している。 [228] [229] POLEおよびPOLD1病原性多様体検査は、商業化されている新しい大腸がん感受性多遺伝子(パネル)検査に組み込まれつつある。

現在のところ、腺腫を有するオリゴポリポーシスの患者の大半は、既知の素因遺伝子の病原性多様体について評価を受けた場合に、根本的な素因を有することが確認されていない。一般的にそうした症例は、たとえ内視鏡的に結腸内のポリープが「一掃された」状態であっても、腺腫の再発リスクが高い患者の場合と同様に管理される。

若年性ポリポーシス症候群(JPS)またはPJSにより生じるオリゴポリポーシスは、単純な内視鏡的根拠と組織学的根拠から直ちに大腸腺腫症と区別することができる。鋸歯状ポリポーシスの発現形態は非常に多様である。世界保健機関(WHO)の鋸歯状ポリポーシスの基準(S状結腸より近位に鋸歯状ポリープが5個以上存在し、そのうち2つが1cm以上である、鋸歯状ポリポーシスの近親者がいる場合でS状結腸より近位に数を問わずポリープが存在するか、または結腸内に場所を問わず20個を超える鋸歯状ポリープが存在する)については、妥当性が確認されていない。さらに、まれな家族性の症例の場合でさえも、遺伝子的基礎が確立されていない。しかし、鋸歯状病変のオリゴポリポーシスの症例は、初期にはoligoadenomatosisと区別することが困難な場合があり、特に腺腫が混在している場合の区別は難しい。したがって、そうした患者は遺伝カウンセリングに紹介され、遺伝子検査が考慮されるケースが増加している。リンチ症候群にみられることのある鋸歯状ポリポーシスと鋸歯状ポリープの特徴が少なくともいくつか認められる患者において、MYH両アレル性病原性多様体の症例が時折認められている。それにもかかわらず、一般に鋸歯状ポリポーシスの遺伝子検査は有益ではない。 [231] [232] [233] [234] [235]

リンチ症候群(LS)

1900年から1990年にかけて、大腸がんが明らかに多い家系の症例報告が多数報告された。一連のそうした報告が蓄積されるにつれて、次のようなある特有の臨床的特徴が現れてきた:低い年齢での発症;二次原発腫瘍のリスクが高いこと;病変が右側結腸に優先的に認められること;良好な臨床転帰;および子宮内膜、卵巣、消化管の他の部位、尿路上皮、脳、皮膚(脂腺腫瘍)をはじめとするこの症候群に関連した広範な結腸以外の腫瘍。

I型リンチ症候群

(大腸がんしか認められない家系)、

II型リンチ症候群

(大腸がんのほか、結腸以外に腫瘍が認められる家系)、

がん家系症候群

、後に、

遺伝性非ポリポーシス大腸がん

HNPCC

)などの用語が一般的に用いられた。

1990年までには、サーベイランスを強化する(若年で大腸内視鏡検査を開始し、頻繁に繰り返す)必要性が認識された。しかしながら、この積極的なサーベイランスレジメンを、遺伝的感受性が最も高いと考えられる家系または「真の」HNPCCに限定する必要性から、いわゆるアムステルダム基準(:2世代以上で3人以上の大腸がん症例が認められる、50歳前に診断された者が少なくとも1人はいる、FAPの証拠が認められない)が策定された。

同じ頃、5q上の染色体異常からFAPとこのゲノム領域との遺伝的連鎖が発見され、最終的にAPC遺伝子が分離された。これを受けてHNPCCでも同様の連鎖がないか探索が行われた。APC遺伝子は、(DCCおよびMCC遺伝子とともに)評価されたいくつかの遺伝子の1つであったが、HNPCCとの連鎖は確認されなかった。1993年に大規模なHNPCC家系を対象とした拡大全ゲノム検索により、2番染色体に候補となる感受性遺伝子座が確認された。最初のHNPCC遺伝子であるMSH2の配列が決定されると、(この腫瘍の体細胞多様体パターンから)MMRの遺伝子ファミリーが関与している可能性が高いことが明らかになった。その後まもなく、MLH1MSH6PMS2など、追加のMMR遺伝子が同定された。これらのMMR遺伝子は、以前にhMSH2hMLH1hMSH6、およびhPMS2と呼ばれており、この中の「h」は、ヒト相同体を指していた;簡単に表記するため、「h」を省略した。

連鎖研究と同時に行われたHNPCC腫瘍の体細胞遺伝子研究により、多数の遺伝子のマイクロサテライト領域における特徴的な多様体の証拠が示され、これらの多様体はMMR欠損の分子マーカーと考えられた。この多様体は、

汎存性体細胞多様体

複製エラー

、そして最終的に現在用いられている用語である

マイクロサテライト不安定性

(MSI)といった同義語で特徴が記述された。MSIを示すHNPCC関連腫瘍では、典型的にMMR遺伝子に関連した1つ以上の蛋白の免疫組織化学的発現が認められない。IHC検査は実施が比較的容易であるため、HNPCCが疑われる症例のMSIスクリーニングを補完するものとして、またはさらに取って代わるものとして用いられる。MSIはほぼすべてのHNPCC腫瘍で認められるが、MSIはまた大腸がんの約12%で散発的に発生する。その後の研究で、MLH1プロモーターの高メチル化によるMLH1蛋白の体細胞性不活性化によりMSIが引き起こされることが示されているため、これらの症例に、遺伝性疾患のHNPCCは明らかに含まれていない。ほとんどの例で、大腸がんの腫瘍組織における体細胞性BRAF多様体が同時に発見されることで、これらの症例の散発的な特徴が確認できる。

生殖細胞変異に対する遺伝子検査では、HNPCCが疑われる症例の半数にしか病原性多様体を検出できないため、いくぶん失望させるものとなっている。これに加えて、十分に特異的な臨床的特徴がないため、遺伝子検査の検出率を改善するためにさまざまな遺伝子スクリーニング戦略が提案されている。(理想的にはMSIが認められることで補完される)十分に説得力のある家族歴によって、遺伝子検査が正当化され、ほとんどの臨床診療ガイドラインではこのようなアプローチを提供している。Bethesdaガイドラインは、MSI/IHCスクリーニングを正当化するために十分に突然変異を予測する臨床的および病理学的特徴と家族歴の特徴を組み合わせたものである。コンピュータリスク評価プロファイル(computer risk-assessment profiles)は、この同じ作業をさらに定量化できる形で行うために開発されており、中間的な段階のMSI/IHCを使用して、または使用せずに多様体のリスクの可能性を推定できる。

このような遺伝子検査のための潜在的な臨床選択基準を利用して、HNPCCの頻度(1~3%)を推定し、これらの同様の選択ツールの性能の特徴を(そうでなければ選択されなかった症例で実施して)判断できる集団研究が実施されるようになっている。

遺伝カウンセリング/遺伝子検査戦略と臨床でのスクリーニング/治療法を併用することで、臨床診療のコンセンサスガイドラインが開発された。これらのガイドラインは、医療提供者も患者も同じように使用でき、利用可能な選択肢と意思決定の重要なポイントをより良く理解できる。(リンチ症候群の診断および結腸のサーベイランスのための実践的なガイドラインに関する詳しい情報については、表11を参照のこと。)

家族性大腸がんに関する用語法は確実に発展している。この分野の医療提供者のほとんどは、HNPCC(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)よりも好ましい同義語として

リンチ症候群

(LS)という用語を使用するが、それはHNPCCが過度に冗長であるとともに、紛らわしい表現であるためである-つまり、多くの患者に複数のポリープが認められ、多くの患者に大腸がん以外の腫瘍が認められる。さらに、ムア-トレ症候群などの疾患実体は現在では、リンチ症候群の表現型多様体として認識されている。当初はFAPの多様体に過ぎないと考えられていたターコット症候群でさえも現在では、膠芽腫を発症する場合にはリンチ症候群の多様体であり、髄芽腫を発症する場合にはFAPの多様体であることが知られている。リンチ症候群という用語は、遺伝子的基礎がDNA MMR遺伝子の生殖細胞病原性多様体に関連している(生殖細胞病原性多様体が存在するか、または臨床症状とMSI/IHCに基づいて生殖細胞変異が確信的に推測できる)ことが確信される症例に用いるべきであることが提唱されている。 [236]

「家族性大腸がんX型(familial colorectal cancer type X)」または「FCCX」という用語は、アムステルダム基準を満たすものの、MSI/IHCの異常が認められない家系を表すために作り出された。 [237] FCCXを「リンチ様症候群(Lynch-like syndrome)」と呼ぶ場合もある。用語体系をさらに複雑化する「リンチ様」という用語もMSI-H腫瘍の症例で使用されており、基礎にあるMMR生殖細胞病原性多様体が想定されているが、この症例中にそのような多様体は検出されていない。

リンチ症候群 [238] [239] [240] はFAPと異なり、患者のほとんどに異常な数のポリープはみられない。リンチ症候群は大腸がん全体の約1~3%を占める。 [241] リンチ症候群は、低い年齢での大腸がん発症、同時性および異時性の過剰な大腸新生物、好発部位が右側結腸、および結腸以外の腫瘍といった特徴を有する常染色体優性症候群である。リンチ症候群は、DNA MMR遺伝子、すなわち、MLH1MSH2MSH6、およびPMS2の病原性多様体によって引き起こされる。MSH2の高メチル化およびサイレンシングを引き起こすEPCAM遺伝子の病原性多様体も報告されている。(詳しい情報については、本要約の主要遺伝子による症候群のセクションのMSIのサブセクションを参照のこと。)リンチ症候群の病原性多様体キャリアにおける大腸がんの診断時平均年齢が44~52歳であるのに対して [241] [242] [243] 、散発性大腸がんでは71歳である。 [244] 発端者を除外し、罹患近親者と非罹患近親者の両方が確認された病原性多様体陽性家系では、大腸がん診断時の平均年齢は61歳と報告されていることから [245] 、初期報告の確認バイアスが示唆される。

MLH1およびMSH2病原性多様体キャリアにおける大腸がんの生涯リスクは男性で68.7%、女性で52%であった。 [245] しかしながら、3件の集団ベースの研究および1件のクリニックベースの研究を対象としたメタアナリシスでは、MLH1およびMSH2の病原性多様体キャリアにおける大腸がんの生涯リスクは男性で53%、女性で33%であることが報告された。 [246] [247] MSH6病原性多様体キャリアがいる113家系の研究では、大腸がんの累積リスクは男性で22%、女性で10%と推定された。 [248] PMS2による70歳までの大腸がんの生涯リスクは、男性で20%、女性で15%と報告されている。 [249] フランスで行われた大規模なレジストリーベースの研究では、70歳における大腸がんリスクをMLH1病原性多様体キャリアで41%、MSH2病原性多様体キャリアで48%、MSH6病原性多様体キャリアで12%と推定している。 [250]

これらのデータは、ほとんどがレトロスペクティブに得られたものであり、そのためにバイアスをある程度含んでいる可能性がある。それでも、プロスペクティブなデータもいくつか存在する。結腸がん家族登録(Colon Cancer Family Registry)プログラムでは、446人のキャリアをプロスペクティブに追跡し、10年での大腸がんリスクが8%であることを明らかにした。 [251]

欧州レジストリーの併合データを用いた別のプロスペクティブ研究では、過去にがんになっていないMMR病原性多様体キャリアにおけるがん発生率が評価された。 [252] 70歳での大腸がんの累積リスクは以下のとおりであった:MLH1(46%)、MSH2(35%)、MSH6(20%)、およびPMS2(10%)。70歳までの子宮内膜がんのリスクは以下のとおりであった:MLH1(34%)、MSH2(51%)、MSH6(49%)、およびPMS2(24%)。70歳までの卵巣がんのリスクは以下のとおりであった:MLH1(11%)、MSH2(15%)、MSH6(0%)、およびPMS2(0%)。若い年齢での累積リスクも表にまとめられた。これらのがんリスクは、大腸内視鏡検査および婦人科スクリーニングの有無にかかわらず存在していたが、そのようなスクリーニング測定に関する具体的なデータは報告されていない。比較論文では、同じレジストリーから、過去のがん、最も一般的には大腸がんからの生存者であった患者は、過去にがんの診断を受けていない病原性多様体キャリアよりも新たながんのリスクがわずかに高いだけであることが示された。 [253] ここでも優れた生存がみられ、予後良好な腫瘍病理像およびサーベイランスの効果が複合したものとみなされた。

リンチ症候群患者は同時性ならびに異時性の大腸新生物をはじめ、結腸以外の原発性悪性腫瘍も有している可能性がある。リンチ症候群病原性多様体キャリアでは結腸腺腫の発現リスクが高く(ハザード比[HR]、3.4)、腺腫の発症年齢は同じ家系の病原性多様体陰性者より低年齢であるとみられている。 [254] 結腸の左側に最も多く発生する散発性がん患者とは異なり、リンチ症候群がんの約3分の2は結腸の右側に発生し、左結腸曲よりも近位における発生が特徴となっている。

リンチ症候群で最もよくみられる結腸外悪性腫瘍は子宮内膜腺がんで、約50%のリンチ症候群家系において1人以上の女性が罹患する。MMR遺伝子の病原性多様体を有する女性の50%が最初の悪性腫瘍として子宮内膜がんを発症する。 [255]

子宮内膜がんの生涯リスクは、MLH1病原性多様体キャリアの44%からMSH2病原性多様体キャリアの71%に及ぶと推定されている。 [245] [246] [247] [248] [256] MSH6病原性多様体が認められる家系では、子宮内膜がんが優勢に発生することが報告されている。113家系におけるMSH6病原性多様体キャリアにおける子宮内膜がんの生涯リスクは、70歳で26%、80歳で44%と推定された。 [248] PMS2病原性多様体キャリアでは、70歳での子宮内膜がんのリスクが15%であることが報告されている。 [249] 同じ結腸がん家族登録プログラムでプロスペクティブに収集されたデータでは、このコホートから抽出した女性において、5年子宮内膜がんリスクは約3%および10年子宮内膜がんリスクは約10%という結果が得られた。 [251] EPCAM病原性多様体によってMSH2蛋白発現の消失が認められる女性も子宮内膜がんのリスクが高い。1件の研究により、EPCAM欠損キャリアでは子宮内膜がんの累積リスクが12%(95%CI、0%-27%)であることが明らかにされた。 [257] 指標となるがん(index cancer)として子宮内膜がんが認められたリンチ症候群の女性127人を対象にした研究では、他のがんのリスクが有意に高いことが示された。次のがんのリスク増大が報告された:大腸がん、48%(95%CI、27.2%-58.3%);腎がん、腎盂がん、および尿管がん、28%(95%CI、11.9%-48.6%);膀胱がん、24.3%(95%CI、8.56%-42.9%);および乳がん、2.51%(95%CI、1.17%-4.14%)。 [258]

リンチ症候群関連子宮内膜がんは類子宮内膜亜型に限定されない。このがんは最も一般的に、子宮下部から発生する。子宮内膜腺がん、明細胞がん、子宮の乳頭状漿液性がん、およびミュラー管混合悪性腫瘍は、リンチ症候群における子宮腫瘍領域の一部である。 [259] リンチ症候群の女性における子宮内膜症から3例の子宮内膜がんが発生したことが報告されている。 [260] (スクリーニング方法に関する情報については、本要約のリンチ症候群家系における子宮内膜がんスクリーニングのセクションを参照のこと。)

リンチ症候群における大腸がんおよび子宮内膜がん以外のがんリスク

前のセクションで説明したように、複数の研究で、LSにおいては大腸がんおよび子宮内膜がんのリスクが大幅に高くなることが確認されている。また、数件の研究により、リンチ症候群患者では、尿管および腎盂の移行上皮がんをはじめ、胃、膵臓、卵巣、小腸、脳のがんなど、他の悪性腫瘍が発生するリスクも高いことが示された。 [261] [262] [263] [264] [265] [266] 加えて、いくつかの研究は、乳がん、前立腺がん、副腎皮質がん、肝がん、胆道がんとの関連についても指摘している。 [251] [264] [267] [268] [269] これらの多種多様な悪性腫瘍との関連の強さは、小さいサンプルサイズ(および結果的に生じる、相対リスク[RR]の幅広いCI)、解析のレトロスペクティブな性質、バイアスにより限定的である。

現在までで最大規模のプロスペクティブ研究は、結腸がん家族登録(Colon Cancer Family Registry)に集まった非罹患の病原性多様体キャリア446人を対象にして実施された。 [251] 最長で10年間追跡された参加者は、大腸がん(SIR、20.48;95%CI、11.71-33.27;P < 0.01)、子宮内膜がん(SIR、30.62;95%CI、11.24-66.64;P < 0.001)、卵巣がん(SIR、18.81;95%CI、3.88-54.95;P < 0.001)、胃がん(SIR、9.78;95%CI、1.18-35.30;P = 0.009)、腎がん(SIR、11.22;95%CI、2.31-32.79;P < 0.001)、膀胱がん(SIR、9.51;95%CI、1.15-34.37;P = 0.009)、膵がん(SIR、10.68;95%CI、2.68-47.70;P = 0.001)、女性の乳がん(SIR、3.95;95%CI、1.59-8.13;P = 0.001)の標準化発生比(SIR)が増大していた。 [251]

リンチ症候群における乳がんのリスクの問題については見解が分かれている。複数のレトロスペクティブ研究の結果は一致していないが、いくつかの研究ではリンチ症候群の個人が患う乳がんの一部にはマイクロサテライト不安定性がみられた; [270] [271] [272] [273] これらの研究の1つは、リンチ症候群の個人が有する乳がんリスクを評価し、リスクは増大しないことを示した。 [273] しかし、これまでで最大規模のプロスペクティブ研究では、Colon Cancer Family Registryで集められた罹患していない病原性多様体キャリア446人を対象に、 [251] 最長で10年間の追跡が実施され、乳がんのSIRは3.95(95%CI、1.59-8.13;P = 0.001)と高値であることが報告されている。 [251] その後、同じグループが以前に大腸がんと診断されたMMR遺伝子病原性多様体キャリア764人のデータを分析した。その結果、大腸がん後の乳がんの10年リスクは2%(95%CI、1-4%)、SIRは1.76(95%CI、1.07-2.59)であった。 [274] 臨床的に紹介されたリンチ症候群家系からなる英国のシリーズから、確認のために修正する努力を払ったうえで、MLH1家系において乳がんリスクの2倍の増加が示されたが、他のMMR多様体を持つ家系では示されなかった。 [275] しかし、MMR病原性多様体キャリアに対する乳がんのサーベイランスガイドラインを開発するには、絶対リスクと年齢分布を正確に規定してためのさらなる研究が必要である。

最初は家族選択基準の中に前立腺がんが含まれてはいなかった2つの米国リンチ症候群レジストリーからの198家系を対象とした研究で、前立腺がんとリンチ症候群の関連性が認められた。MMR遺伝子病原性多様体キャリアの血縁者における前立腺がんリスクは、60歳で6.3%、80歳で30%であったのに対して、一般集団のリスクは60歳で2.6%、80歳で18%であり、全体のHRは1.99(95%CI、1.31-3.03)であった。 [267] 2014年のメタアナリシスでこの関連が支持され、既知のMMR病原性多様体を有する男性における前立腺がんの推定RRは3.67(95%CI、2.32-6.67)であることが示された。 [276] MSH2病原性多様体を有する男性ではこのリスクが高い可能性がある。 [269] [276] ルーチンの前立腺特異抗原(PSA)スクリーニングをめぐっては広く議論されているが、それにもかかわらず本研究の著者らが示唆したところによると、男性のMMR遺伝子キャリアを対象に40歳時に開始するPSAおよび直腸指診法によるスクリーニングは「検討が妥当」と考えられる。 [267] 現在、分子的および疫学的証拠から、リンチ症候群のがんの1つとして前立腺がんが支持されている。乳がんの場合と同様に [276] 、MMR病原性多様体キャリアに対する前立腺がんのサーベイランスガイドラインを開発するには、絶対リスクと年齢分布を正確に規定するためのさらなる研究が必要である。(前立腺がんとリンチ症候群に関する詳しい情報については、前立腺がんの遺伝学に関するPDQ要約のMMR遺伝子のセクションを参照のこと。)

別の研究で、一連の114例のACCが評価された。家族歴が詳細に評価されており、リー-フラウメニ症候群検査で診断されなかった患者94人のうち、3人の患者がリンチ症候群を示唆する家族歴を有していた。94家系におけるMMR遺伝子病原性多様体の保有率は3.2%で、非選択の大腸がんおよび子宮内膜がん患者におけるリンチ症候群の割合と同程度であった。同プログラムからのMMR遺伝子病原性多様体陽性リンチ症候群の135家系を対象としたレトロスペクティブ・レビューで、2人の発端者がACCの既往を有していたことが判明した。MSI検査が実施可能であった4例のACCのうち、すべてがマイクロサテライト安定性(MSS)を示した。これらのデータから、ACC発端者で他にリンチ症候群が疑われる場合、MSIまたはIHC検査を用いたACCの初期評価は誤解を招く可能性があることが示唆される。 [268]

ムア-トレ症候群はリンチ症候群の1病型と考えられ、その表現型には多発性皮膚腫瘍(皮脂腺腫、皮脂腺がん、角化棘細胞腫など)がある。皮膚病変と大腸がんを有することがこの表現型の定義であり [277] [278] 、臨床的多様性もよくみられる。MSH2およびMLH1遺伝子の病原性多様体が、ムア-トレ症候群家系に認められている。 [279] [280] [281] MSH2およびMLH1の非血縁発端者1,914人を対象とした研究により、ムア-トレ症候群の表現型を有する個人ではMSH2がより一般的であることが明らかにされた。 [282] (ムア-トレ症候群における皮膚腫瘍の詳しい情報については、皮膚がんの遺伝学に関するPDQ要約の皮脂腺がんのセクションを参照のこと。)

リンチ症候群家系を定義するための歴史的基準

リンチ症候群家系を定義するための研究基準は、1990年にアムステルダムで行われたInternational Collaborative Group(ICG)の会議で確立されたもので、アムステルダム基準として知られている。 [283] これらの基準は大腸がんに限定されていた。1999年にアムステルダム基準が改訂され、結腸外がんがいくつか追加された。 [284] これらの基準は、リンチ症候群家系を特定する一般的アプローチとなるが、包括的とは考えられない;これらの基準を満たしてはいないものの、生殖細胞系のMMR遺伝子病原性多様体を有する家系が数多く報告されている。

アムステルダム基準I(1990):
  1. 1人の家系員が50歳前に大腸がんと診断されている。
  2. 2世代にわたり罹患者が存在する。
  3. 罹患近親者が3人おり、そのうちの1人が残る2人の第一度近親者である。
  4. FAPを除外すべきである。
  5. 病理検査によって腫瘍を確認すべきである。
アムステルダム基準II(1999):
  • アムステルダム基準Iと同じであるが、子宮内膜、小腸、尿管、または腎盂の腫瘍に適用可能で、それ以外は適格な大腸がんに置き換える。

これらの基準は、マイクロサテライトおよび生殖細胞系の検査に対する潜在的な候補者を特定するために用いられる最も厳密なものであるが、定義によると、FCCXには、アムステルダム基準を満たすものの、MSIの証拠がない家系が含まれることに注意しなければならない。(詳しい情報については、本要約の主要遺伝子による症候群のセクションの家族性大腸がんX型[FCCX]のサブセクションを参照のこと。)

アムステルダム基準の感度が比較的低いことに加え、リンチ症候群の検出では腫瘍ベースの検査がますます重要になっていることを認識して、Bethesdaガイドラインが開発された。Bethesdaガイドラインおよびその後の改訂版では、腫瘍がMSIを示す可能性が最も高いと考えられる患者を対象とすることにより、感度を改善するように考案されている。 [285] [286] (MSIおよびIHCの検査に関する詳しい情報については、本要約の主要遺伝子による症候群のセクションのリンチ症候群の遺伝子/分子検査のサブセクションを参照のこと。)

Bethesdaガイドライン(1997):
  1. アムステルダム基準に適合する家系にがんがみられる。
  2. 同時性および異時性大腸がんまたは関連結腸外がんなど、リンチ症候群関連がんが2つ認められる。[注: 子宮内膜、卵巣、胃、肝胆道系、または小腸のがんか、腎盂または尿管の移行上皮がん。]
  3. 大腸がんが認められ、大腸がん、リンチ症候群関連結腸外がん、大腸腺腫のいずれか1つ以上が第一度近親者にみられる;45歳前に1つのがんが診断されている、および40歳前に腺腫が診断されている。
  4. 45歳前に大腸がんまたは子宮内膜がんが診断されている。
  5. 45歳前に、病理組織所見で未分化パターン(充実型/篩状型)を示す右側の大腸がんが診断されている。[注: 充実型/篩状型は、好酸球性大細胞の不規則な充実性シートからなり、小さな腺様スペースを含む低分化または未分化がんと定義された。]
  6. 45歳前に印環細胞型大腸がんが診断されている。[注: 50%を超える印環細胞からなる。]
  7. 40歳前に腺腫が診断されている。
Bethesdaガイドライン改訂版(2004)*:
  1. 50歳未満の1人が大腸がんと診断されている。
  2. 同時性または異時性の大腸腫瘍か、他のリンチ症候群関連腫瘍が認められる。**
  3. MSI-Hという病理学的特徴を有する大腸がんが60歳未満の個人1人で診断されている。[注: 腫瘍浸潤リンパ球の存在、クローン病様のリンパ球反応、粘液/印環分化、または髄様の増殖パターン。]
  4. 50歳未満の第一度近親者の1人以上が大腸がんまたはリンチ症候群関連腫瘍**と診断されている。
  5. 年齢に関係なく、2人の第一度近親者または第二度近親者が大腸がんまたはリンチ症候群関連腫瘍**と診断されている。

*その腫瘍をMSIの検査対象とみなすには、1つの基準を満たさなければならない。

**リンチ症候群関連腫瘍には、大腸、子宮内膜、胃、卵巣、膵臓、尿管・腎盂、胆管、および脳の腫瘍;ムア-トレ症候群における皮脂腺腫、角化棘細胞腫;ならびに小腸のがん腫が含まれる。 [286] [287]

リンチ症候群のアムステルダム基準を満たしていない大腸がん家系、および/または大腸腫瘍がMSSを示す大腸がん家系が研究に含まれている。これらの多くの家系では、MSH6に病原性多様体がみられることが判明している。 [288] [289] [290] [291] [292] このような知見の臨床的意義および臨床的意味は明らかにされていないが、この観察によって、MSH6遺伝子の生殖細胞病原性多様体がリンチ症候群のアムステルダム基準を満たしていない晩発性家族性大腸がんおよびMSIを必ずしも示さない腫瘍の素因となりうることが示唆されている。

現在、大腸および子宮内膜腫瘍の普遍的な検査に向かう動きがある。 [293] (詳しい情報については、大腸がんと診断されたすべての患者に対する診断戦略[普遍的検査]のセクションを参照のこと。)

リンチ症候群の遺伝子検査/分子検査

リンチ症候群の遺伝リスクの評価では、一般に、がんの家族歴と患者の大腸がん診断時年齢および/または他のリンチ症候群関連がんが考慮される。がんリスク評価の臨床状況からリンチ症候群の発端者と疑われる人を対象としたDNA塩基配列決定法を用いた遺伝子検査の研究によると、情報価値のあるMSH2またはMLH1病原性多様体の検査で約25%が陽性であり、この家系については、遺伝学的情報に基づく管理戦略を開発できることが明らかになった。 [294] [295] BRCAPROに類似したコンピュータモデルにより、MMR遺伝子の病原性多様体の確率が予測される。PREMMモデル1,2,6とMMRproモデルは使用が容易であり、検証も十分に行われている。 [296] [297] [298] [299] これらのモデルは、MSIやIHCの情報が欠けていても病原性多様体を予測可能であるが、これらのデータを組み込んで利用することもできる。3つのコンピュータ予測モデルのすべてが子宮内膜がんの家族歴を考慮に入れている。病原性多様体の検出率は、家族歴が顕著な患者、または情報価値のある腫瘍検査を行った患者で高い。

リンチ症候群を示唆する追加の家族歴または個人歴がない場合、36歳前に大腸がんと診断された散発症例がMMR遺伝子病原性多様体に関係していることはまれである。このような症例のMMR病原性多様体がわずか6.5%であったことを明らかにした研究が1件ある。 [300] そのため、超早発型大腸がんの散発症例では、生殖細胞病原性多様体の解析に直接進むより、MSI/IHCについての腫瘍スクリーニングを実施すべきである。

腺腫におけるMSI/IHC

現在の実践は、強い家族歴を有するが以前に遺伝子検査または腫瘍の検査を受けていない個人に大腸内視鏡検査によるサーベイランスを提案することである。ときには、このような大腸内視鏡検査の際に腺腫が発見されることもある。腺腫が発見された場合は、その腺腫についてMSI/IHCの検査を実施するかどうかという問題が生じる。大腸がんの既往があり、既知のMMR病原性多様体を有する患者を対象とした1件の研究では、腺腫12個中の8個にMSIとIHCの両蛋白の喪失が認められた。 [301] しかしながら、この研究の著者らは、腺腫組織でのMSI/IHC検査の結果が正常でもリンチ症候群は除外されないということを強調している。

MSI

マイクロサテライトは、ゲノム全体にわたって、主にイントロン配列に位置するDNA(しばしば単ヌクレオチド、2ヌクレオチド、または3ヌクレオチド)の短い反復性の配列である。 [302] [303] マイクロサテライト不安定性(MSI)という用語は、腫瘍のDNAが正常組織のDNAと比べてマイクロサテライト領域に変化があることを示す場合に用いられる。MSIはMMR遺伝子の欠損の可能性が高いことを示しているが、これは体細胞系または生殖細胞系の多様体、あるいは後成的変化によるものと考えられる。 [304] ほとんどの場合、MSIは、1つ以上のMMR蛋白(MSH2、MLH1、MSH6、およびPMS2)の蛋白発現の欠如に関連している。しかしながら、蛋白発現の消失がすべてのMSI-H腫瘍においてみられるわけではない。

腫瘍浸潤リンパ球の存在、クローン病様の反応、粘液性の組織像、ダーティネクロシス(dirty necrosis)が認められないこと、組織学的異質性といった特定の病理組織学的特徴は、MSI表現型を強く示唆している。これらの組織学的特徴を総合すると、MSI大腸がんを同定する上で予測値が高い計算スコアになる。 [305] [306]

多くの結腸がんは、マイクロサテライト反復のうちのごく一部でしかフレームシフト多様体を示さないため、MSIを示す腺がんと呼ぶためには、一部には米国国立衛生研究所(NIH)のコンセンサス会議で選択された2ヌクレオチドおよび単ヌクレオチド反復の一覧から規定の割合の多様体の遺伝子座を検出しなくてはならない。 [307] 腫瘍の遺伝マーカーの30%以上が不安定性を示す場合はMSI-H腫瘍と評価され、不安定性を示すマーカーが少なくとも1つ以上認められるが、30%未満の場合はMSI-low(MSI-L)腫瘍と呼ばれる。不安定な遺伝子座が認められない場合は、MSS腫瘍と呼ばれる。リンチ症候群の状況において発生する大部分の腫瘍はMSI-Hとなる。 [307] MSI-L腫瘍の臨床的関連については、議論の余地が残されている。この状況でMMR遺伝子の生殖細胞病原性多様体が見つかる可能性は非常に小さい。区別すべき1つの点は、MSH6に生殖細胞病原性多様体を有する集団では必ずしもMSI-Hの表現型は現れないということである。1件の研究から、MSH6病原性多様体がMSI-L表現型を有するがんに関連しているという証拠が提出されている。 [290] しかしながら、別の研究では、MSH6キャリアにおける大腸がんの86%(21例中18例)がMSI-Hを示したことが明らかになった。 [308] さらに、MSI-L表現型を示す散発性がんでは、MSH6病原性多様体が見つからなかった。 [309]

(リンチ症候群が疑われる患者の診断的精密検査におけるMSI状態の利用に関する情報については、本要約の大腸がんと診断されたすべての患者に対する診断戦略[普遍的検査]のセクションを参照のこと。)

(普遍的検査の実践と実施可能性、およびMSIおよびIHC検査のインフォームド・コンセントに関する問題についての情報は、本要約の臨床現場での普遍的MSI/IHC大腸がんスクリーニングのセクションを参照のこと。)

MMR遺伝子の異常なメチル化の複雑性

散発性大腸がんにおけるMLH1遺伝子の異常なメチル化

MSH2、MSH6、またはPMS2蛋白発現の消失に関連したMSI-H腫瘍が認められれば、リンチ症候群の診断が強く支持される。しかしながら、MLH1蛋白発現がみられないMSI-H腫瘍はこれより複雑なシナリオをたどる。MSIは散発性大腸がん(一般的に、50歳以上の患者で家族歴はほとんどまたは全く認められない)の約10~15%に起こる。散発性大腸がんにおいて、MLH1蛋白発現が認められないのは、MLH1遺伝子の異常なメチル化(大多数の症例では非遺伝性の腫瘍に限定される体細胞性のイベント)の結果である。MLH1蛋白発現の消失はリンチ症候群と散発性腫瘍のいずれにも起こるため、MMR遺伝子の生殖細胞病原性多様体の予測に関する特異度は、他のMMR蛋白に対する予測よりも低い。

この不確定性のために、これらの症例においてMLH1欠如の病因を明らかにするには、しばしば追加の分子検査が必要である。MMR遺伝子の1つに生殖細胞病原性多様体がある人を同定するため、陰性適中率をもつと思われる結腸がんのその他の体細胞の変化は、BRAF病原性多様体およびMLH1プロモーターの高メチル化である。

MLH1遺伝子の異常なメチル化は、散発性MSI結腸がんの約90%を引き起こす原因となっている。 [310] MLH1遺伝子の異常なメチル化が認められない少数の症例では、MLH1遺伝子の体細胞多様体などの他の機序が原因の可能性がある。 [310] ほとんどの研究では、MLH1遺伝子の生殖細胞病原性多様体を有する患者におけるMLH1遺伝子の異常なメチル化は、リンチ症候群結腸がんのごく一部にしか検出されていない。 [310] [311] [312] [313] したがって、結腸がんにおけるMLH1遺伝子の異常なメチル化の検出は、散発性MSI腫瘍をより強く示唆するものである。メチル化の測定は複雑かつ資源集約的であるため、MLH1メチル化の代替マーカーが調査されている。1件の研究により、MLH1のメチル化とBRAF V600E病原性多様体の両方と強く相関するp16について免疫組織化学的染色の陰性が明らかにされた(BRAF病原性多様体については以下のパラグラフで詳細に考察されている)。しかしながら、この研究で調査された散発性腫瘍のうち、p16発現がみられなかったのはわずか30%であったため、この測定法の有用性は限られる。 [314]

BRAF病原性多様体は主に散発性MSI腫瘍において検出されている。 [315] [316] [317] [318] このため、BRAF V600Eの体細胞病原性多様体は、生殖細胞多様体検査から患者を除外するために役立つ可能性が示唆される。MLH1の高メチル化および/またはBRAF病原性多様体の検査は、高メチル化により発生するMLH1蛋白発現の消失と生殖細胞系MLH1病原性多様体の区別を試みるために、普遍的なリンチ症候群検査アルゴリズムに利用されることが増えている。

BRAFおよび高メチル化検査の臨床的役割に関する詳しい情報については、本要約の大腸がんと診断されたすべての患者に対する診断戦略[普遍的検査]のセクションを参照のこと。)

生殖細胞系MLH1の高メチル化

生殖細胞系MLH1の高メチル化が認められる患者の報告は、EPCAM多様体により誘導されたMSH2の高メチル化(以下に記述する)と混同すべきではない。これまでのパラグラフでは、MLH1プロモーターによくみられる後天的な体細胞性の高メチル化に関連する問題を強調してきた。しかしながら、生殖細胞系で報告されているMLH1プロモーターの高メチル化の例では、一般的に安定的なメンデル遺伝と関連していない。

一方のMLH1アレルの高メチル化を含むMLH1の後成的な体質性変化についての包括的レビューが発表されている。 [319] こうしたエピジェネティック多様体は、早期発症型のリンチ症候群および/またはリンチ症候群型の多発性腫瘍を有する患者にみられる。これらの患者では生殖細胞系の配列変化または再構成がみられないが、腫瘍はMSI-H、MLH1蛋白発現の消失、およびBRAF V600E病原性多様体陰性を示す。これらの患者は一般的に、リンチ症候群様の腫瘍の家族歴はもたない。興味深いことに、遺伝は母系性であり、したがってメンデル遺伝ではないと考えられる。片アレル性の体質性高メチル化はモザイクとして現れるため、さまざまな組織がさまざまな程度に影響を受ける。さらに、体質性エピジェネティック多様体は減数分裂の過程で典型的に可逆的であるため、通常の場合、子孫は変異の影響を受けない。遺伝は非常に少数の家系でしか示されていないため、(専門的な研究技術を必要とする)遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査の実施は特に困難である。

EPCAM/TACSTD1

MSIがみられ、かつMSH2蛋白発現の消失がみられる腫瘍は、一般的にMSH2の生殖細胞多様体が根底にあることを示す(MSH2推定病原性多様体)。MLH1変異を有する症例とは異なり、MSH2消失を伴うMSIがプロモーターの体細胞性の高メチル化に関連することはまれである。にもかかわらず、MSH2推定病原性多様体を有するこれらの症例の少なくとも30~40%では、最新技術を用いても生殖細胞多様体を検出できない。MSH2消失を示す腫瘍がみられる中国系の1家系が、遺伝していると考えられるアレル特異的な高メチル化を有することが明らかにされた。 [320] MSH2欠乏MSI-high腫瘍がみられる家系の別の研究では、MSH6に一般的に用いられる診断的MLPA解析が使用され、MSH6の発現低下も示された。MLPA解析時に、MSH2に近いEPCAM(TACSTD1)遺伝子のエクソン9においてシグナルの低下が観察された。EPCAMのエクソン3とMSH2のエクソン1の間に追加のMLPAプローブを配置することで、欠失はEPCAMのほとんどの3'エクソンに及ぶが、MSH2プロモーターには及んでいないことが示された。 [321] EPCAMの多様体は、MSH2プロモーター領域内のCpG islandでの転写によってこのプロモーターで観察されたメチル化を誘導することが明らかにされた。同様のメチル化が媒介したMSH2消失を示すEPCAM病原性多様体の存在が、ほぼ同じ頃にハンガリーの家系で明らかにされた。 [322] これらの観察の強さに基づいて、EPCAM検査は既に、MSH2蛋白発現の消失を示し、検出可能なMSH2生殖細胞病原性多様体が認められない大腸がん患者に対して臨床で導入されている。同じEPCAM遺伝子の欠失がみられる2家系を対象にした1件の研究では、結腸外のがんはほとんど見つからず、子宮内膜がんは全く見つからなかった。 [323] しかしながら、その後の研究により、EPCAM多様体により生じたMSH2蛋白発現の消失が認められる女性もまた、子宮内膜がんのリスクが高いことが実証された。 [257]

IHC

MSIに対する補助的およびおそらく代替にすらなるアプローチとしては、MSH2、MLH1、MSH6、およびPMS2蛋白に対するモノクローナル抗体を用いて蛋白発現を調べるための免疫組織化学(IHC)的手法による腫瘍の検査がある。これらの蛋白の発現消失は、MSIの存在に相関していると考えられ、特定の患者にどの特異的MMR遺伝子の変化が存在するかを示唆しうる。 [324] [325] [326] [327]

(MSIおよびIHC検査のインフォームド・コンセントに関する問題についての情報は、本要約の臨床現場での普遍的MSI/IHC大腸がんスクリーニングのセクションを参照のこと。)

リンチ症候群が疑われる場合の腫瘍の検査

臨床の現場では、腫瘍検査の早期のMSIへの依拠から、現在では次第にIHCへの依拠に移行している(多くの症例ではIHCのみ実施)ようである。両方の検査を用いると初回スクリーニングの感度が増加し、品質保証が改善する;したがって、多くの検査室では最初にMSIとIHCの両方を評価する。しかしながら、これらの検査は一般的に単純な代替とみなされているため、費用対効果を考慮するとIHCが支持されるようであり、IHCが優先的に使用される根拠となっている。この論理的理由付けの1つは、IHCで得られた情報により1つの特異的なMMR遺伝子(蛋白発現の消失を来した遺伝子)に対する検査を指示すればよいのに対し、MSIの単独使用では包括的な検査が必要となる点である。 [241] [242] [328] [329] [330] [331] 効率を高めるための逐次アプローチに対する議論がなされている。ドイツのコンソーシアムは、逐次アプローチを示唆するアルゴリズムを提唱している;これはMSIおよびIHCの異なる費用および病原性多様体の事前確率に依存する可能性が高い。 [332] 米国の大規模研究からのデータは一次スクリーニング法としてIHC解析を支持しており、ルーチンの病理学検査室での実施の容易さを強調している。 [242] より効率的なスクリーニングアプローチを特定するため、PMS2およびMSH6遺伝子のどちらかが染色で陰性であれば、ほとんどの場合、リンチ症候群の大多数の症例を発見できるであろうという想定に基づいて、これら2つの遺伝子についてのみIHC染色を実施する戦略が検討されている。 [333] このアプローチは、あらゆる腫瘍のスクリーニングを行う場合(普遍的検査)には適切であろう。この戦略は効率の観点からすると魅力的に思われるが、現在のところ4つすべてのMMR蛋白に対する染色が標準治療となっている。上述の2蛋白アプローチの有用性を確認するにはさらなる研究が必要である。(詳しい情報については、本要約の大腸がんと診断されたすべての患者に対する診断戦略[普遍的検査]のセクションを参照のこと。)

IHC検査のみに依拠する施設においてさえも、IHCの結果にもかかわらず臨床像がリンチ症候群を示唆している症例では、その後のMSI検査が役割を果たす可能性がある。

臨床での選択の考察が最も重要であると考えられれば(すなわち、Bethesdaガイドラインを満たしている)、IHCとMSIの併用が適切であろう。実際、真に高リスクの集団(アムステルダム基準を満たしている)では、最初に腫瘍検査を実施する利益はなく、生殖細胞変異検査など、あらゆる戦略が受け入れられる。(モデルに関する情報については、本要約のリンチ症候群の遺伝子/分子検査のセクションを参照のこと。)しかしながら、MSIまたはIHCを用いた普遍的な検査を採用する施設が増加するにつれて、おそらく一部には外れ値(基準より高齢である、家族歴陰性である)の症例が報告されていること [242] [328] [332] 、また一部には予後に関する考察(MSI-Hでは比較的予後良好である)に基づいて、スクリーニングの費用対効果に対する関心から一般的に切り詰められたアプローチが要求される。したがって、大腸がんの比較的低リスクの患者集団では、染色の結果が正常であるかMSS腫瘍の症例であるかによって、IHCまたはMSI単独によるスクリーニングが適切であろう。

(MSIおよびIHC検査のインフォームド・コンセントに関する問題についての情報は、本要約の臨床現場での普遍的MSI/IHC大腸がんスクリーニングのセクションを参照のこと。)

その他の技術

MSIおよび/またはMMR蛋白のIHCに対する検査のために患者の腫瘍組織が利用できない場合、MLH1MSH2、およびMSH6の生殖細胞多様体解析を考慮できる。しかしながら、このアプローチは時間がかかり、費用も高い。ヘテロ二本鎖分析に基づく技術を用いた病原性多様体に対するスクリーニング戦略が探索されている。これらの技術は、スクリーニングで検出されたすべての異常サンプルに対して次の段階としてDNA塩基配列決定法を実施する必要によって制限される。また、こうした技術では頻繁に多数のVUSが検出される。そのため、現時点で臨床でのルーチンの使用にこれらの技術は推奨できない。 [334]

遺伝子検査

MLH1MSH2MSH6、およびPMS2の生殖細胞病原性多様体に対する遺伝子検査は、病原性多様体陽性罹患者およびリスクのある家系員に対する適切な介入戦略を考案する助けとなりうる。

罹患者に病原性多様体が同定された場合、その後、リスクを有する家系員に同一の病原性多様体の検査(予測検査と呼ばれる)を勧めることができる。家族性病原性多様体の検査が陰性の家系員は、一般的に大腸がんまたは他のリンチ症候群関連悪性腫瘍のリスクは高くなく、一般集団に適用されるサーベイランスの推奨に従うことができる。家族性病原性多様体を保有する家系員は、リンチ症候群向けのサーベイランスおよび管理のガイドラインに従うべきである。(詳しい情報については、本要約のリンチ症候群に対する介入のセクションを参照のこと。)

罹患家系員に病原性多様体が同定されなかった場合、この検査はその個人およびリスクを有する家系員には情報価値がないと考えられる。これは、上記該当家系において結腸がんの遺伝的感受性を除外するものではなく、むしろ現行の遺伝子検査技術が検査された遺伝子の病原性多様体を(すべて)検出するほど感度が十分ではないことを示すものである。現在の検査の感度は50~95%で、使用する方法に左右される。DNA塩基配列決定法のみを利用した多様体検査では、かなりの数のリンチ症候群の発端者にみられるMSH2またはMLH1遺伝子の広範なゲノム再構成を検出できない。 [335] [336] [337] リンチ症候群が疑われている発端者365人の評価により、MLH1またはMSH2における生殖細胞病原性多様体を有する153人の発端者が明らかにされ、このうち、MLH1およびMSH2のそれぞれ、67人中の12人(17.9%)および86人中の39人(45.3%)ではゲノムの変化が大きかった。 [338] こうした多様体は、MLPAまたはサザンブロット分析(MLPAがほとんどサザンブロット分析に取って代わっている)で検出可能である。 [339] [340] MLH1MSH2、およびMSH6のMLPA分析は商業化されており、シーケンス解析で多様体を検出できない症例では実施すべきである。

あるいは、その家系は、リンチ症候群を引き起こす、または結腸がんの素因となる未同定の遺伝子に多様体を有している可能性がある。多様体検査の陰性結果の説明としてこのほか、家系における他の症例は真に生殖細胞多様体によるものであるが、たまたまその家系で検査した人が非遺伝的機序を経て結腸がんを発症した(すなわち、散発例である)ことも考えられる。このシナリオが疑われる場合には、別の罹患者の検査が推奨される。最後に、病原性多様体が検出されなかったことは、遺伝子レベルでの原因を示唆する臨床像にもかかわらず、その家系は遺伝的リスクを実際には有していないことを意味する可能性がある。罹患家系員に多様体が同定できない場合、リスクを有する他の家系員で検査を行うべきではない。その家族は家族歴があるという理由から依然として大腸がんのリスクが高く、推奨されている集中的スクリーニングを継続して受診すべきである。(詳しい情報については、本要約のリンチ症候群に対する介入のセクションを参照のこと。)

DNA MMR遺伝子

リンチ症候群は、いくつかのDNA MMR遺伝子のうちの1個の生殖細胞病原性多様体によって引き起こされる。 [341] [342] [343] [344] [345] [346] [347] これらの遺伝子の機能はDNA複製過程における忠実性の維持である。リンチ症候群との関与が指摘されている遺伝子としては、染色体2p22-21上のMSH2mutS homolog 2) [344] [345] ;染色体3p21上のMLH1mutL homolog 1) [343] ;染色体7p22上のPMS2postmeiotic segregation 2) [347] [348] ;染色体2p16上のMSH6などがある。MSH2遺伝子とMLH1遺伝子は、リンチ症候群の家系にみられるMMR遺伝子の病原性多様体の大半を占めていると考えられる。 [349] [350]

MSH2遺伝子およびMLH1遺伝子には、リンチ症候群に関連したさまざまな病原性多様体が同定されている。その中には、アシュケナージユダヤ系、フィンランド系、ポルトガル系、ドイツ系米国人集団における創始者病原性多様体が含まれている。 [336] [350] [351] [352] [353] [354] [355] 2個の遺伝子に広範囲にわたり病原性多様体が分布すると、単一遺伝子検査アッセイ(すなわち、数個の病原性多様体だけを同定する分析法)は実施できない。商業化されている検査はMSH2遺伝子、MLH1遺伝子、MSH6遺伝子、および最近ではPMS2遺伝子の病原性多様体を探すのに利用できる。臨床条件および費用問題が検査戦略の指針になるであろう。商業化されているMSH2およびMLH1の遺伝子検査のほとんどが、塩基配列決定法により実施されている。塩基配列決定法ではリンチ症候群において比較的よくみられるゲノム欠失を検出できないため、広範な領域の欠失の検出にはサザンブロット法、またはMLPA [356] などの方法が使用されている。 [357] (これらの病原性多様体の検査で考慮すべき問題に関する詳しい情報については、本要約のリンチ症候群の遺伝子/分子検査のセクションを参照のこと。)

MLH1

保有率

MLH1およびMSH2がリンチ症候群の病原性多様体の大半を占める。病原性多様体陽性のリンチ症候群家系では、最大で50%がMLH1病原性多様体の保因者であり、地域差もある程度みられる。 [358]

遺伝子型と表現型の相関

MLH1病原性多様体は、 リンチ症候群に関連した多種多様な悪性腫瘍のすべてにおいて関係が認められている。 [358] MLH1病原性多様体キャリアにおける大腸がんの生涯リスクは41~68%と推定される。 [245] [250] [359] 子宮内膜がんの生涯リスクは約40%と推定される。 [3] [250] ムア-トレ症候群とMLH1病原性多様体が関連する頻度は、MSH2病原性多様体より少ない。 [282]

検査の実践と落とし穴

MSH2、MSH6、またはPMS2の発現消失に関連したMSIの場合とは対照的に、MLH1発現欠失はリンチ症候群に特異的なものではない。MLH1発現欠失のほとんどの例が、MLH1プロモーターの散発的な高メチル化によって引き起こされる。そのため、MLH1発現欠失は、他のMMR蛋白の消失よりリンチ症候群に対する特異性が低い。その上、遺伝性の生殖細胞系MLH1のメチル化というまれな例があることで、MLH1発現欠失に関連するMSIの解釈には、さらなる複雑さが加わっている。(生殖細胞系MLH1の高メチル化に関する詳しい情報については、MSIのセクションを参照のこと。)

MSH2

保有率

リンチ症候群の患者またはその家系におけるMSH2病原性多様体の保有率は研究によって異なる。大規模ながん登録、早期発症型大腸がんのコホート(55歳未満)、および世界中の登録を含めた諸研究から、MSH2病原性多様体はリンチ症候群の家系の38~54%にみられることが報告されている。 [247] [297]

遺伝子型と表現型の相関

MSH2病原性多様体に関連した結腸がんの生涯リスクは48~68%と推定される。 [245] [250] [359] リンチ症候群患者の症例シリーズにおいて、生殖細胞系MSH2病原性多様体のキャリア(49人、女性が45%)では、結腸以外のがんの生涯リスク(60歳のカットオフ値)が48%であったのに対して、MLH1病原性多様体キャリア(56人、女性が50%)では11%であった。 [360] さらに、同グループからの報告によると、低分化型大腸がん(MSH2キャリアが44% vs MLH1キャリアが14%;P = 0.002)およびクローン病様反応MSH2キャリアが49% vs MLH1キャリアが27%;P = 0.049)の有病率が有意に高かった。別の研究では、生殖細胞系MLH1病原性多様体の22家系および生殖細胞系MSH2病原性多様体の12家系において、大腸がんと結腸以外のがんの有病率に有意差は認められなかったことが報告されている。 [361]

複数のグループによる報告では、MSH2およびMSH6突然変異キャリアは、大腸がんの前に子宮内膜がんを発症する確率がMLH1突然変異キャリアより高かった。 [3] [288] [362] 2件の研究では、子宮内膜がん診断時の平均年齢が、次のように遺伝子型で異なっていた:MSH2突然変異キャリアが41歳、MLH1突然変異キャリアが49歳、MSH6突然変異キャリアが55歳。 [363] [364] 子宮内膜がんのリスク増加を示していない初期のデータとは対照的に、2011年の研究では、EPCAM多様体を有する患者ではリスクが高い可能性があることが示唆されている。 [257]

検査の実践と落とし穴

MSH2およびMSH6の蛋白発現が認められない患者が、遺伝子検査を受け、現時点で利用可能な標準検査法によって病原性多様体が確認されなかった場合は、EPCAM/TACSTD1の生殖細胞病原性多様体検査を考慮すべきである。IHCでMSH2およびMSH6の蛋白発現が認められず、MSH2またはMSH6の病原性多様体も確認されなかった患者の約20%には、EPCAM/TACSTD1に生殖細胞欠失がみられる。 [365] 後者の機序が、すべてのリンチ症候群症例の約5%を占めている。 [365] (詳しい情報については、本要約の EPCAM/TACSTD1 のセクションを参照のこと。)

MSH6

保有率

生殖細胞系MSH6病原性多様体の保有率はリンチ症候群家系の約10%であることが、ほとんどのシリーズで示されている。しかしながら、報告された範囲(5~52%)は広い。 [288] [291] [292] [366] [367] [368] [369] このように範囲が広いのは、サンプルサイズが小さいことと、紹介バイアスおよび確認バイアスによるものである可能性が高い。

遺伝子型と表現型の相関

MSH6病原性多様体に関連した結腸がんの生涯リスクは12~22%と推定される。 [248] [250] MSH6の突然変異キャリアでは、大腸がんの生涯リスクがMSH2およびMLH1の突然変異キャリアより低い可能性がある。初期の研究によると、腫瘍がMSI-H表現型ではない大腸がんでは、発症時の平均年齢が高いほど生殖細胞系MSH6病原性多様体の不活化が高頻度にみられることが示唆されている。

20家系のMSH6多様体キャリア146人(男性59人、女性87人)について報告した研究が1件あり、そのすべてがMSH6の切断型病原性多様体であった。70歳までの大腸がんの有病率は、MSH6と、MLH1またはMSH2の病原性多様体キャリア間では有意差が認められなかったが(P = 0.0854)、男性の大腸がん診断時の平均年齢は、MSH6病原性多様体キャリアが55歳(n = 21;範囲、26~84歳)であったのに対して、MLH1およびMSH2病原性多様体キャリアでは、それぞれ43歳および44歳であった。生殖細胞系MSH6の病原性多様体を有する女性における大腸がんの有病率は、MLH1またはMSH2の病原性多様体キャリアより有意に低かった(P = 0.0049)。女性の大腸がん診断時の平均年齢は、MSH6の病原性多様体キャリアが57歳(n = 15;範囲、41~81歳)であったのに対して、MLH1およびMSH2の病原性多様体キャリアでは、それぞれ43歳および44歳であった。 [308]

さらに、MSH6突然変異がみられる家系では、子宮内膜がんが比較的多いことが報告されている。同研究によると、子宮がんの累積リスクは、MSH6病原性多様体キャリア(71%)の方がMLH1(27%)およびMSH2(40%)の病原性多様体キャリアより有意に高かった(P = 0.02)。子宮内膜がん診断時の平均年齢は、MSH6の病原性多様体キャリアが54歳(n = 29;範囲、43~65歳)であったのに対して、MLH1およびMSH2の病原性多様体キャリアでは、それぞれ48歳および49歳であった。 [308] リンチ症候群でMSH6突然変異がみられる10家系において、女性の70%が子宮内膜がんと診断されたのに対して、MLH1およびMSH2の突然変異キャリアでは、それぞれ31%および29%であったことを報告した研究グループがある。 [362] MSH6突然変異がみられる12家系における子宮内膜がんの有病率は58%で、診断時の平均年齢は57歳であったことを示した研究が1件ある。 [367]

MSH6病原性多様体キャリアがいる家系を対象とした最大規模のシリーズを集めて、がんの有病率を推定した研究グループがある。 [248] 家族がんクリニックおよび集団ベースがん登録を通して5ヵ国からMSH6病原性多様体キャリアがいる計113家系が特定された。これらの家系には推定1,043人の病原性多様体キャリアが含まれていた。70歳までに大腸がんを発症した男性のMSH6病原性多様体キャリアは22%(95%CI、14%-32%)であったのに対して、女性のMSH6病原性多様体キャリアは10%(95%CI、5%-17%)であった。80歳までに大腸がんと診断された男性のMSH6病原性多様体キャリアは44%(95%CI、28%-62%)であったのに対して、女性のMSH6病原性多様体キャリアは20%(95%CI、11%-35%)であった。すべてのMSH6病原性多様体キャリアでは、全年齢層にわたって一般集団と比べて大腸がんリスクが高く、その差は統計的に有意であった(HR、7.6;95%CI、5.4-10.8;P < 0.001)。70歳および80歳までに子宮内膜がんの診断を受けると予想される女性は、それぞれ26%(95%CI、18%-36%)および44%(95%CI、30%-58%)である。女性のMSH6病原性多様体キャリアでは、子宮内膜がんのリスクが、一般集団の女性より約25倍高かった(HR、25.5;95%CI、16.8-38.7;P < 0.001)。

同研究によると、女性のMSH6病原性多様体キャリアでは、他のリンチ症候群のがん(すなわち、卵巣、胃、小腸、腎臓、尿管、または脳)の累積リスクが70歳までに11%(95%CI、6%-19%)、80歳までに22%(95%CI、12%-38%)に達した。 [248] 大腸がんおよび子宮内膜がんを除くリンチ症候群のがんリスクは、一般集団の6倍であった(HR、6.0;95%CI、3.4-10.7;P < 0.001)。男性のMSH6病原性多様体キャリアでは、これらのがんのリスクが上昇する証拠は認められなかった(HR、0.8;95%CI、0.1-8.8;P = 0.9)。MSH6病原性多様体を保有している男性の24%(95%CI、16%-37%)および女性の40%(95%CI、32%-52%)は、70歳までに何らかのリンチ症候群のがんの診断を受け、その割合は80歳までに男性で47%(95%CI、2%-66%)、女性で65%(95%CI、53%-78%)に増加すると著者らは推定している。

検査の実践と落とし穴

有害な生殖細胞系MSH6病原性多様体の保因者で、がん家族歴とは無関係なことが確認された集団ベースの発端者42人中30人(71%)に、アムステルダム基準IIに適合しないがん家族歴があったことを報告した研究が1件ある。 [248]

MSH6突然変異を伴う大腸腫瘍は、MSI-H、MSI-L、またはMSSである可能性がある。このような落とし穴があることは、MMR蛋白発現についてのIHC検査を行う有用性を示すものである。大腸腫瘍の患者21人中18人(86%)がMSI-Hの表現型を示した。検査を受けた子宮内膜がんの患者16人中、11人がMSI-H(69%)、4人がMSI-L(25%)、1人がMSS(6%)であった。 [308]

生殖細胞系MSH2病原性多様体を認める子宮内膜がんでは、MSH6の欠失が高頻度でMSH2の欠失とともに認められる。 [364] [370]

PMS2

保有率

PMS2はMMRの遺伝子ファミリーの遺伝子として最後に確認されたものである。この遺伝子は偽遺伝子の干渉およびその低浸透度のために評価が困難であると考えられた。PMS2の片アレル性病原性多様体はなおもすべてのMMR遺伝子のなかで最も浸透度が低いとみられるが、集まりつつある証拠から、この遺伝子の多様体はよくみられることが示唆されている。最も重度の発現は両アレル性突然変異のキャリアで生じるとみられる。

リンチ症候群ではないかと疑われた患者184人におけるPMS2病原性多様体の発生率が2.2%であったことを報告した登録研究が1件ある。 [371] 集団ベースの研究で報告された保有率は約5%(18人中1人)であった。 [241] 以前にリンチ症候群の臨床的遺伝子検査を受けた患者1,260人を対象とした次世代の塩基配列決定法(NGS)を利用した生殖細胞多様体解析から、MLH1(27%)、MSH2(35%)、MSH6(23%)、EPCAM(3%)、およびPMS2(12%)の生殖細胞病原性多様体を有する114人の発端者が明らかとなった。 [372] このため、LSに対するPMS2の寄与は以前に認識されていたより大きいとみられる。さらに、スイスで連続的に収集された1,000例の大腸がんについてのIHCに基づく調査で、腫瘍の1.5%にPMS2の発現の孤立性の欠如が発見された。このようなPMS2-欠失大腸がんの頻度がすべてのPMS2-関連LSを代表するものであったなら、PMS2はLSと最もよく関連する遺伝子となるだろう。 [373] PMS2-関連LSの浸透度は比較的低いため、罹患家系の同定はその分困難である。 [374]

遺伝子型と表現型の相関

3件の集団ベースの研究および1件のクリニックベースの研究を対象としたメタアナリシスでは、PMS2病原性多様体キャリアについて、70歳までの大腸がんのリスクは男性で20%、女性で15%であり、子宮内膜がんのリスクは15%であると推定された。 [246]

ある研究によると、PMS2の病原性多様体を有する患者では、大腸がんの発症時期がMLH1およびMSH2の病原性多様体を有する患者より7~8年遅かった。しかしながら、これらの家系は小規模であったため、アムステルダム基準を満たしていなかった。 [371] クリニックベースの登録のヨーロッパのコンソーシアムでは確認バイアスを修正するように注意されており、PMS2病原性多様体を有する場合の生涯(70歳まで)の大腸がんの累積リスクは男性で19%、女性で11%しかなかったことが明らかにされた。子宮内膜がんリスクは12%と推定された。 [375] これらの数値に基づいて、このコンソーシアムではMSH6病原性多様体キャリアに対するスクリーニングの開始を遅らせる推奨と併せて、大腸がんおよび子宮内膜がんのスクリーニングの開始を30歳に遅らせる臨床的推奨を発表した。NCCNガイドライン作成者らはこれらのより自由なガイドラインを検討したものの、採用しなかったことに注意すること。 [93] また、リンチ症候群の患者と家族のケアに携わる米国の実際の臨時ワークグループによる2015年のレビューで、片アレル性のPMS2キャリアでは浸透度が低いことを示す複数の研究があるにもかかわらず、この集団にリンチ症候群のがんがないかを調べるサーベイランスガイドラインの変更を推奨することはできないことが結論付けられた。 [374]

検査の実践と落とし穴

偽遺伝子PMS2CLの存在およびPMS2PMS2CL間の頻繁な配列交換のためにPMS2の生殖細胞病原性多様体の発見は困難となっている。PMS2の生殖細胞多様体が疑われる個人における診断率を高めるために、MLPA、long-rangeポリメラーゼ連鎖反応、およびNGSを利用した組み合わせアプローチが用いられている。 [376]

PMS2およびMLH1は安定したヘテロダイマーとして機能する。大腸腺がんにおけるDNA MMR蛋白で最もよくみられるIHCの異常パターンは、MLH1およびPMS2の発現の欠如である。MLH1の機能的欠失ではMLH1とPMS2両方の分解が生じるのに対し、PMS2の欠失はPMS2の発現にのみ(マイナスの)影響を及ぼす。このため、MLH1およびPMS2の欠如がMLH1の変化(プロモーターの高メチル化または生殖細胞多様体)を示すのに対し、PMS2発現の欠如はPMS2の生殖細胞多様体を示唆する。しかしながら、PMS2欠失大腸がん患者88人のうち、PMS2生殖細胞病原性多様体検査に続くMLH1生殖細胞病原性多様体検査により、49人(74%)でPMS2の病原性多様体および8人(12%)でMLH1の病原性多様体が明らかとなった。 [377] MLH1の変異の83%はミスセンス多様体であったが、2人の親族が同一のMLH1多様体を保持し、MLH1発現を保持する2つの腫瘍を発症した1人が、エクソン8のスキッピングに至るイントロンの多様体を保持していた。 [377] このため、PMS2発現の孤立性欠失を有する大腸がんでは、PMS2生殖細胞多様体が認められない場合は、MLH1の生殖細胞病原性多様体を検索すべきである。

リンチ症候群において発現に影響する無関係の遺伝子における多型

MMR遺伝子の発現に影響する可能性のある多型は次の2つのカテゴリーに分類される:既に機序ががんに関連した経路に影響を及ぼすと疑われている多型、および特徴が全く明らかになっていない多型。いくつかの候補遺伝子が調査されている。無名の遺伝子も評価されている。

複数の研究により、インスリン様成長因子1(insulin-like growth factor 1IGF1)遺伝子のプロモーター領域における多型は、リンチ症候群における大腸がん発症年齢を修飾することが実証されている。 [378] [379] この多型は、IGF1の転写開始点の約1kb上流でさまざまな数のCAジヌクレオチド反復を示す。反復の長さは個人間および集団間で大きな差がある。反復の長さがより短いキャリア(最も短いアレルは反復が17以下)は、反復の長さがより長いキャリアよりも平均で12年早く大腸がんを発症する。この多型が結腸以外の悪性腫瘍に対して影響を及ぼすか否かについては不明である。また、サイクリンD1多型G870Aはリンチ症候群においてより早期の大腸がん発症と関連している可能性があるが [380] [381] 、この関連はMSH2病原性多様体キャリアでは、MLH1病原性多様体キャリアよりも再現性が高いようである。 [381] [382]

ゲノムワイド関連解析(GWAS)において同定された2つの一塩基多型(SNP)が、MMR遺伝子病原性多様体キャリアにおいて大腸がんリスクを増加させることが報告されている。(詳しい情報については、本要約のGWASのセクションを参照のこと。)どちらかのSNPのC-アレルを有すると、用量依存性(ヘテロ接合体よりもホモ接合体でリスクが高い)に大腸がんのリスクが増加した。1つ目の8q23.3におけるSNPは、このSNPのホモ接合体のキャリアで大腸がんのリスクが2.16倍増加した。2つ目の11q23.1に位置するSNPは、女性のSNPキャリアにおいてのみ、ホモ接合体で3.08倍およびヘテロ接合体SNPキャリアで1.49倍大腸がんリスクを増加させた。 [383]

298のオーストラリアおよびポーランドの家系出身のMMR病原性多様体キャリア684人を対象とした1件の研究で、以前より知られている6つの大腸がんの感受性遺伝子座に含まれる9つのSNPの遺伝子型を調べ、それらがリンチ症候群の疾患リスクを修飾する可能性を調査した。 [384] rs3802842(11q23.1)とrs16892766(8q23.3)という2つのSNPが、MLH1病原性多様体陽性のリンチ症候群患者における大腸がんの感受性に関連していた。しかし、フランスのMMR病原性多様体キャリア748人を対象としたその後の研究では、IGF1のCAリピートと大腸がん発症年齢との関連、または8q23.3および11q23.1におけるSNPと大腸がんリスクとの関連は再現されなかった。 [385]

これらの研究の矛盾した結果を考慮すると、現時点では、これらの多型に関する遺伝子検査に臨床的な有用性はない。

大腸がんと診断されたすべての患者に対する診断戦略(普遍的検査)

疾病予防管理センターのOffice of Public Health Genomicsで開発されたプロジェクトであるEvaluation of Genomic Applications in Practice and Prevention(EGAPP)により、研究から臨床実践および公衆衛生の実践への移行期にある遺伝子検査をはじめとするゲノム応用を評価するための厳格で、証拠に基づく過程を支援するワーキンググループが組織された。このワーキンググループは、以下の問題を扱うよう任務を受けている:新たに大腸がんを診断された個人におけるリスク評価およびMMR遺伝子の多様体検査により、患者または近親者の転帰が改善するか、またこれらの評価および検査は医学的、個人的、または公衆衛生の意思決定に有用であるか。 [386] [387] ワーキンググループでは、さまざまな検査戦略が実践でどのように機能するか評価する際に、臨床的有用性に関して利用可能な証拠の分析に役立つ経済モデルが作成された。これらのモデルには、多様体の頻度、IHCとMSIの両検査の感度と特異度、およびこれらの検査の費用が含められた。これらの検査の性能は、家族歴、診断時年齢、結腸以外のがんなど、病原性多様体を保有するリスクに基づいている。2009年に、このワーキンググループは、新たに大腸がんと診断された人に対しては、その血縁者の罹患および死亡を低下させるために、リンチ症候群について遺伝子検査を実施するよう推奨する証拠が十分にあることを報告した。ワーキンググループは、以下について検証した4つの戦略について特異的遺伝子検査戦略を推奨するには証拠が不十分であると結論付けた: [386] [387]

  1. すべての大腸がん患者を対象にMSH2MLH1、およびMSH6における生殖細胞病原性多様体について検査。検出されたリンチ症候群当たりの平均費用は$111,825と推定された。
  2. すべての腫瘍をMSIについて検査、その後、MSI-H腫瘍を有する患者ではMSH2MLH1、およびMSH6の生殖細胞検査を実施。検出されたリンチ症候群当たりの平均費用は$47,268と推定された。
  3. すべての腫瘍をMSH2MLH1MSH6、およびPMS2蛋白発現の欠如について検査、その後、認められなかった蛋白に応じてMSH2MLH1、またはMSH6を標的にした生殖細胞検査を実施。検出されたリンチ症候群当たりの平均費用は$21,315と推定された。
  4. すべての腫瘍をMSH2MLH1MSH6、およびPMS2蛋白発現の欠如について検査、その後、認められなかった蛋白に応じてMSH2MLH1、またはMSH6を標的にした生殖細胞検査を実施。MLH1が認められない場合、BRAF多様体陰性腫瘍についての検査が行われた。検出されたリンチ症候群当たりの平均費用は$18,863と推定された。 [387]

EGAPPによる解析では、(1)IHCおよびMSIではすべてのリンチ症候群患者が検出されるわけではない、および(2)大腸がんのすべての患者が検査を選択するわけではないなど、いくつかの仮定を立てていた。

大腸がんを新たに診断された個人でリンチ症候群を同定する戦略の有効性および費用対効果を推定するために、大腸がん、子宮内膜がん、および卵巣がんのリスクを組み込んだMarkovモデルの結果が利用できる。 [388] このモデルに組み込まれた戦略は、臨床基準、予測アルゴリズムのほか、腫瘍検査または事前の生殖細胞病原性多様体検査後に必要となったスクリーニングおよびリスク低減手術に基づいていた。この研究では、EGAPPワーキンググループと同様に、IHCとその後のBRAF病原性多様体検査による戦略が優先された。この戦略により、1人の患者の生存を1年間延長させるための増分費用効果比は$36,200であった。このモデルでは、発端者1人当たりに検査される近親者数(3~4人)が有効性と費用対効果の両方のきわめて重要な決定因子であった。

米国人集団を代表するようにシミュレーションした個人10万人を20歳から追跡し、20の別個のスクリーニング戦略を実施した場合のリスク評価に基づく別のアプローチが報告されている。 [389] この研究の戦略では、PREMM1,2,6モデルを用いて年齢別にリスク評価を行った後に、病原性多様体リスクの閾値が0%、2.5%、5%、または10%を超えた個人にMLH1MSH2MSH6、およびPMS2の病原性多様体分析を実施した。病原性多様体の保有に関する(25歳、30歳、または35歳で開始する)リスク評価で5%を超えた個人では、キャリアにおける大腸がんおよび子宮内膜がんは、それぞれ12.4%および8.8%減少した。集団全体では、この戦略により、質調整余命が平均費用対効果比、$26,000で10万人当たり135年増加した。著者らは概説した戦略が現在の実践よりも費用対効果が優れ、医療アウトカムを改善することを示した。

EGAPPワーキンググループの結論に議論の余地があることを受けて、疾病予防管理センターはがん遺伝学の専門家を招集し、これらの推奨に検討を加える特別会議を開催した。同会議は、「新たに診断された大腸がんの全症例に対するリンチ症候群の遺伝子スクリーニング(普遍的LSスクリーニング)は、理論上、対象集団に健康利益をもたらす可能性があり、その実施可能性は実証されている」と結論付けた。 [390]

臨床現場での普遍的MSI/IHC大腸がんスクリーニング

普遍的スクリーニングは近年、多くの施設で実施されている。米国遺伝カウンセラー学会(National Society of Genetic Counselors)による2011年の調査では、回答者の25%が自身の施設で何らかの普遍的スクリーニングを実施したと答えている。腫瘍スクリーニング法はさまざまであった;新たに診断された大腸腫瘍に対し、全53件のうち34件(64.2%)が最初にIHCを実施し、11件(20.8%)が最初にMSI検査を実施し、8件(15.1%)が両方の検査を実施したと回答した。 [391] 2012年の調査では、米国国立がん研究所(NCI)のがん総合施設の71%で何らかの普遍的スクリーニングがルーチンに実施されていたが、ランダムに抽出された地域病院のがんプログラムの間では、実施率が15%に低下することが示された。 [392] 2016年版のNCCNガイドラインでは、1)すべての大腸がんのIHCまたはMSI検査、または2)70歳未満で診断された患者およびBethesdaガイドラインに適合する70歳を超える患者で大腸がんのIHCまたはMSI検査のいずれかを支持している。 [93] 年齢に関係なく全個人に普遍的スクリーニングを実施した場合、その費用は70歳未満の人を対象としたスクリーニングに比べ、救命年数当たりで2倍になった。 [388] この分析の著者らは、70歳未満の個人に対するスクリーニングは合理的であると考えられ、また年齢を問わず全員にスクリーニングを実施する方法も、費用負担に対する社会的合意があれば許容できると結論している。

数件の研究は、リンチ症候群に対する普遍的スクリーニングの実施可能性と有用性を示した。ある施設における初期の経験では、MSIおよびIHCを使用するスクリーニングを受けた患者1,566人のうち、44人(2.8%)がリンチ症候群であることが見い出された。その後、各発端者につき、さらに平均で3人の家族がリンチ症候群と診断された。 [241] 続いて行われたプール解析では、4つの大規模研究に含まれるMSI/IHC検査を受けた大腸がん患者10,206人について、病原性多様体の検出率が3.1%であることが明らかになった。 [393] この研究では、リンチ症候群を診断する腫瘍検査の4つの戦略を比較した。 [393] 70歳以下で大腸がんと診断されたすべての人、および70歳を過ぎても改正Bethesdaガイドラインのいずれかを満たす人の腫瘍を検査する戦略により、95.1%の感度、95.5%の特異度、および2.1%の診断率が得られた。この戦略では、リンチ症候群症例の4.9%が見逃されたが、一般的なアプローチよりもIHC/MSI検査を必要とした症例は34.8%少なく、生殖細胞検査を受けた症例は28.6%少なかった。

リンチ症候群に関する普遍的スクリーニングの重要な含意は、スクリーニングの結果、該当する個人に対し自動的に生殖細胞変異検査が実施されるわけではないという事実である。続く遺伝カウンセリングでは、病理医、紹介を行う外科医または腫瘍専門医、がん遺伝学サービス間での協調が求められる。加えて後続の検査に対する患者の同意と遵守が、遺伝カウンセリングの受診に著しい影響を及ぼす場合がある。例えば、ある集団ベースのスクリーニング研究では、IHC-欠失腫瘍(BRAF病原性多様体は陰性)を有する患者のうち、最終的に生殖細胞系列のMMR遺伝子検査に同意し受診した患者は54%に過ぎなかった。 [394] ある施設では、大腸がんの診断後にルーチンのMSIおよびIHC検査を受けた患者1,100人に病原性多様体が21例認められた。この研究では、外科医と遺伝カウンセラーの両方が異常なMSI/IHC検査結果のコピーを受け取った場合に、遺伝カウンセリングと生殖細胞系列のMMR遺伝子検査の受診率が明らかに高くなり、特に遺伝カウンセラーが患者のフォローアップに積極的な役割を果たした場合には顕著であった。 [395]

IHC検査のプロセスを簡素化し、コストを削減する目的で、PMS2およびMSH6のみのIHC検査を実施する方法が提案された。この方法は、MMRヘテロダイマー複合体の結合特性、すなわちMLH1またはMSH2の遺伝子の多様体と欠失により、必ずPMS2またはMSH6の分解がそれぞれ生じるが、その逆は真ではないということに依拠している。 [333] 著者らはIHC-欠失腫瘍検出後の最終的なアルゴリズムを示していない。しかし、リンチ症候群におけるMLH1およびMSH2病原性多様体の優勢を考慮に入れ、著者らはPMS2-欠失腫瘍に対してMLH1高メチル化の調査(代理としてBRAF病原性多様体の状態を利用)または生殖細胞系列のMLH1病原性多様体の分析を実施するべきであると示唆している。同様に、MSH6欠失の場合は、一般的にMSH2の生殖細胞系検査を第一段階として実施する。この方法に対する検証は行われておらず、臨床現場で広く利用されているわけでもない。

この腫瘍検査を実施するためのインフォームド・コンセントのプロセスを最善に実行する方法については議論が続いている。 [396] 一般的に、がんに対する遺伝的素因の同定には、(2008年遺伝情報差別禁止法[Genetic Information Nondiscrimination Act of 2008]に関係なく)保険差別の可能性についての懸念、不都合な心理的結果、および追加の検査に付随する費用のために明確なインフォームド・コンセントが必要になる。 [397] [398] EGAPPワーキンググループでは特に、MSIまたはIHC検査についてインフォームド・コンセントを取得するように勧告している。 [386] それにもかかわらず、この問題に関する議論は続いており、その理由の1つは、検査前にこうした同意を得る実施可能性にまつわる実践的な心配があるためである。提案されているアプローチの1つでは、大腸がんは家族内に遺伝すること、腫瘍が遺伝型の特徴を示す場合は、がんの遺伝的原因を詳しく評価するために遺伝医療提供者から連絡があることについて、検査前の患者に知らせる準備段階での話し合いを提唱している。 [396] 米国のがんプログラム(NCIが指定したがん総合施設の20のがんプログラムと地域病院の49のがんプログラム)の横断的調査により、すべての症例または選択された症例を対象に結腸がん診断時にMSIおよび/またはIHC検査を標準の病理学的評価の一部として実施したプログラムのうち、腫瘍検査前に文書によるインフォームド・コンセントを要求したものはなかったことが明らかにされた。 [392]

(詳しい情報については、がんの遺伝学的リスク評価とカウンセリングに関するPDQ要約のインフォームド・コンセントのセクションを参照のこと。)

遺伝子検査の費用対効果

遺伝子検査がまれではなくルーチンで使用されるようになるにつれ、検査費用に関する疑問が常に生じてくる。歴史的に、費用対効果比(質調整余命[QALY]当たりの費用)の利用で$50,000がケアの良好な価値としてベンチマークに利用されている。 [399] 時がたつにつれ、この閾値は低過ぎるため、$100,000または$150,000のような他の閾値を使用することが提案されている。 [399] 遺伝子検査に対するアプローチに関して、この問題に2件の最近の論文が取り組もうとした。

1件の研究は、がん遺伝子クリニックに紹介された患者を対象とした大腸がんおよびポリポーシス症候群の診断のためのNGSパネルについて、費用対効果を評価した。 [400] これらの著者らは、評価のために紹介された患者に対する、および病原性多様体キャリアとして同定された家系員を対象とした大腸がんサーベイランスに関する即時および下流の費用を見積もるための決定モデルを開発した。費用は、Centers for Disease Control and Preventionおよび学術分子遺伝学研究所から公表されたモデルに基づいて見積もられた。ここでは、遺伝様式および大腸がんの浸透度を基に症候群が分類された。4つのパネルが標準ケアと比較された。最初のパネルは、LS関遺伝子のみの塩基配列決定法から構成されていた。この戦略の費用は、QALY当たり約$144,235であった。2番目のパネルは、LS関連遺伝子と常染色体優性遺伝および高い大腸がん浸透度に関連する遺伝子から構成されていた。この戦略の費用は、QALY当たり$37,467であった。3番目のパネルは、LS関連遺伝子と常染色体優性および常染色体劣性遺伝ならびに高い大腸がん浸透度に関連する遺伝子から構成されていた。この戦略の費用は、QALY当たり$36,500であった。4番目のパネルには、最初の3つのパネルの遺伝子に加え、浸透度の低い常染色体優性疾患に関連する遺伝子が含まれていた。この結果、パネル3と比較すると、費用対効果比の増分はQALY当たり$77,300となった。この著者らは、第一選択検査として高い浸透度の大腸がんおよびポリポーシス症候群ならびにLSがん遺伝子を含むNGSパネルの利用が費用対効果の面から臨床的に意味のある結果が得られる可能性が最も高いと結論した。

他の研究では、LSの検査のみの費用対効果に取り組んだ。 [401] そこでは、21のスクリーニング戦略が評価された。このモデルには、2つのステップ、1)LS診断の数の判定、および2)健康キャリアにおけるLSを確認した結果として得られる余命の判定がある。モデル化された戦略の中でも、PREMM1,2,6のような予測モデルによる発端者のスクリーニングとその後のMMR蛋白発現を調べるIHCおよび生殖細胞遺伝子検査が最善のアプローチであり、費用対効果比の増分は得られた余命当たり$35,143であった。すべての発端者に対する生殖細胞遺伝子検査は、最も有効なアプローチであったが、費用は得られた余命当たり$996,878であった。この著者らは、LSスクリーニングの最初のステップでは発端者に予測モデルを利用すべきで、普遍的な検査および一般集団スクリーニング戦略はいずれもLSに対して費用対効果の高いスクリーニング戦略と言えないと結論した。

子宮内膜がんと診断されたすべての患者に対する診断戦略

Markov数学モデルを基に、子宮内膜がんの第一度近親者がいる子宮内膜がんの患者では、診断時の年齢にかかわりなく、全員に対してMMR蛋白発現についてのIHC検査を実施する戦略は、リンチ症候群関連がんの患者の中からリンチ症候群を発見する上で費用効果的であることが報告された。 [402] (MMR蛋白発現についてのIHC検査実施に関する詳しい情報については、本要約の遺伝子検査のセクションを参照のこと。)この研究における増分費用対効果比は、個別の戦略の追加費用を、代替戦略と比較した健康利益で割った値として定義された。このモデルで、子宮内膜がんの第一度近親者がおり、リンチ症候群関連がんと診断されたすべての患者から腫瘍を採取してIHC検査を実施する戦略では、リンチ症候群関連がんの第一度近親者が少なくとも1人おり、50歳未満で子宮内膜がんと診断されたすべての女性に対して実施する遺伝子検査で最も費用が安価な戦略と比べて、増分費用比が延命1年当たり$9,126であった。

このモデルにより、米国におけるすべての子宮内膜がん(2010年の新規症例は45,000人と推定される)でIHC検査によるスクリーニングを実施すると仮定すると、リンチ症候群患者と診断される女性は827人(1.84%)と推定された。 [402] しかしながら、リンチ症候群関連がんの第一度近親者が少なくとも1人いる患者の子宮内膜腫瘍のみを検査する戦略を適用すると仮定すると、識別される罹患患者は755人(1.68%)となる。アムステルダム基準IIを適用すると、識別されるキャリアは539人(1.2%)となる。最も費用効果的な戦略の増分利益は、アムステルダム基準IIによって検査した場合と比べ、平均寿命がわずか1日延びるだけであると著者らは述べている。しかしながら、これは、現在、American College of Obstetricians and Gynecologistsが一般集団の30歳を過ぎた女性に対して推奨している3年ごとの子宮頸がんのスクリーニングから得られる平均寿命の延長に匹敵するため、有意義な可能性があると主張している。

リンチ症候群に対する介入

リンチ症候群患者における腺腫と結腸がんの生物学的性質のいくつかの側面から、この集団におけるサーベイランスのアプローチが平均リスク集団の場合とどのように区別されるべきかが、以下のように示唆されている:


  • 大腸がんが比較的若年で発症する。


    リンチ症候群の大腸がんは、散発性のがんよりも生涯の早い時期に発生する。MLH1およびMSH2の病原性多様体キャリアでは、40歳時点での大腸がんの推定リスクは女性で31%、男性で32%である;50歳時点での推定リスクは女性と男性でそれぞれ52%および57%である。 [3] 年齢および性別で層別化したキャリアにおいて大腸がんの推定リスクが高かった4件の研究のメタアナリシスの著者らは、30歳未満の個人において大腸がんによる1人の死亡を回避するために必要な大腸内視鏡検査の数に基づいて、スクリーニングを20~29歳の間ではなく、30~39歳の間に開始すればよいと結論付けた(表10を参照のこと)。 [403]

    表10.大腸がんによる1人の死亡を回避するために5年間で年1回の大腸内視鏡検査によるスクリーニングが必要となる推定数a

    年齢群(歳) スクリーニングが必要となる数
    a出典:Jenkins et al.
     

    男性

    女性

    20–29 155 217
    30–39 45 66
    40–49 29 35
    50–59 16 25
    60–69 24 35
    70–79 29 40



  • 結腸がんが右側に好発する。


    リンチ症候群の大腸がんの多く(60~70%)が右側結腸に発生するが、このことは、S状結腸鏡検査の単独実施は適切なスクリーニング戦略ではないこと、および大腸内視鏡検査がより完全に近い結腸の構造的検査であることを示唆している。リンチ症候群におけるサーベイランス法としての大腸内視鏡検査については、証拠に基づくレビューが報告されている。 [141] [404] [405] リンチ症候群患者では大腸がんの発生率は生涯を通じてかなり高く、これは、利用可能な検査のうち最も感度の高いものを用いるべきであることを示唆している。(利用可能な結腸サーベイランスの推奨については、表11を参照のこと。)


  • 腺腫-がん腫の連続が加速している。


    正常粘膜から腺腫、がんへと続く進行は加速するが [406] [407] 、このことは、さらに短い間隔(1~2年ごと)で大腸内視鏡検査によるスクリーニングを実施すべきであることを示唆している。 [407] [408] [409] [410] MMR遺伝子の病原性多様体キャリアは非キャリアよりも若い年齢で腺腫を発症することが実証されている。 [254]


  • 結腸以外の悪性腫瘍のリスクが高い。


    リンチ症候群患者は、その他のがんのリスク、特に子宮内膜がんのリスクが高い。86家系の女性1,018人では、結腸以外のがんの累積リスクは70歳までで20%と推定されたが、対して一般集団では3%であった。 [263] 個々のがんの割合は家系によって変化するという証拠がいくつかある。 [262] [411] [412] (専門家学会からの利用可能な結腸以外のスクリーニングの推奨については、表12を参照のこと。)


表11および表12では、リンチ症候群に対する診断およびサーベイランスに関して、異なる専門家学会による臨床診療ガイドラインを要約している。

表11.リンチ症候群の診断および結腸サーベイランスのための臨床診療ガイドラインa

団体 腫瘍のMSI検査/IHC検査 MMR/ スクリーニング開始年齢 頻度 方法 解説
C = 大腸内視鏡検査;ESMO = European Society for Medical Oncology;IHC = 免疫組織化学法;MMR = ミスマッチ修復;MSI = マイクロサテライト不安定性;NA = 該当せず;NCCN = National Comprehensive Cancer Network。
a本表では2010年以降に利用可能なガイドラインを要約している。米国がん協会など、他の組織は2010年以前にガイドラインを発表している。 [413]
b米国臨床腫瘍学会およびJapanese Society of Medical Oncologyは、表内に示されたESMOガイドラインを支持している。 [414] [415]
cU.S. Multi-Society Task Force on Colorectal Cancerには、以下の組織が含まれる:American Academy of Family Practice、American College of Gastroenterology、American College of Physicians-American Society of Internal Medicine、American College of Radiology、American Gastroenterological Association(米国消化器病学会)、American Society of Colorectal Surgeons、およびAmerican Society for Gastrointestinal Endoscopy。
ESMO(2013)b [415] MSI:実施する MMR:実施する 20~25歳、または家系における最も若い大腸がん症例の5歳前;上限は確定していない 1~2年ごと C  
IHC:実施する EPCAM:実施する
U.S. Multi-Society Task Force on Colorectal Cancer(2014)c [416] MSI:実施する MMR:実施する 20~25歳、または家系における最も若い大腸がん症例が25歳未満であればその2~5歳前 1~2年ごと(MMR病原性多様体キャリアでは年1回) C MSH6およびPMS2突然変異キャリアでは、家系内に早期発症がんが認められなければ、それぞれ30歳および35歳でスクリーニングの開始を検討する。
IHC:実施する EPCAM:該当せず
NCCN(2016) [93] MSI:実施する MMR:実施する MLH1、MSH2、MSH6、PMS2、およびEPCAMキャリア:20~25歳、または家系における最も若い大腸がん症例が25歳未満であればその2~5歳前 1~2年ごと C 腫瘍からIHCおよびMSIの情報が得られているが、生殖細胞病原性多様体が確認されなかった家系に対する追加の推奨。(詳しい情報については、NCCNガイドラインのLS-A-3のページを参照のこと。) [93]
IHC:実施する EPCAM:実施する


表12.リンチ症候群における結腸外の部位に考えられるサーベイランスa

部位 ESMO(2013) U.S. Multi-Society Task Force on Colorectal Cancer(2014) NCCN(2016)
ESMO = European Society for Medical Oncology;NA = 該当せず;NCCN = National Comprehensive Cancer Network。
a本表では2010年以降に利用可能なガイドラインを要約している。米国がん協会など、他の組織は2010年以前にガイドラインを発表している。 [413]
bJapanese Society of Medical Oncologyは、表内に示されたESMOガイドラインを支持している。 [415]
c米国臨床腫瘍学会は、子宮/卵巣および胃/小腸のサーベイランスについてESMOの推奨を支持しているが、家族歴がある場合は他のリンチ症候群関連がんに対するスクリーニングを検討するように推奨している。 [414]
dU.S. Multi-Society Task Force on Colorectal Cancerには、以下の組織が含まれる:American Academy of Family Practice、American College of Gastroenterology、American College of Physicians-American Society of Internal Medicine、American College of Radiology、American Gastroenterological Association(米国消化器病学会)、American Society of Colorectal Surgeons、およびAmerican Society for Gastrointestinal Endoscopy。

子宮/卵巣

実施する 実施する 実施する

胃/小腸

実施する 実施する 選択された個人/家系においてのみ実施する

尿路

実施しないc 実施する 実施する

乳房

実施しないc 実施しない 実施しない

前立腺

実施しないc 実施しない 実施しない

膵臓

実施しないc 実施しない 実施しない

中枢神経系

実施しないc NA 身体診察/神経学的検査


証拠レベル(結腸サーベイランス):2ai

証拠レベル(結腸外のサーベイランス):5

リンチ症候群における化学予防

Colorectal Adenoma/Carcinoma Prevention Programme(CAPP2)は、多くの国際センターで実施されたサーベイランスプログラムに参加したリンチ症候群患者を対象に、大腸がん予防におけるアスピリンの役割を判定する二重盲検プラセボ対照ランダム化試験であった。 [417] この研究では、861人の参加者を対象に、アスピリン(600mg/日)、アスピリンのプラセボ、レジスタントスターチ(30g/日)、またはスターチのプラセボを最大4年間服用する群にランダムに割り付けた。追跡期間平均55.7ヵ月(範囲:1~128ヵ月)で、53の原発大腸がんが48人の参加者(アスピリン群の427人中18人およびアスピリンのプラセボ群の434人中30人)に発生した。アスピリン群へのランダム化割り付けを(アスピリン過敏症または既往の消化性潰瘍疾患のために)拒否した患者76人は、レジスタントスターチ群またはレジスタントスターチのプラセボ群にランダムに割り付けられた。ITT(intention-to-treat)解析による大腸がんに対するHRは、0.63(95%CI、0.35-1.13;P = 0.12)であった。ただし、大腸がんを発症した患者のうち5人が2つの原発結腸がんを発症した。複数の原発大腸がんの影響を明らかにするポアソン回帰分析が実施され、アスピリンの予防効果が認められた(発生率比[IRR]、0.56;95%CI、0.32-0.99;P = 0.05)。治療を2年間以上受けた参加者を対象としたプロトコルに基づく解析では、HRが0.41(95%CI、0.19-0.86;P = 0.02)、IRRが0.37(0.18-0.78;P = 0.008)であった。すべてのリンチ症候群がん(子宮内膜、卵巣、膵臓、小腸、胆嚢、尿管、胃、腎臓、脳)を対象とした解析では、プラセボに対してアスピリンの予防効果が明らかになった(HR、0.65;95%CI、0.42-1.00;P = 0.05)。有害事象ではアスピリン群とプラセボ群の間に有意差は認められず、重篤な有害事象はいずれの治療群でもみられなかった。著者らは、1日当たり600mgのアスピリンを平均で25ヵ月間投与することで、リンチ症候群患者におけるがん発生率がかなり減少すると結論した。CAPP2では、毎日のレジスタントスターチの摂取による効果を示すことができなかった。この試験の限界は、さまざまなセンターで実施されたサーベイランスの調査頻度が標準化されたものとして報告されなかったことである。この研究に登録されたリンチ症候群患者746人を対象とした初期のCAPP2試験の結果は2008年に公表され [418] 、追跡期間の平均が29ヵ月(範囲、7~74ヵ月)と短く、結腸腺腫または結腸がんに対する有意な予防効果を示すことができなかった(RR、1.0;95%CI、0.7-1.4)。2015年のColon Cancer Family Registry参加者1,858人の調査では、アスピリンおよびイブプロフェンがMMR遺伝子病原性多様体キャリアに対する化学予防薬になる可能性が示唆された。 [419] CAPP3試験は低量のアスピリン(盲検化された100mg、300mg、および600mgの腸溶性コーティングされたアスピリン)の効果を評価するもので、2013年に開始され、2021年頃までに約3,000人の病原性多様体キャリアの登録が見込まれている。 [420]

リンチ症候群家系における子宮内膜がんスクリーニング

注:一般集団における子宮内膜がん(子宮体がん)のスクリーニングについては、別のPDQ要約が用意されている。

子宮内膜がんはリンチ症候群家系において2番目に多くみられるがんで、当初の推定ではリンチ症候群キャリアでの70歳までの累積リスクは30~39%になる。 [262] [264] リンチ症候群遺伝子のキャリアと推定される293人を対象としたフィンランドの大規模研究では、子宮内膜がんの生涯累積リスクが43%であった。子宮内膜がんのリスクは年齢と直接相関し、一般集団における子宮内膜がんのリスクは3%であるが、(キャリアでは)40歳での3.7%から80歳までの42.6%の範囲にわたっていた。 [244] リンチ症候群家系で子宮内膜がんのリスクが最も高くなるのは一般集団より15年早く、55~65歳で最もリスクが高くなる。選択されていない子宮内膜がん患者を対象としたオハイオ中心部の地域研究では、新規診断患者の少なくとも1.8%(95%CI、0.9%-3.5%)がリンチ症候群であった。 [421] 子宮下部の腺がんでは、リンチ症候群を発症するリスクが高くなりうる。 [422]

一般集団では、子宮内膜がんの診断は女性に異常出血や閉経後出血などの症状が現れた際になされるのが一般的である。その場での子宮内膜組織採取、もしくは子宮頸管拡張と子宮内掻爬(D&C)が実施され、それにより診断用の組織標本が採取される。子宮内膜がんの女性の80%がI期疾患の症状を呈する。リンチ症候群の女性における臨床像が一般集団のそれと異なることを示唆するようなデータは存在しない。

リンチ症候群の女性では子宮内膜がんのリスクがかなり高いことを考慮して、子宮内膜スクリーニングが推奨されている。提唱されているスクリーニング方法には、経膣超音波検査(TVUS)および/または子宮内膜生検がある。ときにパパニコロウ試験により子宮内膜がんの診断がなされることもあるが、この方法は感度が低く過ぎてスクリーニング検査としては有用ではない。ホルモン補充療法を受けていない閉経後の女性から得たパパニコロウ塗抹標本における子宮内膜細胞の存在は異常であり、さらに詳細に調べる必要がある。 [423] [424] 2件の研究で、リンチ症候群の女性に対する子宮内膜スクリーニングとしてTVUSの使用が調査された。 [425] [426] リンチ症候群またはリンチ症候群様の家系に属する292人の女性を対象とした1件の研究では、TVUSによって子宮内膜がんが検出された症例は1例もなかった。加えて、症状を呈した女性2人でスクリーニング時以外でのがんの検出があった。 [425] 第2の研究では、リンチ症候群の女性41人がTVUSスクリーニングプログラムに登録された。179回のTVUSが実施され、異常が検出されたのは17回であった。この17人の女性のうち、3人では子宮内膜組織採取にて複雑で非典型的な過形成が認められたが、14人では子宮内膜組織採取は正常であった。しかしながら、TVUSでは正常所見の8ヵ月後に異常膣出血を呈した1人の女性を検出することができず、この女性は後にIB期の子宮内膜がんであることが判明した。 [426] これらの研究はともに、TVUSは感度および特異度ともに高くないと結論付けている。リンチ症候群の女性175人を対象に、子宮内膜組織採取およびTVUSの両検査を含んだ研究では、子宮内膜組織採取の方がTVUSより感度が高いことが示された。子宮内膜がんの14症例のうちの11症例が子宮内膜組織採取によって発見された。他の3症例のうち、2例はスクリーニングの実施間隔の間に症状から発見されたものであり、もう1例は子宮摘出術の実施時に発見された潜伏子宮内膜がんであった。子宮内膜組織採取では、さらに14例の子宮内膜過形成も同定された。子宮内膜がんの女性14人のうち、10人は子宮内膜組織採取に加えてTVUSによるスクリーニングも受けていた。その10人のうち、4人ではTVUSも異常であったが、残りの6人ではTVUSは正常であった。 [427] このコホート研究では子宮内膜組織採取の実施により子宮内膜スクリーニングにおいてTVUSを上回る利益が得られうることが実証されたが、リンチ症候群の女性における子宮内膜がん生存率については、他のどの検査方法を用いたスクリーニングでも利益が得られると予測するようなデータは一切存在していない。症状から診断された子宮内膜がん患者の生存率が良好であることを考慮すると、十分な検出力を備えたスクリーニング研究によって生存面での優位性の実証がなされる可能性は低いであろう。確かに言えることは、リンチ症候群の女性に対しては、異常または閉経後膣出血がある場合は子宮内膜組織採取かD&Cの実施が正当となるという忠告がなされるべきであるということである。

ルーチンの子宮内膜がんのスクリーニングは、一般集団における有益性は示されていないが、専門家の合意が示唆するところでは、リンチ症候群の高リスク家系に属する女性では検討されるべきである。一部の研究では、臨床的または遺伝学的にリンチ症候群と診断された女性でも必ずしも集中的な婦人科スクリーニングを受けているわけではないということが示唆されている。 [428] [429] (詳しい情報については、本要約のリンチ症候群における婦人科がんスクリーニングのセクションを参照のこと。)生存面での優位性の欠如にもかかわらず、NIHによって組織された作業部会は、30~35歳の時点からの年1回の子宮内膜組織採取の開始を提唱している。TVUSについても、卵巣の評価のために年1回の実施を検討することができる。 [405] [430]

子宮内膜がんスクリーニングのためのTVUSについて発表されている文献では、TVUSの感度および特異度が低いことを示しているが、TVUSは卵巣がんスクリーニングでも役割を果たしているため、臨床診療ガイドラインでは現在のところ、TVUSの使用に反対する推奨については消極的である。

証拠レベル:5

リンチ症候群における外科的管理

リンチ症候群の特徴の1つは、同時性および異時性大腸がんの存在である。異時性大腸がんの発生率は、結腸部分切除術後10年で16%、20年で41%、および30年で63%であると報告されている。 [431] 同時性および異時性の新生物の発生率が高いため、結腸に腫瘍性病変を有するリンチ症候群患者に対して選択すべき治療は、一般的に広範な結腸切除術(全摘術または亜全摘術)である。にもかかわらず、治療は個別に決定する必要がある。複数の数学モデルにより、67歳以上の患者における広範な手技の利益は早期発症がんの比較的若年の患者で得られる利益と比較して、最低限しか得られないことが示唆されている。Markov意思決定分析モデルによると、早期発症大腸がんで広範な手技を受けた若年患者の生存の優位性は同じ患者が部分切除術を受けた場合に得られるよりも最大で4年長い可能性がある。 [432] 広範な手技の推奨は、患者の併存疾患、疾患の臨床病期、患者の希望、および外科的専門知識と比較検討する必要がある。部分的な手技よりも広範な切除術を受けたリンチ症候群患者の方が生存が有利であることを示したプロスペクティブ研究もレトロスペクティブ研究も存在しない。2件の研究により、広範な手技を受けた患者は部分切除術を受けた患者よりも異時性大腸がんおよび大腸がんに関係する追加の外科的手技が少ないことが示されている。 [431] [433] 広範な手技 vs 部分的な手技の機能的結果を比較検討することが、何よりも重要である。大多数の患者は腹式結腸全摘術後、十分に適応するが、一部の患者には止瀉薬による薬物療法が必要となる。1つの決定モデルにより、腹式結腸全摘術 vs 結腸部分切除術を受けた30歳の患者に対するQALYが比較された。 [434] このモデルでは、広範な手技および部分的な手技間であまり差は認められず、広範な手技を受けた患者よりも部分的な手技を受けた患者でQALYが0.3年長かったのみである。 [434]

手術の選択肢を検討する場合には、結腸亜全摘術または結腸全摘術により直腸がんリスクが排除されるわけではないと認識することが重要である。腹式結腸全摘術後の残存直腸にがんが発現する生涯リスクは、結腸摘除後12年で12%であると報告されている。 [435] 手術による一般的な合併症に加えて、広範な結腸切除術後には尿および性機能不全の潜在的リスクもあり、これらのリスクは吻合術が遠位であるほど大きくなる。そのため、手術の選択は、外科医および患者によって、個々の場合に基づいて決定する必要がある。

リンチ症候群で直腸がんを有する患者にも、同様の手術の選択肢(広範な切除 vs 部分的切除)を提案し、検討を行う必要がある。広範な手技としては、括約筋が温存できる場合の再建性直腸結腸切除術およびIPAA、または括約筋が温存できない場合のループ回腸瘻造設を伴う直腸結腸切除術がある。2件のレトロスペクティブ研究により、リンチ症候群患者における直腸がん部分切除術後の異時性結腸がんの発生率は15%および18%と報告された。 [436] [437] これらの研究の1件で、異時性の高リスク腺腫およびがんの複合リスクは、直腸切除後中央値で101.7ヵ月の追跡時に51%であった。 [437]

手術方法を基にしたリンチ症候群患者における生殖能力に関するデータはない。FAP患者では、腹式結腸全摘術およびIRA後の生殖能力に差はみられないことが報告されているが、回腸嚢肛門吻合術を伴う再建性直腸結腸切除術を受けた患者では、一般集団と比べて生殖能力に54%の低下がみられる。 [438]

リンチ症候群患者を治療する臨床医のほとんどは、大腸がん診断時の広範な手技を支持している。しかしながら、上述のように手術の選択は、外科医および患者によって、個々の場合に基づいて決定する必要がある。リンチ症候群における外科的管理の話題については、次の文献で要約されている。 [439] [440] [441]

証拠レベル:4

リンチ症候群における免疫療法

MSI経路を介して生じる腫瘍では、他の経路を介して生じる腫瘍よりも体細胞多様体が多い。このことは、MMR欠損(dMMR)腫瘍は、MMR非欠損(pMMR)腫瘍よりも潜在的抗原を多く持ち、プログラム細胞死(PD-1)阻害による免疫系操作に対する反応性が高い可能性があることを意味しうる。これは、治療抵抗性の進行した転移を伴う大腸がん患者に対して抗PD-1免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブによる治療を行った研究で提起された仮説である。 [442] この小規模第II相研究では、大腸がん患者32名(11名はdMMR、21名はpMMR、他の9名は大腸以外のdMMR腫瘍)が14日ごとに静脈内ペムブロリズマブによる治療を受けた。評価可能な患者における免疫関連応答率は、dMMR大腸腫瘍では40%(10例中4例)、pMMR大腸腫瘍では0%(18例中0例)、大腸がん以外のdMMR腫瘍では71%(7例中5例)であった。免疫関連無増悪生存率(PFS)は、dMMR大腸がんで78%(9例中7例)、pMMR大腸がん患者で11%(18例中2例)、大腸がん以外のdMMR腫瘍患者で67%(6例中4例)であった。dMMR腫瘍はpMMR腫瘍より体細胞多様体を平均24倍多く有していた。加えて、本研究では体細胞多様体の量はPFSの延長と関連していた。著者らはMMRの状態がペムブロリズマブによる免疫チェックポイント阻害の臨床的有益性を予測すると結論している。

遺伝性大腸がんにおける内視鏡画像法の進歩

FAPおよびリンチ症候群における腺腫に対する内視鏡療法の性能、および外科への紹介と外科治療の計画に関する意思決定では、腺腫の存在を正確に推定することが要求される。AFAPとリンチ症候群の両方において、非常に微細な腺腫、すなわちAFAPの症例における微小腺腫およびリンチ症候群における平坦であるがときに大きな腺腫の存在は特に難題になる。

色素内視鏡検査

微細なポリープを内視鏡で発見するための感度の高い手段の必要性は、他の点では平均リスクの被検者における扁平腺腫や無茎性鋸歯状ポリープ、AFAPにおけるきわめて軽症型の腺腫表現型、およびリンチ症候群における微細な扁平腺腫が認識されるとともに増している。現代の高解像度内視鏡により腺腫の検出数が改善されているが、さまざまな生体用染料、特にインジゴカルミン色素スプレーの使用によって検出はさらに改善されている。インジゴカルミンを用いることで達成される粘膜造影の改善により、腺腫の検出率を高められることを示している研究がいくつかある。家族歴が明らかであるかどうかにかかわらず、拡大撮影を伴うまたは伴わない色素スプレー大腸内視鏡検査(dye-spray colonoscopy)(インジゴカルミンまたはメチレンブルー) [443] [444] [445] [446] [447] [448] [449] 、または狭帯域光観察(narrow band imaging)などのなるべく新しい画像技術 [450] から成る慎重な臨床評価により、多数の微小腺腫の特徴的な右側に偏った集積が明らかになることがある。十二指腸腺腫または表面の異形成を伴う胃底腺ポリープがみられる場合は、上部消化管の内視鏡検査が情報価値のある検査となる可能性がある。APCまたはMYHの検査が実施される場合は、こうした知見により多様体検出の可能性が増す。

平均リスク集団を対象にしたさまざまな大規模シリーズにおいて、症例の約5~10%に高悪性度異形成および浸潤性腺がんを伴う腺腫などの微細な平坦病変が検出された。 [451] これらの研究の一部ではタンデム手技-白色光検査実施後に「集中的」(盲腸から20分以上かけて引き戻す)検査 vs 色素内視鏡検査にランダム化-が行われ、色素内視鏡検査群で有意に多くの腺腫が検出された。 [452] しかしながら、数件のランダム化試験では検出数に有意差はみられなかった。 [453] [454]

リンチ症候群の被験者を対象にしたランダム化試験 [455] において、適応がある場合はポリープ切除術を行う標準の大腸内視鏡検査の後に、インジゴカルミン色素内視鏡検査または再度行う「集中的な」白色光大腸内視鏡検査(上述の平均リスクのスクリーニング群とほぼ同じデザイン)のいずれかが実施された。このシリーズでは、色素内視鏡検査群と集中的な白色光検査群とで腺腫の検出数に有意差はみられなかった。しかしながら、これらの患者は比較的年齢が低く、多くの症例が以前に数回検査を受けており、ポリープ除去を受けていた可能性がある。

ドイツの研究 [456] では、リンチ症候群患者の1件の症例シリーズが白色光検査実施後に色素内視鏡検査を受け、別の症例シリーズは狭帯域光観察(narrow-band imaging)による大腸内視鏡検査後に色素内視鏡検査を受けた。両シリーズにおいて扁平ポリープの発見に関して、発見された病変の一部は過形成性であったものの、色素内視鏡検査を支持する有意差が示された。リンチ症候群の被験者を対象にしたフランスのシリーズにおいても白色光検査実施後に色素内視鏡検査が用いられ、色素内視鏡検査によって有意に多くの腺腫が発見された。 [457]

リンチ症候群と比較して軽症型FAPでは色素内視鏡検査はほとんど評価されていない。1件の研究では、AFAPであると推定され白色光検査では腺腫が20未満であった4人の患者が調査された。 [458] 色素内視鏡検査では全員が1,000以上の小さい腺腫を有していたことが明らかにされ、結腸切除後の病理学評価の結果と一致していた。

FAPにおける十二指腸を評価するために色素内視鏡検査に対する同様の役割が提唱されている。十二指腸腺腫を検出するためにインジゴカルミン色素スプレーを使用したオランダの1件の研究により、いくつかの大きな腺腫を含めて、腺腫の数および大きさが増えたことが示された。全体的なSpigelmanスコアに有意な影響はみられなかった。 [459]

小腸の画像検査法

PJSおよび若年性ポリポーシス症候群の患者は疾患に関係して小腸に合併症(例、出血、閉塞、腸重積症、またはがん)を来すリスクが比較的高い。FAP患者では十二指腸新生物のリスクが高いが、空回腸に病変が発生するリスクは比較的低い。リンチ症候群では小腸の悪性疾患のRRはかなり高いが、絶対リスクは10%未満である。小腸新生物のリスクは各疾患でサーベイランスの検討が必要になるほど十分に高いが、小腸のサーベイランスは技術的に困難であるため気力をくじく作業となっている。技術的に困難であることおよび比較的有病率が低いため、リンチ症候群では小腸スクリーニングの証拠基盤は実質的に示されていない。

歴史的には、中-小腸および遠位小腸は内視鏡でのアクセスが相対的に困難であるため、その評価にはバリウム小腸シリーズや、より正確な画像を得るため造影剤の全量が小腸に届くように経鼻胃十二指腸チューブを挿管する小腸経管造影法などの放射線学的測定法が必要であった。これらの測定法はいずれも小さな病変に対する感度は低かった。何らかの治療的介入には、開腹術が必要であった。機器がアクセスできるように腸切開を併用するまたは併用しない術中内視鏡検査は多年にわたり利用可能となっているが、ほとんどの症例では開腹術は切除を伴った。経口的小腸鏡検査(バルーンを2つ、1つ、または螺旋状リブを備えた硬化オーバーチューブで補助)は過剰なループを作るという技術的問題を克服するために利用されており、治療(ポリープ切除)を行える深部空腸へのアクセスが可能となっている。

ほとんどのデータはPJSに関するもので、ダブルバルーン小腸鏡検査が小腸の内視鏡検査について望ましい方法であるとしている。 [460] データには経口的小腸鏡検査しか含まれていない可能性があるが、小腸全体をより完全に評価するためにその後の逆行性の小腸鏡検査も報告されている。こうした手技には時間がかかり、合併症のリスクがあるため、深部小腸鏡検査の前には通常、従来のバリウム検査、カプセル内視鏡検査、CTまたは磁気共鳴腸運動記録法などのより非侵襲性の画像検査が実施される。 [81]

FAPにおけるカプセル内視鏡検査のデータ [81] により、Spigelman病期がIII期またはIV期の十二指腸病変を有する患者における空腸および/または回腸ポリープの有病率は50~100%であることが示されているが、Spigelman病期がI期またはII期の疾患ではこのようなポリープは実質的に認められていない。ポリープはいずれも10mm未満で、生検も切除も行われなかった。したがって、これらのポリープの臨床的意義は不明のままであるが、FAPにおける空回腸のがんはまれであるため、おそらく限定的であろう。

PJS患者の小規模シリーズに関する上述のカプセル内視鏡検査 [81] では、同様の頻度(50~100%)でポリープが存在することが示されたが、認められるポリープはFAPのポリープよりもはるかに大きく、症候性となる可能性が高く、内視鏡的または外科的切除が必要であった。カプセル内視鏡検査は、カプセルの感度が高いため放射線検査の適切な代替として提唱された。

家族性大腸がん

大腸がんに罹患している第一度近親者が1人いる個人は全体の7~10%と推定されているが [461] [462] 、第一度または第二度近親者のどちらかが大腸がんに罹患している個人ではその約2倍となる。 [462] [463] 大腸がんの単純な家族歴(既知の遺伝性結腸がんは存在せず大腸がんに罹患している近親者が1人以上存在する場合と定義する)のある場合は、リスクは2~6倍になる。家族歴に関連するリスクは、家族における大腸がんの発症年齢、罹患している近親者の数、遺伝的関係の密接性(例えば、第一度近親者)、世代にわたり発生しているがんであるかどうかによって大きく異なる。 [461] [464] 大腸がんの家族歴があることによって、若年期の大腸がんのリスクは高くなり、45歳の年発生率は平均リスク集団の3倍以上であるが、70歳でのリスクは平均リスクの人とほぼ同じである。 [461] 35~40歳の発生率は、平均リスクを有する人の50歳の発生率とほぼ同じである。罹患している第一度近親者が1人いる集団では大腸がんが近位に発現する可能性が高い、またはより急速に進行するということを示す証拠はない。

腺腫性ポリープの病歴を有する個人では、その後にポリープを発症するリスクが15~20%となり [465] 、近親者における大腸がんのリスクが高くなっている。 [466] 生年および性別で調整した大腸がんのRRは、配偶者の対照と比較した場合、腺腫患者の両親および同胞では1.78であった(95%CI、1.18-2.67)。60歳未満で腺腫と診断された患者の同胞に対するRRは、診断時年齢が60歳以上の患者の同胞と比較した場合、親の大腸がん歴に加えて同胞の誕生年および性別で調整した後では、2.59(95%CI、1.46-4.58)であった。

家族内集積が先進国における全大腸がん症例の約20%を占める一方で [467] 、まれで浸透度の高いメンデル型大腸がん疾患は家族性症例のわずかな割合にしか寄与しておらず、他の遺伝子および/または共有された環境因子が残りのがんの一因となっている可能性があることを示唆している。2件の研究で、遺伝的要因が家族性大腸がんに寄与する程度の測定が試みられた。

最初の研究では、11種のがんに関与する遺伝因子および環境因子の寄与を検討するため、スウェーデン、デンマーク、フィンランドの双胎登録が利用され、累積的に44,788組の同性双胎(男性:一卵性[MZ]7,231組、二卵性[DZ]13,769組;女性:MZ8,437組、DZ15,351組)が提供された。 [468] この研究に含められた双胎は全員、それぞれの出身国に成人期(50歳以上)まで居住した。がんの同定はそれぞれの国のがん登録を通して行われ、9,512組の双胎対の10,803人に同定された。この研究の前提は、MZ双胎間では遺伝子の100%が共有され、DZ双胎間では各双胎対で平均すると50%の遺伝子が共有されるという事実に基づいていた。この研究による算定で大腸がんリスクに占める割合は、遺伝性の要因が35%、共有された環境因子が5%、共有されていない環境因子が60%であった。大腸がんに関して、推定される遺伝率は年齢の高い群より低い群においてわずかに大きいだけであった。この研究により明らかになったことは、共有されていない環境因子が家族性大腸がんリスクの大半を占めているものの、遺伝が予想より大きな役割を演じていることである。

第2の研究では、1991年から2000年にかけて子供と両親それぞれで6,773人および31,100人の大腸がんが含められたSwedish Family-Cancer Databaseが用いられた。 [469] データベースには253,467組の配偶者が含まれていたが、配偶者は少なくとも30年間は結婚して同居し、がんリスクへの共通した環境的影響に対する対照として用いられた。1人の親が罹患した子供における結腸、直腸、および大腸のがんに対する全標準化発生比(SIR)は、それぞれ1.81(95%CI、1.62-2.02)、1.74(95%CI、1.53-1.96)、および1.78(95%CI、1.53-1.96)であった。罹患した同胞によるリスクもまた有意に高かった。配偶者間では大腸がんの有意なリスク増加は認められなかったため、著者らは遺伝が家族性大腸がんにおいて重要な役割を演じていると結論付けた;しかしながら、同胞間で共有された環境的影響に対する対照はこの研究では存在しなかった。

大腸がんおよび/または大腸腺腫の罹患者の10~15%には、本人以外にも罹患している家族が存在する [461] [462] [464] [465] [466] [470] [471] [472] [473] [474] [475] が、これらの知見はFAPの基準を満たしておらず、その家族歴はリンチ症候群の臨床基準を満たしていることもあれば、満たしていないこともある。こうした家系は家族性大腸がんに分類されるが、家族性大腸がんは現在では(既知の遺伝性大腸がん疾患群の)除外診断である。複数の家系員に大腸がんが存在するのは、遺伝的因子、環境危険因子の共有、あるいは単なる偶然によるものである。この病因の不均一性から、家族性大腸がんの基礎理解には依然として研究課題が残っている。

複数の遺伝子研究により、家族性大腸がん家系における結腸腫瘍、腺腫、およびがんに対する一般的な常染色体優性遺伝様式が示されており [476] 、腺腫および大腸腺がんに対する遺伝子頻度は0.19である。 [475] MSI陰性の家族性大腸腫瘍の家系の一部は、染色体9q22.2-31.2に連鎖していることが判明した。 [477] 最近の研究により、家族性大腸がん家系において11番、14番、および22番染色体上の3つの潜在的な遺伝子座が関連付けられている。 [478]

家族性大腸がんX型(FCCX)

リンチ症候群に対するアムステルダム基準Iを満たすもののMSI検査でMMRの欠陥の証拠が示されない家系では、古典的リンチ症候群とMMRの欠陥の明確な証拠を示す家系と比べて、大腸がんリスクやその他のがんリスクが異なってくるようである。MMR系が無傷であるこうしたアムステルダムI基準による家系はFCCXと記載されており [237] [479] [480] [481] [482] [483] 、こうした家系は別個のグループとして分類すべきであることが示唆されている。

FCCXの遺伝的病因は依然として不明である。全ゲノム連鎖解析およびエキソーム配列解析を利用して、FCCX家系に属する大腸がん患者4人にリボソーム蛋白遺伝子であるリボソーム蛋白S20RPS20)内の切断型多様体が同定された。 [483] この多様体は家系内で大腸がんと同時分離し、対数尤度比は3であった。さらに、対照292人ではこの多様体は同定されなかった。腫瘍サンプルにLOHは認められず、成熟RNA形成のin vitro解析で、RPS20に関するハプロ不全のモデルが確認された。研究対象となった別の25のFCCX家系でRPS20に生殖細胞多様体が認められなかったことから、RPS20多様体はFCCXの低頻度の原因であることが示唆される。同じ集団では以前、18のFCCX家系のうち2家系に属する罹患した個人において、骨形成蛋白受容体1ABMPR1A)遺伝子の多様体が同定されていた。 [484] FCCXにおけるRPS20またはBMPR1Aの役割を決定的に確認または否定するには、さらなる研究が必要である。

リンチ症候群における大腸がん発症年齢は44歳(登録シリーズ)から平均52歳(集団ベースのシリーズ)に及ぶ。 [241] [242] [243] FCCXは定義上、少なくとも1人の早期発症例が必要であり、予測可能な未来に集団ベースの数値が利用できる可能性は低いため、FCCXにはリンチ症候群のデータに対応する集団ベースのデータが存在しない。FCCXとリンチ症候群の発症年齢を直接比較した諸研究により、FCCXの方が発症年齢はわずかに高い [237] [479] [481] が、がんの生涯リスクは実質的に低いことが示唆されている。1件の大規模研究では、MMR系が無傷の家系(FCCX家系)における大腸がんに対するSIRは2.3(95%CI、1.7-3.0)であったのに対し、MMRに欠陥がある家系(リンチ症候群家系)では6.1(95%CI、5.7-7.2)であった。 [237] 結腸外腫瘍のリスクもまたFCCX家系では高くないことが明らかにされており、大腸がんに対するサーベイランスの強化で十分であることが示唆された。さらなる研究が必要であるものの、FCCX家系に生じる腫瘍はまた病理的表現型が異なるようであり、腫瘍浸潤リンパ球がリンチ症候群家系のそれよりも少ない。 [480]

大腸がんの家族歴に関する介入

軽度または中等度の大腸がんの家族歴がある個人におけるスクリーニングについて、対照をおいた比較はなされていない。大半の専門家は、(もし彼らが)平均リスク集団では50歳からスクリーニングを開始すべきとするならば、リスクの大きさが一般集団の50歳のものと匹敵する若年期(例えば、35~40歳)にスクリーニングを開始すべきであると提案している。リスクは家族歴の程度に比例して高くなるため、より詳細な家族歴が得られた場合、さらに早期のスクリーニングを推奨するような臨床判断を下す場合がある。スクリーニングの実施の間隔を、10年ごとではなく5年ごとの頻度に短縮することを提案する専門家もいる。 [142]

当該家系の大腸がん症例のうち最も若い発症年齢から10年先行して大腸がんスクリーニングを開始するということは一般的に行われていることの1つではあるが、その有益性は証明されていない。軽度の大腸がんの家族歴があるからといって積極的なスクリーニング法を用いていくことには、直接的証拠も合理的論証も存在しない。

これらの問題は、大腸がんの家族歴がある人に関するものを含む大腸がんスクリーニングの臨床ガイドラインの公表に先立って、American Gastroenterological Associationにより召集された専門家委員会によって検討された。 [485] このようなガイドラインはこのほか、多数の組織によって支持されている。

米国がん協会およびUnited States Multi-Society Task Force on Colorectal Cancerは、平均リスクを有する個人向けのガイドラインを公表している。 [142] [486] [487] [488] [489] これらのガイドラインは大腸がんまたは腺腫の中等度の家族歴に関連するスクリーニングの問題に対応している。このようなグループ分けの不均一性を考慮すると、その問題は主要遺伝子の状態に関して目標をさらに絞ったこの議論の範囲を超えている。

まれな結腸がん症候群

PTEN過誤腫腫瘍症候群(コーデン症候群を含む)

コーデン症候群およびBannayan-Riley-Ruvalcaba症候群(BRRS)は、集合的にはPTEN過誤腫腫瘍症候群として知られる一連の疾患群の1つである。コーデン症候群と診断された患者の約85%とBRRS患者の約60%には、同定可能なPTEN病原性多様体が存在する。 [490] さらに、臨床的に大きく異なった表現型を有する患者でPTEN病原性多様体が確認されている。 [491] PTEN過誤腫腫瘍症候群という用語は、臨床症状にかかわらず、PTEN病原性多様体を有する患者であれば使用される。

PTENは、チロシン、セリンおよびスレオニンからリン酸基を除去する両特異性ホスファターゼとして機能する。PTENの病原性多様体はさまざまで、ナンセンス、ミスセンス、フレームシフト、およびスプライス部位の多様体がある。多様体の約40%はホスファターゼコアモチーフをコードするエクソン5にみられ、いくつかの反復病原性多様体が認められている。 [492] PTEN遺伝子の5'末端またはホスファターゼコア内に多様体を有する個人は、複数の器官系が罹患する傾向がある。 [493]

コーデン症候群の診断に関する実用的な基準は既に公開されており、その後の更新も行われている。 [494] [495] これらには、大基準、小基準、ならびに特定の皮膚粘膜症状および成人発症型小脳異形成性神経節細胞腫(Lhermitte-Duclos病)からなる疾病特徴的基準がある。系統的文献レビューに基づく一連の基準の更新版が提示されており、 [496] 現在はNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインで使用されている。 [93] 以前の基準とは対照的に、著者らは、どの特徴についても特徴的なものとして分類するには証拠が不十分であると結論付けた。遺伝子検査、特に多重遺伝子パネルの使用の増加に伴い、コーデン症候群の臨床基準は、確認されている生殖細胞系PTEN病原性多様体を有していながら、これらの基準に適合しない個人の表現型に合わせて調整される必要がある。その調整が行われるまでは、臨床的所見と遺伝子検査結果のどちらに基づいて、コーデン症候群およびその他のPTEN過誤腫腫瘍症候群を定義するかについて、あいまいさが残る。American College of Medical Genetics and Genomics(ACMG)は、1)成人発症型Lhermitte-Duclos病、または2)コーデン症候群の診断について確立されている大基準または小基準のいずれか3つを満たす個人歴を有する、または第一度近親者のいる個人について、遺伝相談への紹介を考慮すべきであることを示唆している。 [497] コーデン症候群の診断基準を含む詳細な推奨については、NCCNおよびACMGのガイドラインで閲覧可能である。 [497] [498] その上、PTEN病原性多様体の確率を推定するために、臨床基準を用いる予測モデルが利用可能である;費用対効果解析から、生殖細胞系PTEN検査は多様体の確率が10%より大きい場合に費用対効果が高いことが示唆されている。 [499]

International Cowden Consortium(ICC)は、米国、ヨーロッパ、アジアにおいて、緩和されたPTEN検査のICC基準に適合する成人および小児患者の連続シリーズを10年間にわたりプロスペクティブに募集した。 [500] 大多数の個人はコーデン症候群またはBRRSの診断に対する臨床基準を満たさなかった。募集に応じて検査を受けた3,399人のうち、発端者295人(8.8%)と73人の家系員が生殖細胞系PTEN病原性多様体を有していることが認められた。乳がん、甲状腺がん、子宮内膜がんに加え、著者らはがんリスクに基づいて、黒色腫、腎がん、大腸がんを生殖細胞系PTEN病原性多様体に起因するがんスペクトルの一部と捉えるべきであると結論した。2つ目の研究では、生殖細胞系PTEN病原性多様体を有する患者約100人について、これらの知見が確認され、70歳までのがんの累積リスクが85%であることが示された。 [501]

年齢調整後の大腸がんリスクは、両研究で病原性多様体キャリアにおいて増大していた(SIR、5.7~10.3)。 [500] [501] さらに、1件の研究では、PTEN病原性多様体を有し、少なくとも1回の大腸内視鏡検査を受けたことのある個人の93%にポリープが認められた。腺腫および無茎性鋸歯状ポリープも観察されたが、最もよくみられた組織像は過形成であった。PTEN病原性多様体キャリアの間で大腸がんのリスクが高いことから、これらの患者には大腸内視鏡検査によるサーベイランスが推奨されている。 [501] [502] しかし、開始時年齢(30~40歳)および以降の大腸内視鏡検査の頻度(2年ごとから3~5年ごと)はいずれも非常に多様であり、それぞれ専門家の意見に基づいている。

表13.生殖細胞系PTEN病原性多様体を有する個人のがんリスクa

がん 年齢調整SIR(95%CI) 年齢に関連した浸透度の推定値
CI = 信頼区間;SIR = 標準化発生比。
a出典:Tan et al. [500]
b別の複数の歴史的研究は、乳がんの生涯リスクを25~50%と、より低く提示している。 [496] (詳しい情報については、乳がんおよび婦人科がんの遺伝学に関するPDQ要約のPTEN過誤腫腫瘍症候群(コーデン症候群を含む)のセクションを参照のこと。)
乳房 25.4 (19.8–32.0) 30歳前後以降で85%b
大腸 10.3 (5.6-17.4) 40歳前後以降で9%
子宮内膜 42.9 (28.1–62.8) 25歳前後以降で28%
腎臓 30.6 (17.8–49.4) 40歳前後以降で34%
黒色腫 8.5 (4.1–15.6) 3歳以降で6%
甲状腺 51.1 (38.1–67.1) 出生時から生涯にわたって35%


ポイツ・ジェガース症候群(PJS)

ポイツ・ジェガース症候群は、若年発症する常染色体優性疾患であり、口唇、口周囲部、頬部のメラニン細胞性斑(melanocytic macule)のほか;過誤腫性および腺腫性の多発性消化管ポリープを特徴とする。 [503] [504] [505] 染色体19p13.3に位置するSTK11遺伝子の生殖細胞病原性多様体は、ポイツ・ジェガース症候群家系の大多数で同定されている。 [506] [507] [508] [509] [510] ポイツ・ジェガース症候群において最も一般的にみられるがんは消化管のがんである。しかしながら、他の臓器も悪性腫瘍を発症するリスクが高い。例えば、累積リスクは乳がんで32~54% [6] [511] [512] 、卵巣がんで21%と推定されている。 [511] PJS患者において、系統的レビューで、すべての部位を合わせたがんの生涯累積リスクが最大93%であることが明らかになった。 [513] 表14は、これらの腫瘍の累積リスクを示している。ポイツ・ジェガース症候群ではがんの累積リスクが高いため、さまざまなスクリーニングが推奨されており、大腸がんの遺伝学に関するPDQ要約のポイツ・ジェガース症候群(PJS)におけるがん診断とサーベイランスのために公表されている推奨事項の表に要約されている。

PJSの女性は、非常に侵攻性が高いまれな子宮頸部の腺がんである頸部悪性腺腫の素因も有している。 [514] 加えて、PJSの女性では良性の卵巣性索腫瘍と輪状細管が発生することがよくあり、一方でPJSの男性はセルトリ細胞腫瘍の素因を有している; [515] これら2種類の腫瘍はいずれも悪性ではないが、エストロゲン産生の増加に関連する症状を引き起こす場合がある。

発表されている文献によると、ポイツ・ジェガース症候群の個人では悪性腫瘍のリスクがきわめて高いようであるが、選択バイアスおよび紹介バイアスの結果としてこれらのリスクが過剰評価されている可能性を考慮すべきである。

表14.ポイツ・ジェガース症候群における特定年齢までの累積がんリスクa

部位 年齢(歳) 累積リスク(%) 参考文献
GI = 消化管。
aMacmillan Publishers Ltdから許諾を得て転載:Gastroenterology , copyright 2010.
b子宮頸がんおよび精巣腫瘍を除いた他のすべてのがんで、累積リスクは一般集団よりも高かった(P < 0.05)。
c消化管がんには、大腸がん、小腸がん、胃がん、食道がん、膵がんが含まれる。
dWesterman et al.:消化管がんに膵がんは含まれない。
e子宮頸部の悪性腺腫または精巣のセルトリ細胞腫は含まれなかった。
すべてのがん 60–70 37–93
消化管がんc、d 60–70 38–66
婦人科がん 60–70 13–18

原発部位ごと

     
65 29
小腸 65 13
大腸 65 39
膵臓 65–70 11–36
65–70 7–17
乳房 60–70 32–54
子宮 65 9
卵巣 65 21
子宮頸部e 65 10
精巣e 65 9


ポイツ・ジェガース遺伝子

ポイツ・ジェガース症候群は、染色体19p13上に位置するSTK11LKB1とも呼ばれる)腫瘍抑制遺伝子の病原性多様体によって引き起こされる。 [507] [508] 家族性大腸腺腫症にみられる腺腫とは異なり、ポイツ・ジェガース症候群で生じるポリープは過誤腫である。PJS患者の過誤腫性ポリープとがんに関する諸研究から、2ヒット仮説に一致するアレルの不均衡(ヘテロ接合性の消失[LOH])が示されており、よってSTK11が腫瘍抑制遺伝子であることは実証されている。 [518] [519] しかしながら、ヘテロ接合性のSTK11ノックアウトマウスでは残存する野生型アレルの不活化がなくても過誤腫が発生してくることから、PJSにおいてはハプロ不全だけで初発腫瘍の発生に十分であることが示唆されている。 [520] STK11+/-マウスに起こるがんはその後LOHを示す [521] ;実際、STK11+/-における病原性多様体がヘテロ接合性で、TP53-/-における病原性多様体はホモ接合性の複合型ミュータントマウスでは過誤腫とがんのいずれについても発症が早まっている。 [522]

STK11遺伝子の生殖細胞多様体は、ナンセンス、フレームシフト、ミスセンスなどの一連の多様体のほか、スプライス部位多様体および広範な欠失を示す。 [6] [506] 多様体の約85%は発現した蛋白のキナーゼドメインの領域に限局し、エクソン9における生殖細胞多様体は報告されていない。遺伝子型-表現型の強い相関も同定されていない。 [6]

STK11がPJSを引き起こすことが明白に実証されている。DNAの直接塩基配列決定法を用いた初期の推定では、STK11における病原性多様体の検出率が50%であることが示されたが、広範な欠失を検出する技術を加えた研究では、ポイツ・ジェガース症候群の臨床基準を満たす患者のうち、94%までに病原性多様体が認められている。 [506] [513] [523] これらの研究結果を考えると、他の主要な遺伝子がPJSを引き起こす可能性は低い。

若年性ポリポーシス症候群(JPS)

若年性ポリポーシス症候群は、小児期から若年成人期に発症する遺伝的に不均質でまれな常染色体優性疾患で、消化管のいたるところでの過誤腫性ポリポーシスの発生を特徴とするものの、大腸ポリープが優位を占める。 [524] JPSは下痢、消化管出血、蛋白漏出性胃腸症、逸脱したポリープを来すことがある。 [524] [525] [526] JPSの定義は、若年性ポリープと呼ばれる特定の種類の過誤腫性ポリープが存在することであり、JPSの家族歴が認められることも多い。若年性ポリープの診断は、発症時年齢というよりもむしろポリープの組織学的外観に基づく。結腸または直腸の孤立性の若年性ポリープは乳児や幼児では散発性にみられ、若年性ポリポーシス症候群の診断を意味しない。若年性ポリポーシス症候群の臨床診断は、以下の基準を1つ以上満たす個人に下される: [527]

  1. 結腸または直腸に6つ以上の若年性ポリープが認められる。
  2. 他の消化管部位に若年性ポリープが認められる。
  3. 若年性ポリープ(数は問わない)が認められ、若年性ポリポーシス症候群の家族歴を有する。

若年性ポリポーシス症候群は、症例の約15~60%で染色体18q21上のSMAD4遺伝子(MADH4/DPC4としても知られる)における生殖細胞病原性多様体 [528] が原因となっており [524] 、また症例の約25~40%では、染色体バンド10q22上でbone morphogenic protein receptor 1ABMPR1A)をコードしている遺伝子の病原性多様体が原因である。 [529] [530] 遺伝子型/表現型の相関から、SMAD4多様体は重度の胃ポリープ症のリスク増加 [531] および遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)の特徴と関連している可能性があることが示唆されている(下記を参照のこと)。 [524] 若年性ポリポーシス症候群における大腸がんの生涯リスクは39%と報告されている。 [532] 大腸がんのリスクよりはるかに低いものの、胃がんのリスクも高いようである。 [524] ポリポーシス登録に基づいて単一施設で追跡された若年性ポリポーシス症候群患者の12%に心臓弁の異常が認められ [524] 、同定可能な病原性多様体を有していた全員にSMAD4多様体が認められた。

若年性ポリポーシス症候群患者はまた、動静脈奇形、粘膜皮膚毛細血管拡張症、ばち状指、骨関節症、肝動静脈奇形、小脳海綿状血管腫などのHHTの徴候と症状を呈することもあり、これらは2つの症候群が重複して発生していることを示唆している。 [533] ほとんどのHHT患者では、アクチビン受容体様キナーゼ1ALK1)遺伝子内またはエンドグリンENG)遺伝子内に病原性多様体が認められるが、SMAD4病原性多様体もきわめてまれながら報告されている(HHT患者の約1~2%)。 [534] あるシリーズで、若年性ポリポーシス症候群の臨床診断を受けていないHHT患者30人中3人(10%)に、SMAD4における生殖細胞多様体が認められた。 [535] 逆に、臨床的にJPSと診断された患者を対象とした2件の研究では、SMAD4病原性多様体キャリアの21~22%にHHTの特徴が認められた。 [524] [536] 9つの若年性ポリポーシス症候群家系に属するSMAD4病原性多様体キャリア21人を対象にした1件の研究では、患者の81%(21人中17人)がHHTを呈した。 [537] この研究での高い有病率は、単一の家系に属する近親者が複数含まれていたこと、ならびに同じ病原性多様体を有する複数の家系が含まれていたことが原因の可能性がある。 [537]

生殖細胞系SMAD4病原性多様体を有する若年性ポリポーシス症候群患者では、HHTに対するサーベイランスの実施が提唱されている。 [524] [537] 一方で、ALK1またはENGの生殖細胞多様体が認められないHHT患者については、SMAD4の生殖細胞系の遺伝子検査を検討してもよい;SMAD4の生殖細胞病原性多様体が確認された場合は、消化管を評価すべきである。 [538] (詳しい情報については、表16、若年性ポリポーシス症候群におけるがん診断とサーベイランスのために公表されている推奨事項を参照のこと。)

生後数年間のうちにポリープが形成される重度の若年性ポリポーシス症候群は、乳児期の若年性ポリポーシス症候群と呼ばれる。乳児期の若年性ポリポーシス症候群は、多くの場合、BMPR1APTENを含む染色体領域10q22-23の微小欠失が原因で発生する。(PTENの詳しい情報については、本要約のPTEN過誤腫腫瘍症候群(コーデン症候群を含む)のセクションを参照のこと。)その表現型として巨頭症や発達遅滞などの特徴がみられることが多く、これらはPTENの機能が消失した結果と考えられる。 [539] 関連する発達遅滞に加え、反復性の消化管出血、下痢、滲出性腸疾患はこれらの乳児の罹病率と死亡率が非常に高くなることに関連しているため、こうした症例の遺伝率は限定的である。 [539]

若年性ポリポーシス遺伝子

若年性ポリポーシス症候群は、症例の約15~60%では、SMAD4遺伝子における生殖細胞病原性多様体が原因となっており、また症例の約25~40%では、BMPR1Aの病原性多様体が原因である。 [524] [529] [530] 多様体の頻度に大きなばらつきがあるのは、個別の研究で報告されている患者数が比較的少数であることを反映していると考えられる。若年性ポリポーシス症候群の臨床基準を満たす患者のあるサブセットでは、SMAD4またはBMPR1Aのいずれの病原性多様体も同定されない。

SMAD4は、トランスフォーミング増殖因子(TGF)-βシグナル伝達経路のメディエータである蛋白をコードし、この蛋白は細胞表面から核への増殖抑制シグナルを媒介する。SMAD4遺伝子における生殖細胞病原性多様体は、若年性ポリープおよびがんを形成しやすい素因となり [528] 、生殖細胞多様体は11のエクソン中6つで発見されている。多様体の大部分は固有であるが、いくつかの反復病原性多様体が複数の別個の家系で同定されている。 [536] [540]

BMPR1A遺伝子は、TGF-βスーパーファミリーのセリンスレオニンキナーゼI型受容体であり、活性化するとSMAD4のリン酸化を招く。BMPR1A遺伝子は、SMAD4における同定可能な病原性多様体を有さなかった若年性ポリポーシス症候群の家系における連鎖解析によって最初に同定された。BMPR1Aの多様体には、ナンセンス、フレームシフト、ミスセンス、およびスプライス部位の多様体がある。 [529] 若年性ポリポーシス症候群患者においてBMPR1ASMAD4の両方で、大規模なゲノムの欠失がMLPAにより検出されたことが報告されている。 [536] [540] まれな若年性ポリポーシス症候群家系ではENGおよびPTEN遺伝子における多様体が示されているが、これらは他の研究では確認されていない。 [541] [542]

乳児期の若年性ポリポーシス症候群は、多くの場合、BMPR1APTENを含む染色体領域10q22-23の微小欠失が原因で発生する。 [539]

CHEK2

最初は数件の研究により、遺伝性乳がんおよび結腸がんの家系のサブセットが、CHEK2遺伝子の病原性多様体によって引き起こされたがん家族症候群を有する可能性があることが示唆された。 [543] [544] [545] しかしながら、その後の研究で、CHEK2多様体は大腸がんリスクの増加とはわずかしか関連していないこと(すなわち、低浸透度)が示唆されている。CHEK2における切断型多様体には大腸がんと有意な関連性が認められないことを示した大規模研究が1件ある;しかしながら、特異的ミスセンス病原性多様体(I157T)は大腸がんのリスクがわずかに高いことと関連していた(OR、1.5;95%CI、1.2-3.0)。 [546]

ポーランドで実施された別の研究において同様の結果が得られた。 [547] この研究では、リンチ症候群家系およびリンチ症候群関連家系の発端者463人および対照5,496人が、I157Tなど4つのCHEK2病原性多様体について遺伝型を調べられた。ミスセンスI157Tのアレルは、MMRの多様体陰性例においてのみリンチ症候群関連がんと関連していた(OR、2.1;95%CI、1.4-3.1)。切断型多様体との関連は示されなかった。この知見を確認し、これらがFCCXと関係しているかどうかを明らかにするには、さらなる研究が必要である。これまでに利用可能なデータによれば、CHEK2多様体に対する臨床検査は臨床の現場では、ルーチンには推奨されない。CHEK2多様体を有する人を対象とした大腸がんスクリーニングに関して確立されたガイドラインはない。

(詳しい情報については、乳がんおよび婦人科がんの遺伝学に関するPDQ要約の CHEK2 のセクションを参照のこと。)

遺伝性混合ポリポーシス症候群(HMPS)

遺伝性混合ポリポーシス症候群は、鋸歯状腺腫や異型若年性ポリープ、腺腫などのさまざまな種類の結腸ポリープと、結腸腺がんの発生を特徴とする、まれな家族性がん症候群である。遺伝性混合ポリポーシス症候群遺伝子座は当初は6q16-q21にマッピングされたが、現在では15q13-q14に位置すると考えられている。 [548] [549] 若年性ポリポーシス症候群および遺伝性混合ポリポーシス症候群の間には表現型の重複がかなり認められるが、1つの大規模家系で第15染色体の遺伝子座に連鎖が示されていることから、これらは異なる疾患である可能性が高いと考えられる。遺伝性混合ポリポーシス症候群のアシュケナージユダヤ人家系に連鎖解析を行ったところ、染色体15q13.3上でのハプロタイプの共有が明らかにされた。 [550] 遺伝性混合ポリポーシス症候群の個人および家系員とは完全に分離し、非罹患対照とは分離しなかったgremlin 1GREM1)の上流に、まれなヘテロ接合性で40kbの単一コピーの重複が発見された。 [550] 遺伝性混合ポリポーシス症候群の個人にこの重複が存在すると、正常な腸上皮でGREM1転写産物レベルの発現が増加した。 [550] GREM1は骨形成蛋白(BMP)アンタゴニストであり、したがって理論上、腸内における幹細胞表現型の発現を促進する。若年性ポリポーシス症候群の根底にはBMPシグナル伝達の欠陥に至る生殖細胞多様体も存在するため、遺伝性混合ポリポーシス症候群および若年性ポリポーシス症候群間の潜在的な関連が示されている。

鋸歯状ポリポーシス症候群(SPS)/過形成性ポリポーシス症候群(HPPS)

孤立性の多数の過形成性ポリープ(HP)(典型的に、白色、扁平、小さい)は、一般集団においてよくみられ、それらの存在は遺伝的基礎疾患を示唆しない。歴史的に、SPSの臨床診断はWHOにより定義されており、以下の基準の1つを満たす必要がある:


  • S状結腸よりも近位に発生する組織学的に診断されたHPが少なくとも5つあること(そのうち、少なくとも2つが直径10mmを超えること)。

  • 過形成性ポリポーシスの第一度近親者が少なくとも1人いる個人において、S状結腸よりも近位に1つのHPが発生していること。

  • 結腸全体にわたって、30を超えるHPが分布していること。 [551]

[注: この他の集団には、SPSについて改定された臨床基準の一部として鋸歯状腺腫が含まれている。 ]

SPS症例の大多数ではHPの家族歴が認められないものの、SPS症例の約半数が大腸がんの家族歴を有する。 [553] [554] 数件の研究で、正式に定義されたSPSの基準を満たした患者における大腸腺がんの有病率は50%以上であることが示されている。 [555] [556] [557] [558] [559] [560] [561] [562] SPSについてのWHO基準に少し変更を加えた定義(SPSは、S状結腸よりも近位に発生する組織学的に診断されたHPおよび/または無茎性鋸歯状ポリープ[SSA]が少なくとも5つあり、そのうち2つが直径10mmを超えること、または結腸全体にわたって20を超えるHPおよび/またはSSAが分布していることと定義された)を用いた1件の研究で、57家系の347人の第一度近親者(41%が男性)における大腸がんの相対リスクは5.4(95%CI、3.7-7.8)であったことが明らかにされた。 [552]

WHO基準は専門家の意見に基づいている;この障害と再現性のある関連が示されている既知の感受性遺伝子またはゲノム領域は存在しないため、遺伝子診断は不可能である。2件の研究で、SPSの個人において原因と考えられる生殖細胞多様体が報告されている。 [553] [563]

HPが20個を超える、1つのHPが大きい(1cm超)、または近位結腸にHPを有する患者38人の研究で、塩基除去修復遺伝子のMBD4およびMYHにおける分子的変化が調査された。 [553] 1人の患者が両アレル性のMYH病原性多様体を有することが明らかにされ、MYH関連ポリポーシスと診断された。病原性多様体は、検査された27人の患者のMBD4では検出されなかった。しかしながら、6人の患者で意義不明のSNPが認められた。SPSの既知の家族歴を有した患者は2人だけであり、大腸がんが発生したのは38人中10人であった。このシリーズにはおそらく、SPSの他の患者とともに、散発性HPを有する患者が混在していたようである。

6つ以上のHPを有するか、または4つ以上のHPを有し、そのうち2つが直径1cmを超えることとして定義されたSPS患者40人のコホートにおいて、1人の患者がEPHB2遺伝子(D861N)における生殖細胞多様体を有することが明らかにされた。 [563] この女性患者には58歳のときに結腸に鋸歯状腺腫および100を超えるHPが認められ、そしてこの患者の母親は36歳で結腸がんにより死亡していた。EPHB2生殖細胞多様体は、大腸がんの個人歴を有する他の100人の患者または集団を一致させた200人の健常な対照患者では認められなかった。

SPS患者に起こる結腸腫瘍でみられる体細胞性の分子遺伝学的変化についてはさらに多くのことが明らかになっている。結腸内のHPが20個を超える患者、直径1cmより大きいHPが4個を超える患者、または結腸内のHPが多発性(5~10個)の患者を対象とした研究で、ポリープ組織中に特異的な体細胞性BRAF多様体(V600E)が発見された。 [564] これらの患者から採取したHPの50%(40個中20個)で、V600EのBRAF病原性多様体が明らかになった。これらの患者のHPはまた、左側に偏った散発性HPよりも有意に高いCpG islandのメチル化表現型(CIMP-high)、および少ないKRAS多様体も示した。このグループの以前の研究では、SPS患者の21%(76人中16人)ではHPが染色体1pの欠損を示したのに対し、HPが大きい(1cmを超える)か、HPがわずか5~10個の患者のHPでは0%であった。 [556]

SPS患者のHPで見つかる遺伝学的および組織学的変化の多くは、最近定義された大腸腺がんのCIMP経路でよくみられる。(詳しい情報については、本要約のCIMPおよび鋸歯状ポリポーシス経路のセクションを参照のこと。)

まれな結腸がん症候群に対する介入

PJSおよびJPSの個人は、大腸がんのほか、結腸以外のがんのリスクも高い。これらの症候群はまれであるため、証拠に基づいたサーベイランスの推奨は存在しない。これらの症候群では大腸がんおよび他のがんのリスクが著しく高いため、レトロスペクティブシリーズおよびケースシリーズに基づいて(すなわち、もっぱら専門家の意見のみに基づいて)、多くのガイドラインが発表されている。 [143] [565] [566] [567] [568] 発表されたガイドラインに基づいてスクリーニングの推奨を行う際には、臨床判断を用いる必要がある。

表15.ポイツ・ジェガース症候群(PJS)におけるがん診断とサーベイランスのために公表されている推奨事項

団体 推奨される 結腸スクリーニング開始年齢 頻度 方法 結腸外スクリーニング推奨 解説
ACPGBI = Association of Coloproctology of Great Britain and Ireland;BE = バリウム注腸;C = 大腸内視鏡検査;FS = S状結腸内視鏡検査;NCCN = National Comprehensive Cancer Network。
a STK11検査には、塩基配列決定法で多様体が発見されなかった場合に、塩基配列決定法の後に欠失がないかの解析(例、多重ライゲーション依存性プローブ増幅)が含まれる。
b肺がんリスクは増加しているが、禁煙および症状の認識強化に勝る推奨はない。
(ポイツ・ジェガース症候群と乳がんおよび卵巣がんリスクに関する詳しい情報については、乳がんおよび婦人科がんの遺伝学に関するPDQ要約の乳がんおよび婦人科がんに関連する他の高浸透度の症候群のセクションを参照のこと。)
Johns Hopkins(2006) [567] 推奨、8歳時 18年 2~3年ごと C 乳がん、婦人科がん(子宮頸がん、卵巣がん、子宮がん)、膵がん、小腸がん、胃がん、精巣腫瘍  
Johns Hopkins(2007) [568] 推奨、年齢の規定なし 10代後半または症状発現時 3年 C 乳がん、婦人科がん(子宮頸がん、卵巣がん、子宮がん)、膵がん、小腸がん、胃がん、精巣腫瘍 10代後半または症状発現時の遺伝子検査。
ACPGBI(2007)   18年 3年 CまたはFS + BE 結腸外スクリーニングについての言及はない 遺伝子検査についての推奨はない;STK11/LKB1検査の検討が必要。
Cleveland Clinic(2007) [569]   18年 3年 C 乳がん、婦人科がん(子宮頸がん、卵巣がん)、膵がん、小腸がん、胃がん  
Erasmus University Medical Center(2010) [513]   25~30歳   C 乳がん、婦人科がん(子宮頸がん、卵巣がん、子宮がん)、膵がん、小腸がん、胃がん  
NCCN(2016) [93] 特別な推奨はない 10代後半 2~3年ごと C 乳がん、婦人科がん(子宮頸がん、卵巣がん、子宮がん)、肺がんb、膵がん、小腸がん、胃がん、精巣腫瘍 専門チームへの紹介。


証拠レベル:5

表16.若年性ポリポーシス症候群(JPS)におけるがん診断とサーベイランスのために公表されている推奨事項

組織/著者 推奨される スクリーニング開始年齢 頻度 方法 解説
ACPGBI = Association of Coloproctology of Great Britain and Ireland;BE = バリウム注腸;C = 大腸内視鏡検査;CRC = 大腸がん;EGD = 食道胃十二指腸鏡検査;FS = S状結腸内視鏡検査;GI:消化管;HHT = 遺伝性出血性毛細血管拡張症;NCCN = National Comprehensive Cancer Network。
a SMAD4/BMPR1A検査には、塩基配列決定法で多様体が発見されなかった場合に、塩基配列決定法の後に欠失がないかの解析(例、多重ライゲーション依存性プローブ増幅)が含まれる。 [540]
b患者に症状が認められる場合はより若年で開始する。
ACPGBI(2007)   15~18歳b 1~2年ごと CまたはFS + BE 70歳まで遺伝子キャリアおよび罹患者のサーベイランスを実施、および予防的手術の検討。
Cleveland Clinic(2007) [569]   15年 3年 C、EGD SMAD4病原性多様体を有する一部の家系ではHHTもみられる;このような人ではHHTについてもスクリーニングが必要な場合がある。
Johns Hopkins(2007) [568] 推奨、大腸内視鏡検査より遺伝子検査が好ましい 15歳または症状発現時 ポリープが消失するまで毎年、その後は2~3年ごと C 50~100を超えるポリープ、内視鏡的管理が不可能、重度の消化管出血、腺腫性変化を伴うJPS、大腸がんの強い家族歴が認められる場合は予防的手術。
St. Mark's(2012) [524] 推奨、4歳で遺伝子検査を実施 12年 重症度に基づいて1~3年ごと C、EGD HHTの精密検査を検討。
NCCN(2016) [93] 実施する ~15歳 2~3年ごと、またはポリープが発見された場合は1年ごと C 専門チームへの紹介。


証拠レベル:5


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遺伝性結腸がん症候群における心理社会的問題

がんの遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査における心理社会的研究は、疾病危険度、心理学的転帰、対人および家族内の影響、文化的反応および地域社会的反応のレベルがさまざまである集団内の検査に対する関心に主眼を置いている。そうした研究はまたサーベイランスやその他の健康行動を促進または妨げる行動因子の同定も目的としている。心理社会的研究から得たデータの結果は、患者と交流する臨床家の指針となるものであり、以下のものがある:


  • リスクを低下させる介入、リスク評価、および遺伝子検査に関する意思決定。

  • 遺伝子検査のリスクの通知に関連する苦痛および/またはその他の後に生じる好ましくない結果を減らすための、心理社会的介入の評価。

  • 倫理的懸念事項の解決。

本要約のこのセクションでは、リンチ症候群(LS)家族性大腸腺腫症(FAP)、およびポイツ・ジェガース症候群(PJS)の遺伝カウンセリングと遺伝子検査の心理社会的側面を中心に言及しており、これらの症候群に対する医学的スクリーニング、リスク低減手術、および化学予防を取り巻く問題も含めている。

リンチ症候群(LS)

遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査への参加

リンチ症候群の遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査の受診を調査する研究が増加している(表17を参照のこと)。調査には、主として臨床状況および家族の結腸がん登録から収集した大腸がん(CRC)患者および罹患していない高リスクの家族が含まれている。ほとんどの調査では、遺伝子検査を無料にし、研究プロトコルの一部とするなどして検査の参加者を積極的に集めた。 [1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] 参加または理解はその過程のさまざまな点で定義されたもので、以下の通りである:遺伝子検査前の遺伝カウンセリング;検査用の血液サンプルの提供;検査結果の開示のための遺伝カウンセリング。

表17.リンチ症候群(LS)に対する遺伝カウンセリングと遺伝子検査への参加を評価したプロスペクティブ研究の概要a, b, c

調査集団 参加人数 GCおよびGTへの参加
FDR = 第一度近親者;GC = 遺伝カウンセリング;GT = 遺伝子検査;HCCR = 遺伝性結腸がん登録。
a調査は、2つの募集方法を評価するランダム化試験1件を除き、すべてプロスペクティブな観察的デザインを用いた。 [6]
b調査は、1件の研究を除き、すべてGCおよびGTを無料で提供した。 [9]
c調査は、フィンランドの研究およびドイツの研究各1件を除き、すべて米国で実施された。 [5] [8]
d特別の規定がない限り、18歳を過ぎた参加者の数を示す。
eGC = 検査前または検査後の遺伝カウンセリングに参加;GT = 遺伝子検査に参加し結果を受領;GT(血液) = 遺伝子検査用の血液サンプルの提供のみ。
f罹患 = 現在または過去に大腸がんの診断を受けた;非罹患 = 大腸がんの診断を過去に受けていない。
リンチ症候群の病原性多様体 家系であることが分かっている、罹患 fおよび非罹患fのHCCRから集めた拡大家族4集団 [3] 219 59%が検査前のGC参加;検査後のGC、GT参加
HCCRから集めた大腸がん患者の非罹患FDR [1] 505 21%が検査前GC参加;26%が検査前GC参加未決定;15%がGT(血液)参加;4%がGT(血液)参加未決定
リンチ症候群病原性多様体家系であることが分かっている、罹患および非罹患のHCCRから集めた拡大家族4集団 [2] 208 47%が検査前GC参加;43%が検査後GC、GT参加
腫瘍科クリニックおよびHCCRから集めた大腸がん患者 [4] 510 89%がGT(血液)参加
リンチ症候群病原性多様体家系であることが分かっている、36のフィンランド人家系の非罹患家系員 [5] 446 78%が検査前GC参加;75%が検査後GC、GT参加
高リスクの結腸がんクリニックにおいてGCを受けた、罹患者および非罹患者 [9] 57(LS);91(家族性大腸がん) LS:14%が検査後GC、GT参加
APC I130K:85%が検査後GC、GT参加
医師を通じて集められた、罹患したFDRまたは第二度近親者を有する、60歳未満で診断された大腸がん患者 [6] 101 47%が検査前GC参加;36%が検査後GC、GT参加
リンチ症候群の病原性多様体キャリアであることが分かっている非罹患の第一度近親者 [7] 111 51%が検査前GC参加;50%が検査後GC、GT参加
HCCRから集めた大腸がん患者、近親者および配偶者 [8] 140 26%が検査前GC参加


検査前の遺伝カウンセリングと、結果開示のための検査後カウンセリングへの参加は研究全般で14~59%にわたった(表17を参照のこと)。この受診率の広い幅は、費用、検査の特性および提供されたカウンセリングと検査の前後関係などの因子が参加者の決断に影響していることを示唆している。例えば、研究プロトコルの関係から無料で遺伝カウンセリングと遺伝子検査を提供した研究において、カウンセリングの受診率については21~59%の幅、検査の受診率については36~59%の幅があった。 [1] [2] [3] [5] [6] [7] [8] 無料の検査前カウンセリングまたは教育講座に参加した人のほとんどは、遺伝子検査まで終えた。臨床状況でのリンチ症候群の遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査への参加を評価するためにさらなる研究が必要である。

件数は少ないものの、これらの研究によって、リンチ症候群のリスクがある家系の家族個人が遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査の受診を決断する理由、または断る理由について、洞察が得られている。リンチ症候群遺伝カウンセリングへの参加には、子供がいること、大腸がんに罹患した近親者の数の多さ、および大きな社会的支援に関連があった。 [6] 遺伝子検査用に血液サンプルを提供した大腸がん患者に関する研究ではまた、結果の受理までしようとする人は、リンチ症候群素因となる病原性多様体を有しているとより強く心配し、検査が家系員に有用となると思い、検査を受診する有益性および重要性をより強く支持していたことが明らかにされた。 [4] カウンセリングと検査の両方の受診に関連する因子には次のものがある:子供、罹患した近親者の数の多さ、大腸がん発現リスクの認識度の高さ、大腸がんについて考える頻度の高さ。 [1] [2] [3] [5] [6] [7] [10]

参加者に対して、しばしば無償で遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査を提供している研究によると、カウンセリングおよび検査を拒否した人は、大腸がんリスクの認識度が低い [1] 、がんに罹患した第一度近親者が少ない [7] 、過去に大腸内視鏡検査を受けていた傾向が低い [1] 、大学教育を受けている [2] 、過去にがんの遺伝学研究に参加したことがある [2] 、または雇用されているといったことを報告した。 [5] さらに、カウンセリングと検査を拒否した人で、特に女性は、病原性多様体陽性の検査結果に対処する能力が低いと感じていることを報告し [1] 、抑うつ症状を報告する傾向が強かった。 [2] 遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査を求めないことへの理由としては、保険差別の可能性(連邦法の遺伝情報差別禁止法の通過前)、遺伝子検査が家族に与える影響、遺伝子検査の結果を感情的にどう受け止めるかについての懸念などが挙げられている。 [7] 新たに大腸がんと診断され、がんの遺伝学的リスク評価とカウンセリングに紹介される高リスク基準を満たす患者を対象とした小規模な (n = 19) 定性的研究では、推奨されるカウンセリングを求めない潜在的理由が特定された。これらの理由には、がんの家族歴の知識が不十分で、個人のがん診断に対する家族歴の重要性に気付いていない;カウンセリングについて医師から具体的な推奨が直接ない;新たながんの診断の迅速な要求に対処することよりカウンセリングの優先度を低いとみなしているなどがあった。 [11]

米国で実施されたリンチ症候群の遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査の受診率調査とは対照的に、他の国々で実施された同様の調査からの知見は異なっている。フィンランドの調査では、リンチ症候群を発症するリスクのある人の75%が、遺伝子検査および検査結果開示のためのカウンセリングを受診したことが明らかになった。 [5] 検査の受診を独立して予測できる因子は雇用状態のみであった。本研究と米国で実施された同様の諸研究とで比較したときの検査受診率の大きな差は、米国とフィンランドの間の保健医療システムの根本的な差で説明できる可能性がある。特に、フィンランドのようなヨーロッパでは、健康保険と生命保険が区別されていることが少ないため、検査に対する大きな障害は生じないと思われる。 [5]

マイクロサテライト不安定性(MSI)の結果を受ける前に調査されたKaiser Permanente Northwest医療制度の大腸がん患者145人を対象にした研究において、ほとんどの患者が腫瘍のスクリーニングに対して積極的な態度を示していた。 [12] 大多数(84.8%)が腫瘍の検査について6つ以上の有益性を支持していた;しかしながら、89.4%が潜在的に3つ以下の障壁(主に追加の検査とサーベイランスの費用)についても認めていた。がんの強い家族歴を有する患者は、腫瘍検査の障壁について比較的少なく述べる可能性が高かった。また腫瘍の検査に伴う患者の苦痛の経験は最低限で、参加者の77.2%ではスコアがゼロ(苦痛なしを示す)であった。

リンチ症候群遺伝子検査に対する意思決定支援プログラムの有用性に関する研究が行われるようになってきている。最初の遺伝カウンセリングセッションを完了した個人を対象にした1件の研究により、小冊子形式の意思決定支援プログラムは、生殖細胞系検査を受ける決定に関する不確実性を低下させ、検査に関して説明を受けた上での意思決定を個人が行う助けとなり、男性における検査の知識を向上させる上で有効であることが示された。しかしながら、意思決定支援プログラムは実際の検査を受ける決定には影響しなかったようである。 [13] 別の研究では、免疫組織化学(IHC)およびIHC腫瘍検査前だが、生殖細胞多様体検査前ではない高リスクの大腸がん患者を対象に教育的介入の影響が評価された。健康教育担当者による簡単な教育セッションに加えて、MSIおよびIHC検査に関するCD-ROMによる意思決定支援プログラムを受けた患者は、簡単な教育セッションのみを受けた患者と比べて、こうした検査に関する知識の増加が大きいこと、腫瘍の検査を受ける意思決定に対する心構えの満足度が高いこと、意思決定における衝突が少ないこと、意思決定における自己効力感が大きいことが明らかになった。 [14]

遺伝カウンセリングと遺伝子検査に参加することに対する心理的影響

リンチ症候群の遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査の実施前後および実施中の個人の心理的状態に関する研究が行われている。そうした研究には、リンチ症候群関連がんの個人歴がない人のみを対象としたものもあれば [15] [16] [17] [18] 、大腸がん患者に加えて、リンチ症候群病原性多様体を有するリスクのあるがん非罹患者を対象としたものもある。 [19] [20] [21] [22] [23] リンチ症候群の遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査を受けた個人の心理社会的特性の横断的評価では、検査前の心理的機能の平均スコアはほとんどの参加者で正常範囲内にあることが示されているが [19] [20] [21] 、がんに罹患している個人と非罹患の個人を比較した1件の研究により、罹患している個人の方がリンチ症候群に関連した大きな苦痛および心配を有することが示された。 [24]

いくつかの縦断的研究により、リンチ症候群の遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査実施前、ならびに検査結果開示後の1年間における複数の時点で、心理学的アウトカムの評価が行われている。検査前の遺伝子カウンセリングの面談前とその2週間後における不安の変化を、がん個人歴、性別、および年齢(50歳未満 vs 50歳以上)に基づいて調べた研究が1件ある。両年齢層の罹患および非罹患の女性参加者、ならびに50歳を過ぎた罹患男性は、時間経過とともに不安の有意な低下を示した。50歳未満の非罹患男性では不安レベルが低いままであった;しかしながら、50歳未満の罹患男性では、検査前のカウンセリング時点で報告した不安レベルに低下がみられなかった。 [25] がん罹患者と非罹患者の両方を対象にカウンセリングから8週間経過時(検査結果の開示前)の心理的苦痛を評価した研究では、一般的不安、がんの心配、および苦痛が有意に低下したことが示された。 [24] 一般的に、病原性多様体状態の開示直後の期間内(例えば、2週間~1ヵ月)で行われた研究から得られた知見によると、ミスマッチ修復(MMR)病原性多様体キャリアでは、全般的苦痛 [17] [22] 、がん特異的苦痛 [15] [16] 、またはがんの心配 [22] に関して、検査前の測定値と比べて増大する可能性があることが示唆された。キャリアでは、過去に家系内に病原性多様体が確認されていない人(非キャリア)よりも、検査結果開示後に有意に強い苦痛を経験することが多かった。 [15] [16] [17] [22] しかしながら、キャリアの苦痛の強さは開示後の1年間の経過の中で治まっていき [17] [22] 、開示1年後時点での苦痛の強さは検査前と差がない [15] [16] 場合がほとんどである。これらの研究からの知見により、非キャリアでは結果開示から最大1年後まで苦痛の軽減が認められるか、苦痛に変化がみられないことも示された。 [15] [16] [17] [22] 非罹患者と大腸がん患者を対象としたある研究では、キャリアと情報価値のない結果または意義不明の多様体を示す結果を受けた個人との間で、患者の苦痛の強さには検査後1年間のどの時点でも差は認められず、また検査前の苦痛の強さもほぼ同等であったことが示された。 [23]

リンチ症候群の遺伝カウンセリングと遺伝子検査の実施後に生じる長期間の心理社会的アウトカムについて調査した研究は限られている。 [15] [26] [27] 遺伝子検査の前後で心理的苦痛を評価した複数の縦断研究では、病原性多様体のキャリアおよび非キャリアに認められた長期の苦痛レベル(検査後3年または7年時点で測定)はベースライン時の苦痛レベルに類似していることが認められた。 [15] [27] ただし、以下の例外があった:ある研究 [15] における非キャリアのがん特異的苦痛スコアは検査後も低い値が続き、そのベースラインスコアおよびキャリアの検査1年後時点のスコアと比較して有意に低い結果となり、検査3年後の時点でも同様の傾向が認められた。ある研究では、キャリアは検査7年後の時点で大腸がんのリスクに対して不安を抱く傾向が強かった;しかし、大腸がんに対する不安を訴えていた非キャリア(「多少の不安を感じる」、「非常に不安だ」など)は、不安を報告しなかった非キャリアよりも検査結果の妥当性を疑う傾向が強かった。 [27] 検査を受けるという決定についての満足度に関する質問では、キャリアと非キャリアの大半が最長で検査後7年の時点でも強く満足しており、再検査を受ける意思があることを示した。 [27]

一部の研究から得られた知見から、検査実施前の全般的苦痛またはがん特異的苦痛の測定で比較的高いスコアを示す人など、検査結果開示後に心理的苦痛を経験するリスクの高いサブセットが存在する可能性が示唆された。 [19] [20] [21] [22] [23] [28] リンチ症候群の検査用に血液を提供した大腸がん患者に関する研究によって、抑うつ症状および/または不安の程度は、女性、若者、非白人のほか、正規の教育レベルが低い者、社会的支援財源が少ないおよび十分でない者の間で高いことが明らかにされた。 [19] これと同じ集団から、心理的苦痛の強さ、QOLの低さおよび社会的支援の少なさを示す個人のサブグループが同定されている;さらに、このサブグループでは、リンチ症候群病原性多様体のキャリアであることが判明することについての心配と検査結果の告知に対処できるかについての心配を経験することが多かった。 [20] 大腸がん患者とリンチ症候群病原性多様体を有するリスクのある近親者を対象に検査結果開示後の心理的アウトカムを評価したあるフォローアップ報告では、同一の心理社会的特性を有するサブグループでは、多様体の状態とは無関係に、全般的苦痛および開示した年に遺伝子検査を受けるという経験に特異的な苦痛の程度が高かった。非白人と教育水準の低い個人では、それぞれ白人と教育水準の高い個人と比較して、抑うつと不安のスコアがすべての時点において高くなっていた。 [22] 別の研究により、重度または軽度のうつ病の既往歴がある、検査前のがん特異的苦痛が大きい、がんに罹患した第一度近親者の数が多い、悲嘆反応が大きい、ならびに疾病に関係する情緒的表出が大きいといったことで、検査結果開示から1~6ヵ月後の苦痛が大きいことが予測されたことも明らかになっている。 [23] [28] この領域ではさらなる調査研究が必要とされている一方で、症例研究から示されるように、精神医学的苦痛を経験するリスクの高い人を識別すること、ならびに遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査の全過程を通じて心理的支援とフォローアップを提供していくことが重要である。 [29]

がんリスクの理解度に対するリンチ症候群の遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査の影響についても、検証研究が行われている。1件の研究の報告では、病原性多様体のキャリアおよび非キャリアは、そのほぼ全員が開示1年後の時点で自身の検査結果を正確に想起できた。キャリアより多くの非キャリアが結果開示から1ヵ月後および1年後の両時点で自身の大腸がんの発生リスクを正確に同定した。自身の大腸がんリスクを正確に同定できなかった病原性多様体キャリアには、自身のリスク水準を正確に同定できたキャリアと比較して、検査前の主観的なリスク認知の水準が低いという傾向がみられた。 [17] 別の研究で、キャリアと非キャリアのいずれも多様体の状態の開示後に、大腸がんおよび子宮内膜がんリスクを推定する正確度が改善したことが報告された。 [18]

スクリーニングとリスク低減のための介入の心理社会的側面

スクリーニング

リンチ症候群に対する大腸スクリーニング

リンチ症候群に対する遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査の有益性には、個人がスクリーニングおよびリスク低減手術など、がんの早期発見と予防のための選択肢について学ぶ機会が含まれる。リンチ症候群リスクのある人では、遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査を受ける前に、何らかの大腸がんスクリーニングを受けたことがある人が多いが、リンチ症候群スクリーニングの推奨を遵守する可能性が低い人がほとんどであることが研究により示唆されている。18歳以上で、大腸がんの個人歴がなく、リンチ症候群に対する遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査を提供している米国を基盤とした研究プロトコルに参加した人では、52~62%が遺伝子検査前に大腸内視鏡検査を受けたことがあると報告した。 [1] [3] [30] [31] ベルギーおよびオーストラリアにおいて同様の研究に参加したがんに罹患していない個人では、研究への登録前に大腸内視鏡検査を受けたことがあったのはそれぞれ51%と68%であった。 [18] [32] 遺伝子検査を受ける前に大腸内視鏡検査を受診していたことに関連する因子は、高所得かつ高齢であること [30] 、大腸がん発症リスクの認識が高いこと [32] 、教育水準が高いこと、大腸がんリスクが高いという事実を告知されていることなどであった。 [31]

リンチ症候群に対する臨床基準を満たす、がんに罹患したおよびがんに罹患していない人の研究において、92%が遺伝子検査前に少なくとも1回は大腸内視鏡検査および/またはS状結腸内視鏡検査を受けたことがあると報告した。 [33] リンチ症候群、FAP、またはAPC I1307K遺伝子検査に関する遺伝的リスクの評価および考えられる考察を求めて受診した非罹患者の別の研究は、77%が少なくとも1回はスクリーニング検査(大腸内視鏡検査、S状結腸内視鏡検査、バリウム注腸のいずれか)を受けていたと報告した。

3件の研究で、がんに罹患していない人が、遺伝子検査前のリンチ症候群に対する大腸内視鏡検査によるスクリーニングの推奨事項を遵守するかどうかが調査され、10% [18] 、28% [31] 、および47% [33] の遵守率が報告された。

数件の縦断研究で、既知のリンチ症候群病原性多様体に対する検査を受けた後のがん非罹患者によるスクリーニングのための大腸内視鏡検査の利用が調査された。 [18] [30] [31] [32] これらの研究では、リンチ症候群遺伝子検査前の大腸内視鏡検査の利用と、検査結果開示後1年以内の大腸内視鏡検査の利用が比較された。リンチ症候群の病原性多様体キャリアは、非キャリアおよび検査を辞退した人と比較して大腸内視鏡検査を受ける傾向が高いこと(73% vs 16% vs 22%)、およびキャリアでは大腸内視鏡検査の利用が、結果の開示から1年以内は高かったこと(36% vs 73%)を報告した研究が1件ある。 [31] 別の2件の研究では、結果の開示後1年時におけるキャリアの大腸内視鏡検査の受診率(71%および53%)は検査前の受診率と有意差がない [30] [32] が、非キャリアの大腸内視鏡検査の受診率は同じ期間に低下したことが報告された。結果の開示後1年時の大腸内視鏡検査の利用と関連する因子には、リンチ症候群素因となる病原性多様体を有していること [30] [31] [32] 、高齢であること [30] 、および大腸がんを制御しているという認識の高さが含まれていた。これらの知見から、大腸内視鏡検査の受診率は結果の開示後1年以内は病原性多様体キャリアにおいて増加または維持され、非キャリアでは受診率が低下することが示唆されている。過去にリンチ症候群に関連したがんの診断を受けたかどうかにかかわらず、MMR病原性多様体キャリア134人を含めた縦断的研究から得られたデータでは、遺伝子検査の結果を受け取ってから6ヵ月以内にサーベイランスで大腸内視鏡検査を受けなかった人は、疫学研究所うつ評価尺度(Center for Epidemiological Studies-Depression:CES-D)スケールによる測定で、臨床的に意味のある抑うつ症状を報告する傾向が6倍も高かったことが明らかになった(オッズ比[OR]、6.06;95%信頼区間[CI]、2.09-17.59)。遺伝子検査前に測定した大腸がんの不安レベルが高いことも、臨床的に有意な抑うつ症状と関連していた(OR、1.53;95%CI、1.19-1.97)。 [34]

2件の研究では、リンチ症候群の遺伝子検査後の公表されているスクリーニングのガイドラインへの遵守のレベルが多様体の状態に基づいて調査された。1件の研究では、病原性多様体キャリアにおいて100%の大腸内視鏡検査遵守率が報告された。 [18] 別の研究は、キャリアの35%および非キャリアの13%が適切な大腸がんスクリーニングのために発表されているガイドラインを遵守していないこと [30] を明らかにし、どちらのグループも約半数は発表されているガイドラインの推奨よりもスクリーニング受診の頻度が高く、半数はスクリーニング受診頻度が低かった。

上述の縦断研究では、遺伝子検査の結果を受けた後、比較的短期間(1年)の大腸スクリーニングに対する行動は調査されたが、より長期のスクリーニングに対する行動についてはほとんど不明である。遺伝子検査の結果開示から3年後のがん非罹患者の心理面および行動面のアウトカムを評価した縦断研究(N = 73)では、キャリア全員(n = 19)が開示から1~3年後の間に少なくとも1回の大腸内視鏡検査を受けていたことが明らかとなった。 [15] 検査から7年後までの同様のアウトカムを調査した1件の縦断研究でも、すべてのキャリアが大腸内視鏡検査を受けていたことが明らかになった;大半(83%)が推奨に従って3年ごとかそれ以上の頻度で検査を受けていたほか、11%はそれよりも長いスクリーニング間隔を報告した。 [27] この研究では、推奨よりも長いスクリーニング間隔を報告した被験者は早期の死に対する恐怖を報告しやすい傾向がみられた。また、非キャリアの16%は検査後7年以内に大腸内視鏡検査を受けたことを報告した;自身の検査結果の妥当性に疑いを示した被験者は、大腸内視鏡検査を受ける傾向が強かった。 [27] ある1件の研究では、94%のキャリアが将来的に年1回または2回の大腸内視鏡検査を受ける意思を表明した;非キャリアでは64%がその後も大腸内視鏡検査を受ける意思がないか、明確な返答をしなかった、33%は5~6年間隔もしくはそれより低い頻度で大腸内視鏡検査を受ける意思をもっていた。 [18] オランダで実施されたある横断研究では、大腸がんの患者、子宮内膜がんの患者、またはリスク評価後およびカウンセリング後2年~18年の間にリンチ症候群の臨床的または遺伝子診断を受けた患者におけるS状結腸内視鏡検査または大腸内視鏡検査の利用が調査された。 [35] 診療記録から入手したデータによると、リンチ症候群病原性多様体キャリアの86%と、検査を受けなかったかリンチ症候群遺伝子検査が情報価値のない結果であった人の68%、および臨床的リンチ症候群の診断を受けた人の73%がスクリーニングの推奨事項を遵守すると考えられた。参加者はスクリーニングの遵守度に関する質問にも回答し、標本全体の16%が、推奨された頻度よりも少ない頻度でスクリーニングを受けていると報告した。標本全体では、スクリーニングに対する障害をより強く認識することは、診療記録の再検討によって決定されるスクリーニングの非遵守と関連し、スクリーニング方法での困惑は、自己申告型の非遵守と関連した。同じくオランダで実施された第2の横断研究では、がんに罹患していないリンチ症候群多様体キャリア(n = 42)を対象にして、病原性多様体の保因状況を告知された後(範囲、6ヵ月~8.5年)の大腸スクリーニング行動に関する調査が行われた。回答者の31%がリンチ症候群の遺伝子検査を受ける前から年1回の大腸内視鏡検査を受けていたと報告し、88%が遺伝子診断以来、大腸内視鏡検査を受け続けていると報告した(P < 0.001)。 [26]

生殖細胞病原性多様体を有するリスクがあるが、そのリスク状態について知るために遺伝カウンセリングおよび/または遺伝子検査を受けない人におけるリンチ症候群スクリーニングの行動に関してはほとんど知られていない。Australian Colorectal Cancer Family Registryからのリンチ症候群の生殖細胞病原性多様体キャリアの血縁者で、遺伝カウンセリングおよび/または遺伝子検査を受けなかった26人が今後10年間に大腸がんとなるリスクの認識度を評価し、大腸内視鏡検査の受診状況を自己報告する質問を受けた。 [36] リスクの平均認識度は30.5%であり、MMRproソフトウェアで計算した4%のリスクの予測平均認識度を上回っていた。 [37] 73%(n = 19)が大腸内視鏡検査を受けたことがある(診断の理由の1つ)と報告した;35%が過去2年以内に大腸内視鏡検査を受けており、推奨に従うと判断された。リスクの認識度では、最後の大腸内視鏡検査からの経過年数とわずかに正相関(ピアソン係数 r、0.49;範囲、0.02–0.79)が認められたが、それ以外は他のスクリーニングまたは個人の特性と関係していなかった。著者らは、遺伝カウンセリングおよび/または遺伝子検査を受けなかったリンチ症候群病原性多様体キャリアの血縁者における大腸内視鏡検査受診の予測因子として、リスクの認識度単独では十分ではない可能性があると結論した。 [36]

リンチ症候群における婦人科がんスクリーニング

いくつかの小規模な研究により、リンチ症候群と関連する子宮内膜がんおよび卵巣がんに対するスクリーニングの利用が調査されている(表18を参照)。これらの研究にはいくつかの限界があり、症例数が少ないこと、追跡期間が短いこと、レトロスペクティブのデザインであること、データソースとして自己報告に依存していること、およびリンチ症候群遺伝子検査を受けている患者が一部に含まれていないことが挙げられる。いくつかの研究がスクリーニング受診解析でスクリーニング受診の最低年齢基準を満たさない人を含んでいる。家系内における既知の病原性多様体に関する検査結果が陰性であった後のスクリーニング利用を評価した研究のうち、以前に特定された異常の追跡といったスクリーニングの適応を評価したものはほんのわずかであった。最後に、いくつかの研究が受診解析に他のがんに対して積極的な治療を受けている患者を含んでおり、提供者のスクリーニング推奨に影響を与える可能性がある。そのため、表18では、リンチ症候群遺伝子検査を受けた患者を含み、症例数が多く、追跡期間が長い、スクリーニング年齢が適切な人を含めた解析を行った研究に限定している。

表18.リンチ症候群(LS)遺伝子検査を受けた女性における婦人科スクリーニングの受診率

研究の引用番号 調査集団 遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査前の婦人科スクリーニングの受診率 遺伝子検査結果を受領後の婦人科スクリーニングの受診率 フォローアップ期間 解説
EC = 子宮内膜がん;ES = 子宮内膜サンプリング;RRH = リスク低減のための腹式子宮全摘出術;RRSO = リスク低減のための卵管-卵巣摘出術;TVUS = 経膣超音波検査。
非キャリア = 家系内で既知の病原性多様体が陰性。
1プロスペクティブ研究デザイン。
2レトロスペクティブ研究デザイン。
aデータソースとして自己報告。
Claes et al.(2005)1,a キャリア(n = 7) 報告されていない

TVUS

1年 1人の非キャリアが既往の子宮内膜障害に対してTVUSを受けたことを報告した一方で、3人の非キャリアが予防を理由としてこの検査を受けたことを報告した。
- キャリア 86%(6/7)
非キャリア(n = 16)
- 非キャリア 27%(4/15)
Collins et al.(2007)1,a キャリア(n = 13) 報告されていない

TVUS

3年 キャリア4人中2人が3年の追跡評価までにRRH/RRSOを受けた。
- キャリア 69%(9/13)
- 非キャリア 6%(2/32)
非キャリア(n = 32)

ES

- キャリア 54%(7/13)
- 非キャリア 3%(1/32)
Yurgelun et al.(2012) :コホート12,a 77人がリンチ症候群関連のECリスクあり;45人がキャリア;19人が遺伝子検査を受けていないもののリンチ症候群関連家族歴あり 75%(58/77)がECスクリーニングまたはECリスク低減介入を受けた;42人が年1回のTVUSおよび/またはESを受けた;16人がRRHを受けた 報告されていない 非適用  
Yurgelun et al.(2012) :コホート21,a 40人の女性がリンチ症候群の臨床的リスクあり 65%(26/40)がECスクリーニングまたはリスク低減を遵守;6人がRRHを受けた;13人が年1回のESおよび/またはTVUSを受診;6人が推奨スクリーニング年齢に未到達 キャリア:100%(n = 16)がECスクリーニングまたはリスク低減戦略を遵守;4人が検査前RRHを受けた;5人がRRHを受けた;5人がECスクリーニング(TVUSおよび/またはES)を受診;2人が推奨スクリーニング年齢に未到達 1年  
キャリア(n = 16)
非キャリア(n = 9);14人が不確定な結果;1人が意義不明の多様体 非キャリア:11%(1/9)がECスクリーニングを受診;11%(1/9)がRRHを受けた


全体で、これらの研究は、比較的少数の女性を対象にしているが、リンチ症候群関連婦人科がんのスクリーニング率が遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査の実施前では低いということを示唆している。しかしながら、遺伝教育および遺伝カウンセリングに参加し、リンチ症候群病原性多様体検査結果を受領した後では、キャリアでは婦人科がんスクリーニングの受診率はおおむね増加しているが、非キャリアでは利用が減少している。

リスク低減のための手術

リンチ症候群に対するリスク低減目的の結腸切除術の施行については見解の一致は未だみられておらず、このリンチ症候群に対するリスク低減目的の結腸切除術に関する意思決定や心理的続発症についてはほとんど理解されていない。

陽性の検査結果を受けた人では、結果開示の後にリスク低減目的の結腸切除術の施行に対して検査前よりも高い関心を示した割合が多かった。 [3] この研究ではまた、リンチ症候群に対するリスク低減手術の検討が遺伝子検査への参加を動機付けうるということも示された。結果受領前の時点では、46%がリスク低減のための結腸切除術を検討していることを表明し、また女性の69%がリスク低減のための腹式子宮全摘出術(RRH)とリスク低減のための両側卵管卵巣摘出術(RRSO)を検討していた;しかしながらこの研究では、これらの個人に検査結果が告知された後に実際にリスク低減のための手術が施行されたか否かは評価されなかった。リンチ症候群の遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査を受診する前の時点では、縦断研究でMMR遺伝子の多様体リスクを有するがん非罹患者の5%が結腸切除術を検討すると報告し、病原性多様体が陽性であることが判明した後では、女性の5%がRRHおよびRRSOを受けたいと表明した。結果開示から3年後の時点では、リスク低減のための結腸切除術を受けた参加者は1人もいなかった。 [15] [32] 遺伝子検査前にRRHを受けていた2人の女性は、検査から1年以内にRRSOを受けたが [32] 、この研究の病原性多様体の他の女性キャリアで検査結果の開示から3年後の時点でどちらかの処置を受けたと報告した者はいなかった。 [15]

広範囲の切除(結腸亜全摘術)または比較的狭い範囲の切除(部分切除術あるいは半結腸切除術)を受けたリンチ症候群患者におけるQOLと腸機能の転帰に関する横断的調査では、広範囲の切除を受けた患者では、排便頻度が多く、排便に関係する機能障害が多かったものの、全般的なQOLは同等であったことが報告された。 [39]

家族内のコミュニケーション

遺伝性大腸がんの易罹患性に関する遺伝子検査についての家族内でのコミュニケーションは複雑であり、そうした検査の結果に関するコミュニケーションは特に難しくなる。遺伝的リスクの情報に関する家族内でのコミュニケーションについては大部分が家系員自身の責任であるとの認識が一般的である。数件の研究で、リンチ症候群の遺伝カウンセリングと遺伝子検査を提案されている家系におけるコミュニケーションのパターンが調査されている。研究では、患者がリンチ症候群の遺伝子検査に関する情報を家系員に開示したかどうか、この情報を誰に開示したか、およびそのようなコミュニケーションを促進または抑制した、家族に基づいた特徴または問題に焦点が当てられている。これらの研究では、医療専門家によるリンチ症候群素因に関する告知後の家族内におけるコミュニケーションおよび開示の過程が調査されたが、含まれているサンプルは比較的少数である。

研究による知見から、一般的に人々は、リンチ症候群の病原性多様体があることに関して家系内で情報を共有することを望んでいることが示されている。 [40] [41] [42] [43] 遺伝的リスク情報の共有を望む動機付けには、個人的リスク、健康増進のための選択肢および予測的遺伝子検査に関して家族の意識を高めたいという欲求のほか、感情的な支えに対する欲求、家族内の誰かを助けるという道徳的義務および責任の認識がある。 [41] [42] [43] 研究での知見から、ほとんどの研究参加者は、リンチ症候群の遺伝的リスクの情報が家族内で隠さずに共有されていると考えていることが示唆される;しかしながら、そうしたコミュニケーションは、比較的遠い近親者とよりも第一度近親者(例、同胞、子供)との間で行われる傾向が高い。 [40] [41] [42] [43]

フィンランドの1件の研究では、MMR病原性多様体のキャリアであることが分かっている40歳以上の親を募集し、その親が成人および未成年の子孫と遺伝的リスクの知識をどのように共有したかを調べる質問票への記入が依頼された。この研究でも、コミュニケーションの過程における問題が特定された。 [44] 248人の親の87%が子供に結果を知らせたと回答した。秘密にした理由は、過去の研究と一致していた(子供が幼い、社会的に関係が疎遠である、またはこの話題について話し合うのが難しいと考えている)。 [41] [42] [45] ほぼすべての親は、成人の子孫に遺伝的リスクと遺伝子検査の可能性についての情報を与えたが、約3分の1の親は、子孫がその情報をどのように利用したか把握していなかった。親は子供のがんリスクについて話し合うのがコミュニケーションの過程で最も困難な面だと認めた。情報を知らされた191人の長子のうち69%が遺伝子検査を受けた。3分の1の親が、医療関係者は情報の開示に関与すべきで、遺伝子クリニックでの開示の席に家族も参加させるべきであることを進言した。

第二度または第三度近親者への通知に関しては、カスケードアプローチを好む人もいる:例えば、家系のリンチ症候群リスクに関する情報を知らされた近親者は、次に自身の第一度近親者に通知する責任があるといったことが想定される。 [40] [41] [42] コミュニケーションに対するこのカスケードアプローチは、近親者の子孫、特に未成年の子孫に知らせる場合に明らかに好まれており、この大多数の意見は、このような情報を、家系の関係階層の最初で開示せずに第二度または第三度近親者に開示することは不適切ではないかということを示唆している。 [40] [41] [42] [45] 1件の研究において、リンチ症候群の遺伝子検査を受け、リンチ症候群の素因となる病原性多様体を保有することが明らかになった個人は、真陰性の結果または情報価値のない結果を受け取った個人と比較して、遺伝子検査の結果について少なくとも1人の第二度または第三度近親者に通知する傾向が強かった。 [43]

遺伝的リスクに関するコミュニケーションは、一般的に隠し立てのない過程とみなされるが、コミュニケーションにはいくつか障壁があることが複数の研究で報告された。近親者に通知しない理由として、その人との親密な関係がなく、交際がないなどが挙げられた;実際、関係よりも感情的な親密度の方が、リスクコミュニケーションの程度を決定するより重要な因子であると考えられた。検査結果に関する情報によって近親者を心配させたくないという願望および近親者がこの情報の意味を理解しないだろうという認識もまた、コミュニケーションの障壁として挙げられている。 [43] リスクを有する人が情報を得るには若すぎる場合(すなわち、小児の場合)、遺伝性のがんリスクに関する情報が原因で以前に家系内に衝突が生じたことがある場合 [42] 、あるいは近親者が検査についての情報に関心をもっていないとみなされる場合には、情報が開示される可能性は低いと考えられた。 [41] 以前に衝突があったことは、遺伝性のがんリスクに関する話し合いが妨げられる原因になるようであった(話し合いに悪いニュースの開示が含まれる場合は特にその傾向が強かった)。 [42]

これらの研究へのほとんどの参加者で、家族性がんに対する遺伝性の原因を疑っていたり、がんについて家族内で以前に話し合いを行っていたことから、家系内におけるがんのパターンがリンチ症候群素因となる病原性多様体によるものであるという知らせが驚きをもって迎えられることはなかった。 [40] [41] 家系内におけるリンチ症候群素因となる病原性多様体の同定は個人的な問題と考えられていたが、必ずしも秘密というわけではなく [40] 、多くの人が家系以外の人と自らの家系の病原性多様体状態について話し合っていた。家系内におけるリンチ症候群素因となる病原性多様体の発見に関する認識はスティグマとはみなされなかったが、この情報が保険に関わる差別に影響する可能性についての懸念が示された。 [40] また、家系内における病原性多様体の存在についての情報を開示する意思がある一方で、1件の研究では個人的な結果の開示に関してはより内密にして、家系のリスク情報と個人的な結果とを区別する傾向が示唆されている。 [45] 2~3例の症例では、家系のリンチ症候群リスクについての報告を受けた後に近親者が、怒り、ショック、またはその他の否定的な情動反応を示したことが報告された [42] ;しかしながら、ほとんどの人は近親者に知らせる際に問題はほとんど、あるいは全くなかったと報告した。 [41] がんに関係した話し合いに問題がなく率直な家族は、遺伝的リスクについての報告に対する受容力が高く、素直に聞き入れることが示唆された。 [42]

一部の例では、発端者は、遺伝性がんリスクについて家系員に知らせる義務が特にあると感じていると報告し [42] 、多くの場合、家族性病原性多様体についての遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査を家系員に受けるよう促すことについて最も強く支持していた。 [40] 遺伝性がんリスクの情報の浸透に関しても、性別による役割および家族の役割の差異がみられた。1件の研究により、女性の発端者は男性の発端者よりも遺伝情報について話し合うことに問題がなく、男性の発端者は家族内でのコミュニケーションの過程で専門家の支援をより必要としたことが報告された。 [41] 別の研究では、健康リスクの情報を伝達する場合に、母親は家族のネットワークの中で特に影響力のある家系員であることが示唆された。 [46] 病原性多様体陰性の人、検査を受けないことを選択した人、およびリスクのある人の配偶者は、発端者および遺伝子検査を受けたその他のリスクのある人と比べて、リスクコミュニケーションの過程には個人的に関与していないと考えていることを報告した。 [40]

コミュニケーションのさまざまな方法(例、直接会って、電話で、または文書での連絡)が、家族内での遺伝的リスク情報の開示に典型的に用いられる。 [40] [41] [42] 1件の研究では、遺伝カウンセリングの要約文書またはリンチ症候群の小冊子などのコミュニケーションの補助は、コミュニケーションの過程における有用な付属物とみなされたが、その成功のために中心となる、または必要なものとは考えられなかった。 [41] 複数の研究によって、遺伝性がんリスクについて近親者に知らせるための、医療提供者による推奨はリンチ症候群に関するコミュニケーションを促し [42] 、医療専門家による支援がそのような情報を家系員に伝達する際の障害の克服に有用であることが示唆されている。 [45]

今日までに公表されている家族間コミュニケーションに関する文献の多くが検査結果の開示に焦点を当てたものである;ただし、家族間コミュニケーションの他の要素については、現在調査段階にある。リンチ症候群患者とその家系員(33家系から206人の回答者)の間で、さまざまな種類の支援(例えば、物理的支援、情緒的支援、危機に対する支援、いざとなったときの信頼性など)を提供する際における高齢の家系員の役割を評価した研究が1件ある。 [7] [47] 回答者は、家族社会ネットワーク(生物学的な血縁家族と非血縁家族、および家族以外の他人)、および家族内コミュニケーションのパターンに関する面談を受けた。回答者とその家族社会ネットワークのメンバーの平均年齢に相違はみられなかった(~43歳)。この研究により、家族社会ネットワークのメンバーの23%が大腸がんスクリーニングを勧めたことが明らかになった(社会的支援など、他の種類の支援の頻度は、はるかに多かったことが報告された)。スクリーニングを勧めた人は、高齢者および女性であったほか、家族以外の人よりむしろ、大切な人つまり生物学的な血縁家族であった。家族社会ネットワークのメンバーの多くが同一世帯に暮らしていなかったことを考慮すると、この研究はスクリーニングの推奨および支援との関連で拡大家族の重要性を指摘している。

家族性大腸腺腫症(FAP)

遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査への参加

FAPの遺伝子検査の受診率は、リンチ症候群の検査よりも高いとみられる。米国においてFAPのリスクがある無症状の人を対象に、大腸がんレジストリーに登録し、遺伝カウンセリングを提供した研究では、成人の82%および未成年者の95%が遺伝子検査を受診したことが明らかになった。 [48] 英国では、100%に近い受診率が報告されている。 [49] APC遺伝子検査の受診率がきわめて高いことについて考えられる解釈は、この検査の費用効果が年1回の内視鏡によるスクリーニング [50] よりも高く、しばしば思春期前から開始しなければいけない年1回のスクリーニングによる精神的負担を取り除けるということである。リスク低減手術の可能性に関する心配を取り除けることは、FAPに関する遺伝子検査のもう1つの利益となりうる。APCの遺伝子検査を受診する決定は、医学的管理上の決定としてみられ [51] 、FAPの検査受診の決定に影響を与える潜在的心理社会的因子が研究されていないのは、他の遺伝性がん症候群の場合と同様である。APC病原性多様体の浸透度がより高いこと、疾患発症がより若年期であること、および明白な表現型であることも、この疾患についての遺伝子検査受診の意思決定に影響を与える場合があるが、それはおそらくこの疾患に対する意識がより高いこと、また複数の家系員が罹患しているという経験の多さによると思われる。

現在、FAPの遺伝子検査は両親が罹患している子供に提供されており、多くの場合は10~12歳で、内視鏡によるスクリーニングが推奨される。大腸がんを予防するにはFAPの診断を18歳までに行うことが適切であること、ならびにAPC病原性多様体キャリアであると確認された時点でスクリーニングおよび場合によっては手術が必要になることから、このような例では未成年者に対する遺伝子検査が正当化される。(小児における遺伝子検査に関わる倫理的、心理社会的、遺伝カウンセリングの問題に関する詳しい考察については、がんの遺伝学的リスク評価とカウンセリングに関するPDQ要約の小児における検査のセクションを参照のこと。)

FAPの家系員を対象にオランダで実施された調査では、3分の1(34%)が12歳前の小児にAPC遺伝子検査を勧めることが最も適切であると考えていたが、38%はDNA検査の過程をより良く理解できると考えられる12~16歳の小児に検査を勧めることを望んだ。子供はDNA検査を全く受けるべきではないと考えていたのは4%のみであった。 [52]

米国でFAPと診断された親28人の定性的面談データの結果では、リスクがある子供(10~17歳)にAPC多様体の遺伝子検査を望む親は61%であったことが示された;71%は子供に検査結果を教えるべきだと考えていた。親が子供の検査を選ぶ主な理由には、早期発見および早期管理、親の心配や不安の軽減、サーベイランスに関する意思決定に役立つなどがあった。検査を選ばない理由は、差別に対する心配および費用が中心であった。 [53]

FAP罹患家系員をもつ小児はリスク低減手術の可能性を非常によく自覚しており、そうした手術の必要性を見極める要因として検査結果に重点を置いているということが、臨床観察から示唆されている。 [48] 子供の年齢、発達の問題およびFAPに関する心理的な懸念の点から、遺伝子検査の結果を子供に開示する時期を考えることは重要である。APC病原性多様体を有する小児は周囲の小児が自分のことをどう思うかについて心配を示しており、自尊心を保てるような周囲への説明方法を支援することが有益となると考えられる。 [48]

遺伝カウンセリングと遺伝子検査に参加することに対する心理的影響

FAPの遺伝子検査後の心理的アウトカムを評価した研究から、特に病原性多様体キャリアなど、人によって大きな苦痛を経験するリスクがある可能性が示唆される。APC遺伝子検査を以前に受けた成人の横断研究では、病原性多様体キャリアは非キャリアに比べてより高度の状態不安を示し、また臨床的に有意な不安のレベルを示す傾向が強かった。 [54] この研究において、楽観的なところが少なく自尊心が低いことは、不安を高めることに関連があり [54] 、またFAPに関連した苦痛やFAPの深刻さの認知および遺伝子検査の精度への信頼が、キャリアのより高度な状態不安と関連していた。 [55] しかしながら、FAP、ハンチントン病、および遺伝性乳がん/卵巣がん症候群で遺伝子検査を受診した成人を比較した初期の研究では、FAPに特異的な苦悩は、陽性または陰性の検査結果が開示されてから1週間以内にいくぶん高まったが、これ以外の症候群より全体的に低かった。 [51]

FAPと診断された18~35歳の比較的若い成人(N = 88)に焦点を当てたオーストラリアの横断研究では、参加者はFAPに関係する以下の問題に対して中程度から高度の支援または援助の必要性を感じたと最も多く報告した:子供がFAPを発症するリスクに関する不安、がんを発症することについての恐れ、およびFAPが与える影響に関する先行きの不安。 [56] 75%がFAPについての出生前検査を検討する意思を示した;61%がPGDを検討する意思を示し、61%が出生時または10歳までの間に子供に遺伝子検査を受けさせたいと考えていた。回答者のうちのごく一部(16%)ではあるものの、FAPに関係する差別を経験したと報告した者もおり、その中で第一に指摘されたのは、自身の医学的ニーズや自己ケアのニーズ(例、スクリーニング受診のために欠勤しなければならないこと、頻繁にトイレに行かなければならないこと、身体的な制限があること)に対応していくことで同僚や上司に否定的な態度を生じさせてしまう場合があるというものであった。

FAP家系を対象にオランダで実施された別の大規模な横断研究では、FAPと診断された人、APC病原性多様体を有するリスクが50%ある人、またはAPCの非キャリアと証明された人のいずれかである16~84歳の被験者が対象とされた。 [57] APC検査を受けた人の48%が、この研究の5年以上前に検査を受けていた。FAPと診断された人の76%が予防的な結腸切除術を受けており、その中の78%は術後5年以上経過していた。この研究では、全般的な心理的苦悩、特にFAPに関連する苦悩、およびがんに伴う不安について、その有病率を評価した。全般的な苦悩を評価するSF-36のサブスケールであるMental Health Index-5の平均スコアは、オランダの一般集団と同程度であった。IES(Impact of Event scale)により判定したFAP特異的苦悩レベルでは、回答者の20%が中等度から高度に分類され、この範囲のスコアを記録した回答者は、FAPと診断された人の23%、FAPのリスクがある人の11%、非キャリアの17%であった。IESにおいて高度で臨床的に重要な苦悩を示すスコアを報告した人は5%であった;そのうちの大半(78%)がFAPの診断を受けていた。全体的に、Cancer Worry Scaleによる平均スコアは、リンチ症候群の家系を対象とした他の研究において明らかにされたスコアと同程度であった。FAPと診断された人はがんに伴う不安を高頻度で報告する傾向が高く、最も多く報告された不安は、追加手術が必要と考えられること(26%)、および自身(17%)または家族(14%)ががんになる可能性であった。多変量解析でFAP特異的苦悩レベルが高いことに関連する因子は、がんになるリスクの認識度が高いこと、家族や友人とFAPについて相談した頻度が高いこと、および子供がいないことであった。がん特異的不安レベルが高いことに関連する因子は、女性であること、家族関係が悪いこと、家族や友人とFAPについて実際に相談したりそれを望んだりしたことが多いこと、がんリスクの認識度が高いこと、全般的な健康状態が良くないと感じていること、およびがんの家族を介護していることであった。著者らは、がんおよびFAPに特異的な苦悩または不安のレベルが高いことに関連していた因子のほとんどが、 臨床的因子または人口統計学的因子ではなく心理社会的因子であったことに注目した。

オランダで実施された別の横断研究では、FAP患者の37%がこの疾患が子供をもうけたいという願望に影響した(すなわち、子供をほとんどまたは全く望まない)と表明したことが明らかにされた。33%がFAPについてのPNDを検討する意思を示した;30%がPGDを検討する意思を示した。より高いレベルの罪悪感と妊娠の中絶に対するより積極的な態度は、PNDとPGDの両方への強い関心と関連した。 [52] 米国の別の研究では、出生前検査を検討する意思を予測する因子として、罹患した子供がいること、FAPによる第一度近親者の死を経験していることなどが挙げられた。 [58]

検査を受ける子供が心理的に傷つきやすいことは、FAPの遺伝子検査において特に懸念されることである。研究結果からは、ほとんどの小児がAPC検査後に臨床的に有意な心理学的苦痛を経験しないことが示唆される。しかしながら成人を含めた複数の研究によると、サブグループは苦痛の増加に対して脆弱であり、心理学的サポートを継続する利点が得られる。FAPの遺伝子検査を受診した小児に関する研究では、小児の気分および行動は、遺伝カウンセリングおよび検査結果の開示が終了した後も正常範囲のままであった。母親または兄弟姉妹の1人に病気があるなどの家族の状況の側面が、抑うつ症状の潜在的増大に関連していた。 [59] FAPの検査を受けた48人の子供の長期にわたる追跡調査によると、ほとんどの子供は心理的苦痛に苦しんでいない;しかしながら、検査を受けた子供の少数は、臨床的に有意な検査後の苦痛を示した。 [60] 別の研究により、APC病原性多様体陽性の小児の発症リスクに関する認識度は結果開示後に増したが、不安および抑うつのレベルについては、開示後も年内は変化がみられないことが明らかになった。 [54] この研究では、これと同期間中に、病原性多様体陰性の子供たちは不安が減少し、自尊心を取り戻した。

スクリーニングとリスク低減のための介入の心理社会的側面

スクリーニング

FAPに対する大腸スクリーニング

FAPに対するスクリーニングの心理学的側面についてはほとんど知られていない。FAPの家族歴を有し遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査プロトコルへの参加を提案された少数の個人(17~53歳)を対象としたある研究では、無症候の個人の全員がこの研究に参加する以前に内視鏡サーベイランスを1回以上受けたことがあると報告した。 [33] 推奨されている間隔でスクリーニングを継続していると報告したのは、33%のみであった(患者6人中の2人)。結腸切除術を受けていた罹患患者のうち、92%(患者12人中の11人)が推奨されている大腸のサーベイランスを遵守していた。古典的FAPまたは軽症型FAP(AFAP)であることが臨床的または遺伝学的に診断された人およびそのリスクがある近親者からなる150人を対象とした横断研究では、FAP患者の52%およびFAPリスクのある近親者の46%が、推奨された内視鏡スクリーニングを受診していた。 [61] AFAPの患者およびそのリスクのある人のうち、それぞれ58%および33%がスクリーニングを受けていた。推奨された受診間隔内でスクリーニングを受けていた人と比較すると、スクリーニングを受けていなかった人は、医療提供者によるスクリーニングの推奨を忘れやすい、スクリーニングに対する健康保険または保険金が不足しやすい、自身の大腸がんのリスクは高くないと考えやすいといった傾向がみられた。この研究の対象集団では、遺伝カウンセリングの受診経験があったのはわずか42%であった。スクリーニングを「necessary evil(避けられない弊害)」と表現したのは参加者のうちのごく少数(14~19%)であったが、これは腸検査前処置への嫌悪や経験したことのある痛みや不快感を示したものであった。こうした問題が将来の内視鏡検査の受診の弊害となりうると報告したのは、参加者の90%に上った。技術改良および麻酔使用によってスクリーニング処置に対する忍容性が改善されると報告したのは、参加者の19%であった。

リスク低減のための手術

FAPのリスクを有する個人に多発ポリープが発生した場合には、大腸がんリスクを低減するには結腸亜全摘術または直腸結腸切除術によるリスク低減手術が唯一の効果的な方法である。FAPの個人の大半では、永久的造瘻術を回避して肛門および/または直腸を温存することができ、それにより便通をある程度までコントロールすることが可能となる。(FAPの外科的管理方法の詳しい情報については、本要約のFAPに対する介入のセクションを参照のこと。)これらの介入によるQOLの結果に関する証拠は現在も蓄積されているが、表19にその要約を示す。

表19.家族性大腸腺腫症(FAP)のQOLに関する変数を測定する研究

集団 フォローアップ期間 手技の種類 排便頻度 排便抑制 身体イメージ 性機能 解説
EORTC QLQ = European Organization for Research and Treatment of Cancer Colorectal Quality of Life Questionnaire;IPAA = 回腸嚢肛門吻合術;IRA = 回腸嚢肛門吻合術;SD = 標準偏差;SF-36 = Short Form(36)健康調査票。
a EORTC QLQ-C38のスコアは0~100である。機能尺度:0 = 最低レベルの機能、100 = 最高/健常レベルの機能。症状尺度:0 = 最低レベルの機能、100 = 最高/健常レベルの機能。
b SF-36のスコアは0~100で、0 = 想定される最低の健康状態、100 = 想定される最高の健康状態。
c同年齢層の正常範囲内。
結腸切除術後にFAPに罹患した個人279人(女性135人、男性144人);対照はオランダの一般集団に属する個人1,771人

IRA平均

:12年(SD、7.5年)

IRA

:n = 161
評価されていない 評価されていない EORTC QLQ-CR38 a EORTC QLQ-CR38 a SF-36b(オランダ版)の全サブケールのスコアは、一般集団のスコアより有意に低かった(IRA:P < 0.001;IPAA:P < 0.001)。

IRA

:87.5(SD、21.9)

IRA

:38.9(SD、26.6)

IPAA平均

:6.8年(SD、4.9年)

IPAA

:n = 118

IPAA

:84.4(SD、22.7)

IPAA

:42.2(SD、26.3)
18~35歳のオーストラリア人88人(女性63人、男性25人)、うち57人は結腸切除術後であり、14人はFAPに罹患していたが手術未実施 報告されていない

IRA

:n = 33
評価されていない 評価されていない SF-36 b SF-36 b  

IPAA

:n = 21

IRA

:89.9(SD、16.1)

IRA

:86.2(SD、21.6)

回腸造瘻術

:n = 1

IPAA

:72.1(SD、23)

IPAA

:77.5(SD、26.2)

手術の種類が不明

:n = 2

手術未実施

:94.1(SD、9.4)

手術未実施

:91(SD、19)
525人(女性283人、男性242人)、うち296人は結腸切除術後であり、45人はFAPに罹患していたが手術未実施、50人はFAPのリスクを有していたが手術未実施、134人は非キャリア

範囲

:0~1年から10年超

IRA

:n = 136
評価されていない 評価されていない EORTC QLQ-CR38 a EORTC QLQ-CR38 a FAP患者の41%が雇用の中断を報告した:

結腸切除術後

:85.4(SD、20.5)

結腸切除術後

:42.2(SD、23.2)
部分的または完全な障害:n = 73(59%)

IPAA

:n = 112

FAPで手術未実施

:91.9(SD、16.1)

結腸切除術後

:42.2(SD、23.2)
労働量減少:n = 30(24%)

回腸造瘻術

:n = 42

リスクあり

:94.0(SD、13.1)

リスクあり

:47.6(SD、23.7)
労働量増加:n = 5(4%)

その他

:n = 6

非キャリア

:92.3(SD、13.1)

非キャリア

:45.7(SD、21.2)
期間により労働量が増加または減少:n = 16(13%)
FAPに罹患し結腸切除術を受けた18~75歳のスウェーデン人209人(女性116人、男性93人)

最後の手術からの平均期間

:14年(SD、10;範囲、1~50年)

IRA

:n = 71
評価されていない

日中

:71%(n = 149)
評価されていない 評価されていない 評価された21の腹部症状の平均症状数は7(SD、4.61;範囲、1~18)。女性は男性より多くの症状を報告したが、症状の問題の程度に性差はみられなかった。症状数が多いことは、身体面および精神面の健康不良に関する独立した予測因子であった。

IPAA

:n = 82

回腸造瘻術

:n = 39

夜間

:61%(n = 128)

禁制型回腸造瘻術

:n = 14

その他

:n = 3
結腸切除術を受けた14歳以下の個人28人(女性10人、男性18人) 12年(SD、8.4;範囲、1~37年)

IRA

:n = 7

日中

日中

Rosenberg自己評価尺度 :25.53/30c 評価されていない 10/28が結腸切除術後のがんに関する心配を報告し、若年(18歳未満)とがんに関する心配の高さとの間に関連がみられた。

IRA

:3.8(SD、1.5)

IRA

:71.4%(n = 7)

IPAA

:5.3(SD、2.4)

IPAA

:85.7%(n = 21)

IPAA

:n = 21

夜間

夜間

IRA

:1.3(SD、0.6)

IRA

:50.0%(n = 7)

IPAA

:1.3(SD、0.5)

IPAA

:61.9%(n = 21)


FAPに対するリスク低減手術に関する諸研究によると、総合的なQOL評価は正常範囲内で、大多数が身体イメージに悪い影響はなかったと報告したことが明らかになっている。しかしながら、これらの研究は、FAPに対するリスク低減手術が少なくとも一部の罹患者のQOLにマイナスの影響を及ぼすことを示唆している。

化学予防

リンチ症候群およびFAPのリスクを有する個人に対するさまざまな治療法の有効性を評価すべく、化学予防の試験が現在進行中である。 [67] [68] FAPの診断を受け、腺腫性ポリープの発生に対するビタミンおよび食物繊維の効果を評価する5年間の臨床試験への参加を勧められた個人から成る標本のうち、55%が参加に同意した。 [69] 参加者した個人には、比較的に若年である、FAPと診断されて比較的間もない、ならびに居住地が試験施設から遠いという傾向がみられたものの、他の心理社会的変数ではいずれにも非参加者との間に差はみられなかった。

LSまたはFAP患者における生殖の考慮事項

補助的生殖技術(ART)

子供に病原性多様体を遺伝させる可能性から、遺伝性大腸がん症候群に罹患している家系には、出産を避けるキャリアも出るほどの懸念が生じる場合がある。これらの懸念から、伝達リスクの低減に役立てるために出生前診断(PND)の利用を検討する人もいる。PNDは、胎児における遺伝学的障害の存在を評価するために実施される何らかの医学的手技を示す場合に用いられる包括的な用語である。方法としては、羊水穿刺および絨毛膜絨毛サンプリングなどがある。 [70] [71] いずれの方法も流産のリスクがわずかにある。 [70] [72] さらに、胎児ががんになりやすい多様体のキャリアであることが判明すると、両親は妊娠の継続または中絶に関する難しい意思決定を迫られる場合があり、専門家によるカウンセリングおよび支援がさらが必要となる可能性がある。

こうした検査に代わる方法としては、受精した胚について遺伝学的障害がないか子宮着床前に検査するために用いられる手技である着床前遺伝子診断(PGD)がある。 [73] [74] 遺伝子検査から得られる情報を利用して、妊娠を希望する両親は着床させるかどうかを決定できる。PGDは、APCなど、遺伝性がん素因遺伝子における病原性多様体を検出するために用いることができる。 [52] [58] [75]

現在までに発表されている限られた研究から、FAP、リンチ症候群、およびPJSに対するARTの使用について関心が寄せられているようである。 [52] [58] [76] [77] [78] しかしながら、実際の受診率は報告されていない。

表20.FAPa、リンチ症候群b、およびPJSaに対する補助的生殖技術(ART)の使用への態度、関心、または意思を評価した諸研究の要約

調査集団 参加人数 ARTへの関心または意思 解説
FAP = 家族性大腸腺腫症;GT = 遺伝子検査;LS = リンチ症候群;PGD = 着床前遺伝子診断;PJS = ポイツ・ジェガース症候群;PND = 出生前診断。